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第56話 約束された勝者の槍

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 影でもない、本物のサフィラス伯爵は岩の前に倒れ込んでいる。ここで倒し、何もかもを終わらせる。


「レベル投げ:聖槍生成……!」


「……ぐっ! この吾輩わがはいの偉大な計画を理解出来んとは……所詮しょせんはレベル0の無能勇者か!! もういい、貴様の肉体を取り込んで融合してくれるわッ」


 ぎゅるぎゅると肉体を変形させていく伯爵。シャドーフォームを適用させたのだろう、おぞましい影のバケモノに変形した。

 なんて禍々まがまがしい……これは魔王に近しい力を感じる。だが、その域には達していない。言ってしまえば半端者。これは、勇者としての属性が俺に教えてくれているから、間違いない。


「……おっと、あぶねえ」


 黒い腕らしきモノが飛んでくる。
 俺は後退してそれを回避。

 地面が大きくえぐれ、土埃が舞う。かなりの威力だが、恐れる程ではない。更に飛び跳ねてくる影。


『死ねぇッ、勇者ァ!!』

「――ほっ、と! そんな攻撃は当たらねえ。レベル投げッ!」


 ドンッと伯爵の顔面に激突し、爆発する。
 だが、影の存在となったアイツにはそれほどダメージを与えられていないようだ。どうやら、シャドーフォーム状態になると、かなりの防御力が上がるようだな。



「……ぐ、小癪こしゃくな。……ん?」



 ふと、伯爵は崖の向こうに振り向く。
 するとニヤリと笑い、いきなり駆けだして行く。……ま、まさか、フルクを狙って!?

「てめええええッ!!」

「ふはははは……もう遅い!! 聖女フルクトゥアトの聖なる気配は感知し易いのだよ。聖女を喰ってやるさ、お前の目の前でな!!」


 行かせるかよ!!


 槍を即座に生成――


『聖槍・プリムスウィクトール!!!』


 全力で投げると、超高速で飛翔していき影を串刺しにする。



「ぐふぉあぁッ!? ――だ、だが、それでもぉぉぉ……」



 ヤロー!!

 気合で影を切り離しやがった。
 まるでトカゲだ……己の体の半分を捨て行ってしまった。マズイ、あの先にはフルクとマルガが!!


「かなり距離を離されている……走って追いかけるには……まてよ。俺には聖槍があるじゃないか!!」



 もう一度、聖槍・プリムスウィクトールをブン投げ――俺は槍を追いかけた。なんとか加速する前の槍に追いつき、その上へ飛び乗った。



 これで一瞬だぜ!!



 その通り、槍のスピードはマッハで飛んでいった。よくもまぁ振り落とされなかった。すげぇぜ俺!! なんて自画自賛している場合ではない。


 サフィラス伯爵が見えた。

 それとフルクとマルガも。


「な、なんですかアレ!!」
「サフィラス伯爵でしょう! わたくし達の方へ向かって来ています。逃げないと……む! あの銀色の光、槍の上に乗っているのは主様!?」


「え……アウルムさん!?」



 俺の存在に気付いたようだな。
 伯爵の方も振り向いて、焦っていた。


『な!! 槍に乗って来ただと!! アホかお前は!!』

「うるせええッ!! これで追いついた……そのまま貫いてやるよおおおおおお!! いけええええ、聖槍・プリムスウィクトール!!!」



『バカなぁ!!』



 最後の『AP』を振り絞り、俺はもうひとつ聖槍を生成した。銀を右手に掴み――全身全霊で放った。



『聖槍・プリムスウィクトール!!!』



 二本の槍がサフィラス伯爵の頭部と胴体を貫く。



『グオォォォォォォオォォアァァァァァァ…………ッ!!!』



 荒野フィールドに突っ込んでいく銀の光と黒い影は、ど真ん中で大爆発を起こす。破壊的な衝撃が広がって、荒野に大きな穴を形成した。


「うおッ、自分で放っておいて何だが、すげぇ爆風だ……フルク、マルガ!」


 飛ばされそうになっている二人を支えた。なんとか無事みたいだが、しかし、荒波となった衝撃波が何度も続く。

 やがてキノコ雲が出来て、その破壊力を誇示した。なんて威力だったんだ……やりすぎちまったな、俺。


「お、収まった、ですね」


 目をパチクリさせるフルクは、キョロキョロと周囲を伺う。マルガも同様に警戒する。けど、この分だとサフィラス伯爵はもう蘇生すらも出来ないだろう。


「やったのですかね、主様」

「あの威力だ、もう消滅しただろう」


 これで魔王であったのなら……あるいはあったかもしれん。だが、ヤツは魔王代理。そこまでの再生や蘇生能力はないはずだ。


「……邪悪な気配は感じられません。魔王軍の気配も消えました……ええ、我々の勝利で間違いなさそうです」


 と、フルクが感じ取ってくれたようだ。俺はMPもAPも使い果たしちまって分からんけど、そうか、やっと勝ったか。


「……ふぅ」


 くたっと地面に腰を下ろし、安堵した。

 やっと魔王を……代理だけど倒したんだ。



「お疲れ様です、主様」


 マルガが背後から抱きついてくる。
 嬉しそうだ。


「あっ、マルガさんずるい! アウルムさん、わたしも」


 フルクは前から。
 顔を赤くして幸せそうに。


 ……やっと、終わったんだ。
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