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第5話 魔王の元支配領域・ダークゾーン
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魔王は今でもそこにいる。
パラドックス――世界の中心にして、暗黒地帯。
ある日、突然現れた魔界なのである。
「ここへ来るのは久しぶりだな」
世界一頑丈な闇属性付きの船で、ここまでやって来た。
船旅は静かなもので、海に凄む水属性モンスターも特に……いや、少し現れたけど、敵の弱点を突けるネーブルがいるので、それほど脅威ではなかった。
「みんな、もう着くぞ……って、起きるわけないか」
みんな寝ていた。
それもそのはずだ。まだ夜明け前。
空はまだ闇に染まり、星々が輝いていた。
仕方ないので、ひとりで魔王のもとへ向かうことにした。
そっちの方がなにかと都合がいいからな。
◆
ソロで魔王を倒しに行ったとき以来に、暗黒地帯に足を着けた。
大地は真っ黒で自然は何も自生していない。
灰色の濃霧が漂い、視界が非常に悪い。
あと独特な瘴気は、常人ならば数秒で麻痺するだろう。となれば、たちまちモンスターに襲われ喰われてご臨終。
けれど、この程度ならば俺には無害も同然だった。
気にせず先へ進んでいく。
「相変わらず、ここだけはどんよりしてるな…………む?」
単純で、おかしな気配がする。
以前には感じなかった、奇妙奇天烈すぎる気配。これは……そうだ。あの時のクリーチャーのモノにそっくりだ。まさか、魔神の手の者が!?
三体ほどのクリーチャーの殺気が確認できた。
気配の察知と同時に、そいつらは弓らしきものを唐突に射ってきやがった。
「おっと、あぶねえ! つっても、こんなヘナチョコ当たらんけどな。――ほっと!!」
ダークエネルギーを展開し、濃霧に紛れているクリーチャーをとっ捕まえた。
「うああぁぁぁあ!!」「なぜだ、なぜ我々の位置が!!」「くそっ、霧に紛れていれば見つからないと思ったのだが……」
スキル『ダークスネア』に、拘束されている三体のクリーチャーがいた。
「なんだ、ゴブリンみたいなヤツだな~。お前ら、魔神の手下か?」
「話すわけないだろう! この下等生物が!」
「そうだ、我々はこのダークゾーンを乗っ取りになんて来ていないぞ!」
「この地をアトラス様への献上品とするのだ」
なるほど~。
二体のゴブリン(?)が勝手に喋ってくれた。
「そうと分かれば、もう用はないな」
トドメを刺そうと思ったのだが、霧の奥から更に何か出てきた。
しかも、ズシンズシンと大地を踏み鳴らしてきている。大きいな。
「――って、まさか」
「来た! 来てくれたぞ、我らがボスが!!」
ズシ~ンと現れたのは、巨大なゴブリン(?)だった。
でけ~…俺の身長の三倍以上はある。
「ボスとその取り巻きってところか。ところで、お前たちはゴブリンではないよな。色が違うし、あと気配も」
『ふはは……我々はボブリンだ。あんなザコ共と一緒にするなよ』
ボブリンの親玉は不敵に笑う。
そんな大差ないように思えるけどな。名前とかちょっと変わったくらいにしか思えん。
「分かった。混同はしないでおこう。で、そのボブリンがなぜこんなところに? 魔神のクリーチャーだろう」
「この場所は、魔神・アトラス様へ捧げるに相応しい場所だからな。我々が侵略している最中なのだよ!!」
ボスボブリンは手を広げた。
濃霧が晴れていくと、そこにはボブリンが数千体――いや、数万体はいた。
「うわっ……! なんて数だ」
「どうだ、驚いたか! 霧でよく見えなかっただろうが、我々、アトラス様の造りし、大軍勢のクリーチャーはすでに各地を襲い始めておるぞ! ガハハハハ!!」
こりゃあ、たまげたね。
まさか暗黒地帯に、こんなクリーチャーが大量に押し寄せていたなんて。けど、それはたいした問題ではない。もともと魔王に脅かされていた世界だ。どこの国も守りは固く、そう簡単には陥落しない。
ボスボブリンは話を続けた。
「どうした小僧……ビビって声も出ぬか!? それとも、死ぬのが怖いかァ!?
