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第1話 さらば帝国

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 魔王を倒し――もとい『和解』を果たした元勇者・ユメこと俺は、風の帝国・キリエで仲間と共にまったりスローライフを送っていた。


 ここは俺の邸宅いえであり、帰るべき場所。
 まさかこんな広大な領地を与えられるだなんて、夢にも思わなかったけど、風の帝王・エレイソンの公認でお墨付きだ。


 ま――世界を平和にしたんだ、当然の報酬ほうしゅうだよな。


「ユメ~」


 そでを引っ張ってくる小さな魔法使いがいた。
 つやのある黒髪ショートヘアで、エメラルドグリーンの瞳が大変美しい。


「どうした、フォース」
「だっこ~」


 そう、フォースは甘えん坊だった。

 こうして抱っこを求めてきたり、くっついてきたり子供っぽい。けど、この異世界にやってきて初めて出会った大切な女の子であり、なにより、いざという時には頼れる世界一、いや宇宙一の最強の魔法使いなのだ。


「してやってもいいけど、前から限定だぜ」
「いいよ~」
「即答!? いいのかよ……!」
「別に。だって、ユメのこと大好きだもん」


 そう言われると、けっこう照れる。
 まあいいか、減るもんじゃないし。


 俺はフォースを前から抱っこした。これじゃ本当の親子みたいだ。


「ん~~~。ユメ~~~」


 スリスリしてくるフォースは、猫のようで可愛かった。
 俺は彼女に抱きつかれながら、家の中を歩いていく。すると、家事をしていたゼファと鉢合わせた。


「よぅ、ゼファ。洗濯か」
「はい。洗濯物がまっていましたので……あ、フォースちゃん。また、ユメ様にべったりくっついて……羨ましいです」


 ちょっぴり、しょんぼりするゼファ。


「なんだ、ゼファもこうして欲しいのか」
「もちろんです! わたくしにもして下さいませんか?」
「そりゃ、もちろん大歓迎だよ! むしろ、こちらから頼みたいほどだし」


 ゼファは世界唯一の『聖女』であり、聖職者プリースト
 そして、素晴らしいプロポーションの持ち主だった。なんというか、出ているところ出過ぎなほどに凹凸おうとつが激しい。


 さらに、あの世界一いや、宇宙一の美貌びぼう
 病的なまでに白い肌。白銀の髪(ロング)。

 すべて神の領域GODだった。


「本当ですか! では、フォースちゃんの後にお願いしますね♪」


 よっしゃあっ……!


 などと心の中でガッツポーズしていると、引き気味の視線が俺を見ていた。

 あの金髪ポニーテール風の髪型、吊り上がったツンデレ風味のするどい目つき、肌の露出が高く、謎の絵柄が入った黒シャツ、黒のホットパンツ姿の女の子は――。


「あ、ネーブル」
「うっす、ユメ。また、フォースとベッタリね。ていうか、わたしとの約束忘れないでよね。この後は、一緒に買い物へ行くんだからね!?」


 やや興奮気味に訴えてくるネーブルは、ちょっと焦っていた。
 どうしたんだろう。


「分かってるよ、ネーブル。ま、時間までまだあるし、もうしばらくはフォースと遊んでいるよ」


「了解。じゃ、わたしはトレーニングでもしてるかな~」


 と、ネーブルは習慣である鍛錬たんれんへ向かった。
 いやー…アイツ、十分に身が引き締まっているし、むっちゃ強いのにトレーニングする必要あるのか? でもま、習慣らしいから仕方ないか。


 くるっときびすを返す、ネーブルは外へ向かおうとしたが――


「まって。ネーブル」


 フォースが止めた。


「ん、どうしたの」
「外に複数の気配あり」


 そうフォースが何かを感じ取ると、玄関から『ドンドンドン!!』と扉を叩く激しい音がした。

「なんだ~? ずいぶんと乱暴だな」

 俺は、フォースを連れたまま向かった。


「ユメ、扉の向こうは風の帝国の騎士たち。殺気あり。気を付けて」
「なっ……なんだと」


 そんな、殺気だって?


 驚きつつ、俺は扉を開けた。すると……。


「お久しぶりです、ユメ殿。私はトルネード」
「なんだ、トルネードじゃないか。久しぶり」

 女騎士長のトルネードが固い表情でやってきた。それも、複数の騎士を連れて。
 なんだ……物騒だな。


「ユメ殿。申し訳ないが、大至急で宮廷へ来られよ。帝王様直々に話があるそうだ。いいか、大至急だ」


 警告するようにそれだけ言い残し、トルネードたちは去った。


「……はぁ? 話?」


 ◆


 今更なんの話があるというのか。
 世界を平和にしたし、もう脅威だってないはず。


 しぶしぶ宮廷に入り、帝王の登場を待った。


 しばらくすると、この風の帝国の主である、帝王が現れた。


「久しいな、勇者ユメよ。いや、今はか」
「ええ、俺はもう勇者ではありません。それで、ご用件とはなんですか」


「うむ、さっそくだが……帝国を出て行って欲しい」


 帝王はそう厳粛げんしゅくに発言した。


 ―――――――は?


 なんだって?



 帝国を出ていけ??


「な、なにをおっしゃっているか分かりません」
「では、もう一度言おう。風の帝国・キリエを去れ。ユメ、貴様は追放だ」


「……はぁ!? なぜです!! 俺はここで骨を埋めるつもりでいました! ここが俺の故郷です!」


「そうだな、だが……魔王はいなくなった。モンスターも以前のような怪物クラスは掃討され、今では非アクティブの人間を襲わないものだけとなった。なれば、もうお主らの防衛力は不要となった」


「だったら、いさせてくださっても!?」


「残念だが、お主らに与えている領地は広すぎた。あれを、たったの四人で占領されてはなぁ……不満に思う貴族もおるということだ。そして、なにより、闇を扱う勇者など置いていれば、魔の者と繋がりがあるのでは……と、民に疑われてしまう。
 それはちょっとまずい。ということだ……ユメよ、せめてもの慈悲だ。一日の猶予をやるので、出ていくのだ。よいな」

 くそっ……!
 どういうことだ、どうしてそうなった。今までなんの不自由もなく暮らせていたのに、ある日突然『追放』だって!? 馬鹿な。

 だが、帝王の目は本気だ。

 本気だが、その根底には何かひそんでいるような。

「…………帝王。本当に俺を追い出すつもりですか! いいんですか! また魔王のような恐ろしい存在が帝国を襲うかもしれませんよ!? その時、民は、この国はどうするんですか!! 誰が守るというのですか!!」

「我が帝国には、最強の風の騎士団がおる。……トルネード」
「――はっ。現在の戦力であれば、十分に脅威に立ち向かえるかと。兵も日々増強しておりますゆえ、防衛値も非常に良好でございます」

 そうトルネードは淡々と述べた。

「ならばもう勇者――いや、元・勇者は不要ということだ。
 ……さあ、出ていくがいい。立ち去らぬいうのなら、武力で貴様たちを追い払ってもいいのだぞ」

 複数の騎士たちが威圧してきた。

 だめだ……もう何を言っても無駄だ。

 衝突するくらいなら、俺はこの国を出ていく。ここで暴れても、俺が魔王になっちまうだけ。ま、それもいいかもしれないがな。けど、名誉を汚したくはない。


「お世話になりました」


 俺は軽く頭を下げ、宮廷を後にした。
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