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知り合いのトレジャーハンター

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 高校の授業はまだ再開していない。
 無人島での出来事が、連日ニュースで取り上げられ、大事件となっていたのだ。

 この事件は、学年主任・橘川が主犯とされ、大々的に報道された。

 ネット掲示板でも大炎上に近い状態で、特に橘川や倉島の情報が晒されまくっていた。恐ろしい世界だな、ネットは。


 そんな状態が一ヶ月は続いていた。


 そうか、あれから一ヶ月か。
 俺は無人島で女子十五人と暮らしていたというのにな。そのうち二人とは、数時間程度の関係だったけど。

 あれから、みんなはバラバラになった。
 最後に会った『織田 ヒカリ』と『織田 ルナ』は行方不明だ。理由は分からない。

 今のところ連絡が取れるのが天音、北上、千年世、リコ、大伊の五人だけだった。他は入院中だの、面会謝絶だの、引き籠っているだの……あまり良い情報は聞かない。


 近くのカフェへ移り、俺はコーヒーを味わった。


「……美味い。こんな美味いもんが、当たり前に飲めるとかな」
「そうだね。こんな甘々の飲み物が飲めるだなんて……幸せなことだね」

 スターライトバックスのトリプルチョコレートフラペチーノを本当に幸せそうに味わう天音。その隣で俺を見つめる北上。
 そういえば、北上は迷彩服だな。やっぱり、サバゲー女子なんだ。

「それで、北上さん。話ってなんだよ」
「ええ、学校は事件のせいで当分は再開しませんし、暇なんですよ」
「ほう?」

「そこで考えたんです。財宝探しにでも行かないかなと」
「――は?」

 まてまて。
 北上は今、なんと言った!?

 俺は耳を疑い過ぎて、北上の言ったことが信じられなかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ、北上さん。やっと本州に戻れたのに、逆戻り!? 馬鹿じゃないの!?」


 さすがの天音も声を荒げてキレていた。そりゃそうだ。せっかく日常に戻れたのに、わざわざ地獄へ戻る必要あるのかね。

 俺なんか、天音と北上と一緒に過ごせるだけで十分だというのに。


「大丈夫です。今度はちゃんと装備を整えて行きますから。それに、行方不明者がまだ残っているかも」
「政府の発表によれば、生存者は194名。内死亡が33名。行方不明が66名……らしい」

「一ヶ月経っても尚、行方不明者が66名もいるのですよ。きっと、どこかの島で生き永らえているのかも」

「そんな馬鹿な。俺たちの島はいろいろ流れ着いていたから、なんとかなったけどさ……他の島はどうか分からない」

 もうあの島にも生存者がいたとは思えなかったし。その気配はもなかった。大体、海上保安庁とかレスキュー隊が突入して、散々探し回ったらしいからな。

 もう俺たちの出る幕はないはずだ。


「それで、お宝探しか」
「いいではないですか。三人で山分けして大金持ちになるんです」

「大金持ちねぇ~」


 俺はあまり乗り気がしなかった。
 なにか嫌な予感がしたからだ。
 だけど、お金は必要だ。

 学校もやっていないし、バイトをしようにも……ニュースの影響で身バレとかリスクも高い。

 となると財宝を探す方がいいのかな。


「やっぱり乗り気ではなかったですよね」


 しゅんと落ち込む北上だが、分かりやすい演技を。なにかあるな。


「北上さん、なにを隠している」
「バレましたか。実は今日、知り合いのトレジャーハンターを呼んであるんです」

「「ト、トレジャーハンター!?」」

 俺も天音もビックリして声を上げた。


「どうぞ、来てください」


 北上が呼ぶと、その人物が後ろにいた。い、いつの間にいたんだ!?

 しかも、その顔には見覚えがあった。


「ま、まさか……大伊さん?」
「そ、そうよ。なにか文句ある?」
「いやないけど……」


 トレジャーハンターではないよな。
 ていうか、私服姿の大伊さん……すげぇ可愛いな。
 スカート短くて、いわゆる地雷系ファッションだ。意外すぎるって。


「まったく、北上さんってば冗談は止して」
「申し訳ありません。ちょっと場を盛り上げようとして」
「も~」

 なんだか二人は仲良さそうだな。

 俺の隣に大伊が座ったが――これはいったい、どういうことだ?


「ちょっと、北上さん。早坂くんが困ってるでしょ。詳しい説明を求む」


 天音が代わりにツッコんでくれた。


「ええ。大伊さんはこの一ヶ月の間に原付免許、小型特殊免許、船舶免許、危険物取扱者など様々な資格を取得したようです」

「マジかよ。すげぇな、大伊さん」

 思わず天音と共に拍手をしてしまった。
 本人は照れて俯いていた。可愛すぎかっ。

「つまり船に乗れるというわけです」
「……なるほど。って、まさか!!」
「大伊さんに操縦してもらい、宝島へ向かいます」

 んな無茶な!!
 しかも大伊さんも「え!? 嘘!?」みたいな表情で北上を見つめているし、本人に説明していなかったんかーい!

「あのな、北上さん。船はどうするんだよ」
「大丈夫です。知り合いの漁船を借りますから」
「ぎょ、漁船……」

 漁船で宝島まで向かうのか。んな無茶な。


「大伊さんはどうなの?」
「その、天音さん……私は正直、反対」

「「ほっ……」」

 俺も天音も大伊の言葉に安心した。


「だけど、お金持ちにはなりたいじゃん? 一生遊んで暮らせるお金があれば……みんなも助けられる」

「大伊さん、そのみんなって」

「ウチの篠山、大塚、野茂……千年世さんや桃瀬さんや琴吹さんたちのこと。私も含めて、だけど」

「どういうことだい?」

「私はこの一ヶ月、資格の取得に邁進していた。でも、それはあの出来事を少しでも薄めて忘れるためだった。でも、それは無理だった。病院へ行けば、みんなが放心状態で心が病んでいた。立ち直れない子が大半なの」


 みんなを助けたい一心で――だったのか。そこまで思ってくれていたとは。


「少し考えさせてくれ。結論を出すにはまだ早い」
「そうだね。とにかく私と北上さんは賛成。あとは早坂くんと天音さん次第だね」


 これは非常に難しい問題だ。
 さて……どうしたものかね。


 今日のところは解散となり、俺はこのことを家へ持ち帰ることにした。
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