この大勢の敵を前に恐怖を感じただろう……そうだ、貴様たち人間は恐怖を感じ、怯えるしかない存在なのだ。恐怖心は、我々クリーチャーをより強い存在にさせる最高の食事。人間を喰うよりも効率がいいのだよ」
ニタリと笑うボブリンだったが、なるほど、情報は引き出せた。
「そうか、お前たちクリーチャーは『恐怖』を糧としているのか」
「そうとも! これから国を襲いまくって、人間の恐怖をたっぷり味わってくれる! そして、貴様の恐怖も骨の髄までしゃぶってやろう。さあ、行け!! お前たち!!」
数百のボブリンが走って向かってくる。
「お~向かってきた。けどな……俺の背後では、仲間たちが気持ちよく眠っているんだ。安眠を邪魔するんじゃねぇ――――!!!」
俺は、闇の極解放を広げ――剣を生成した。
「なにっ……闇が出てきたかと思いきや、剣!?」
「これはエクストラボスを倒した魔剣・エクスカイザーだ、くらいやがれえええ!!!」
「なんだと!?」
――と、見せかけて闇の極解放から、闇の雨を降らせた。
『ダークネス・アサルト!!!』
「な、なにいいいいい!!! 剣関係ねええええええんかーーーーーーーーーーーーーーーーい!!! ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ボブリンを全滅させた。
「いちいち剣なんて振り回してたら、キリがねぇってーの」
しっかし、ドロップアイテムがとんでもない数あるな。拾うのだるいので、『闇』で一括収集しておいた。
「クリーチャーは、レアアイテムを落としやがらないなー…」
モンスターの方がアイテムドロップ率は高かった。
思えば、モンスターも恋しいものだな。いるにはいるけど。
「さあて、魔王の城跡・パラドックスへ――」
そう前進しようとした、その時。
『こちらへ来る必要はないわ、ユメ』
優しい声が響いた。
懐かしくて、暖かくて、でも少し厳しい感じの――。
「まだいたんだな、母さん」
姿を現す魔王――その正体は、俺の母親だった。
それと、その隣には、姉と妹も。
そう、魔王は俺の『母』と『姉』と『妹』なのだ。
パラドックス――世界の中心にして、暗黒地帯。
ある日、突然現れた魔界なのである。
「ここへ来るのは久しぶりだな」
世界一頑丈な闇属性付きの船で、ここまでやって来た。
船旅は静かなもので、海に凄む水属性モンスターも特に……いや、少し現れたけど、敵の弱点を突けるネーブルがいるので、それほど脅威ではなかった。
「みんな、もう着くぞ……って、起きるわけないか」
みんな寝ていた。
それもそのはずだ。まだ夜明け前。
空はまだ闇に染まり、星々が輝いていた。
仕方ないので、ひとりで魔王のもとへ向かうことにした。
そっちの方がなにかと都合がいいからな。
◆
ソロで魔王を倒しに行ったとき以来に、暗黒地帯に足を着けた。
大地は真っ黒で自然は何も自生していない。
灰色の濃霧が漂い、視界が非常に悪い。
あと独特な瘴気は、常人ならば数秒で麻痺するだろう。となれば、たちまちモンスターに襲われ喰われてご臨終。
けれど、この程度ならば俺には無害も同然だった。
気にせず先へ進んでいく。
「相変わらず、ここだけはどんよりしてるな…………む?」
単純で、おかしな気配がする。
以前には感じなかった、奇妙奇天烈すぎる気配。これは……そうだ。あの時のクリーチャーのモノにそっくりだ。まさか、魔神の手の者が!?
三体ほどのクリーチャーの殺気が確認できた。
気配の察知と同時に、そいつらは弓らしきものを唐突に射ってきやがった。
「おっと、あぶねえ! つっても、こんなヘナチョコ当たらんけどな。――ほっと!!」
ダークエネルギーを展開し、濃霧に紛れているクリーチャーをとっ捕まえた。
「うああぁぁぁあ!!」「なぜだ、なぜ我々の位置が!!」「くそっ、霧に紛れていれば見つからないと思ったのだが……」
スキル『ダークスネア』に、拘束されている三体のクリーチャーがいた。
「なんだ、ゴブリンみたいなヤツだな~。お前ら、魔神の手下か?」
「話すわけないだろう! この下等生物が!」
「そうだ、我々はこのダークゾーンを乗っ取りになんて来ていないぞ!」
「この地をアトラス様への献上品とするのだ」
なるほど~。
二体のゴブリン(?)が勝手に喋ってくれた。
「そうと分かれば、もう用はないな」
トドメを刺そうと思ったのだが、霧の奥から更に何か出てきた。
しかも、ズシンズシンと大地を踏み鳴らしてきている。大きいな。
「――って、まさか」
「来た! 来てくれたぞ、我らがボスが!!」
ズシ~ンと現れたのは、巨大なゴブリン(?)だった。
でけ~…俺の身長の三倍以上はある。
「ボスとその取り巻きってところか。ところで、お前たちはゴブリンではないよな。色が違うし、あと気配も」
『ふはは……我々はボブリンだ。あんなザコ共と一緒にするなよ』
ボブリンの親玉は不敵に笑う。
そんな大差ないように思えるけどな。名前とかちょっと変わったくらいにしか思えん。
「分かった。混同はしないでおこう。で、そのボブリンがなぜこんなところに? 魔神のクリーチャーだろう」
「この場所は、魔神・アトラス様へ捧げるに相応しい場所だからな。我々が侵略している最中なのだよ!!」
ボスボブリンは手を広げた。
濃霧が晴れていくと、そこにはボブリンが数千体――いや、数万体はいた。
「うわっ……! なんて数だ」
「どうだ、驚いたか! 霧でよく見えなかっただろうが、我々、アトラス様の造りし、大軍勢のクリーチャーはすでに各地を襲い始めておるぞ! ガハハハハ!!」
こりゃあ、たまげたね。
まさか暗黒地帯に、こんなクリーチャーが大量に押し寄せていたなんて。けど、それはたいした問題ではない。もともと魔王に脅かされていた世界だ。どこの国も守りは固く、そう簡単には陥落しない。
ボスボブリンは話を続けた。
「どうした小僧……ビビって声も出ぬか!? それとも、死ぬのが怖いかァ!?
この大勢の敵を前に恐怖を感じただろう……そうだ、貴様たち人間は恐怖を感じ、怯えるしかない存在なのだ。恐怖心は、我々クリーチャーをより強い存在にさせる最高の食事。人間を喰うよりも効率がいいのだよ」
ニタリと笑うボブリンだったが、なるほど、情報は引き出せた。
「そうか、お前たちクリーチャーは『恐怖』を糧としているのか」
「そうとも! これから国を襲いまくって、人間の恐怖をたっぷり味わってくれる! そして、貴様の恐怖も骨の髄までしゃぶってやろう。さあ、行け!! お前たち!!」
数百のボブリンが走って向かってくる。
「お~向かってきた。けどな……俺の背後では、仲間たちが気持ちよく眠っているんだ。安眠を邪魔するんじゃねぇ――――!!!」
俺は、闇の極解放を広げ――剣を生成した。
「なにっ……闇が出てきたかと思いきや、剣!?」
「これはエクストラボスを倒した魔剣・エクスカイザーだ、くらいやがれえええ!!!」
「なんだと!?」
――と、見せかけて闇の極解放から、闇の雨を降らせた。
『ダークネス・アサルト!!!』
「な、なにいいいいい!!! 剣関係ねええええええんかーーーーーーーーーーーーーーーーい!!! ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ボブリンを全滅させた。
「いちいち剣なんて振り回してたら、キリがねぇってーの」
しっかし、ドロップアイテムがとんでもない数あるな。拾うのだるいので、『闇』で一括収集しておいた。
「クリーチャーは、レアアイテムを落としやがらないなー…」
モンスターの方がアイテムドロップ率は高かった。
思えば、モンスターも恋しいものだな。いるにはいるけど。
「さあて、魔王の城跡・パラドックスへ――」
そう前進しようとした、その時。
『こちらへ来る必要はないわ、ユメ』
優しい声が響いた。
懐かしくて、暖かくて、でも少し厳しい感じの――。
「まだいたんだな、母さん」
姿を現す魔王――その正体は、俺の母親だった。
それと、その隣には、姉と妹も。
そう、魔王は俺の『母』と『姉』と『妹』なのだ。
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