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第55話 勇者よ、魔王になれ

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 がけを目指すと、そこには……。


「あの戦場を見下している男……間違いない」


 気配を悟られないよう、ゆっくり近づいていく。幸い、こちらの存在は気づかれていない。このままヤツを仕留める。


 俺には、正々堂々なんて騎士道精神はない。というか、相手は魔王代理。卑怯もクソもあるか。しかも、俺は仮にもレベル0の勇者だ。言い訳にくらいしたっていいだろう?


 距離はあと少し。


「――聖槍、発動」


 ぼそっと、つぶやき構える。

 サフィラス伯爵は、なにかぶつぶつ言っている。


『くそ、くそッ! こちらの戦力、もう一万を切っただと……どうなっているんだ。なぜ、あの雑魚同然の村人共があんな力を持っている!? 聞いていないぞ!!』


 ギリギリと歯ぎしりが聞こえる。
 大変悔しそうに憤慨ふんがいしている。


 どうやら予想外だったような。


 よし、今だ。トドメを刺す――!!




『聖槍・プリムスウィクトール!!!』




 妥協も容赦ようしゃもなく、俺は全力で銀の槍を穿うがつ。これで全てを終わりにして、今度こそ真の平和を取り戻す。



 これで……!!!


 あと数センチで槍がサフィラス伯爵の胴体に達しようとしたが――


「……!!」


 伯爵は闇によって守れた。

 シャドーフォームの幻影かッ!!


「なッ、勇者貴様!! ……焦ったぞ。念の為とシャドーフォームをセットしておいて良かった……。代償としてかなりの魔力を消費してしまったが、まあいい……命あっての物種だ。それにしても、勇者のクセして卑怯だぞ」


「どの口が言う!! お前に言われたかねぇよ。こんな三万規模で奇襲しておいて……もう許さねえぞ」


 意外な事に、サフィラス伯爵は冷静で冷徹な表情で、こちらへ歩み寄って来る。殺気がない……コイツ。


「アウルム・キルクルス……吾輩わがはいがただこの崖で戦況を見守っていたと思うかね」

「どういう意味だ」


「勇者よ、お前が魔王になれ。なるというのなら、吾輩は喜んでこの身を差し出そう。殺すも良し、生かすも良し……好きにすればいい」


「なんだと……己の命が惜しくないのか!」


「惜しくなどないよ。吾輩の目的は、次期魔王を生み出す事だ……それさえ叶えば命など安いモノだ。いいかね、勇者……世界には神でも勇者でもなく――魔王が必要なのだよ。さあ、世界の平和を必要とするのなら、お前が魔王となれ。それか強欲に勇者と魔王……両方を名乗ってもいいし、そうだな――勇魔王と名乗るのはどうかね。まぁ、ネーミングは任せるがね」


 なんだ、コイツ。
 ふざけてんのか……。
 なにが魔王になれ、だ。



「悪いな、伯爵。俺はレベル0・・・・の勇者・・・なんだ……お前の口車に乗ってやる義理はねぇよ!! レベル投げえええええッ!!!」



 魔王になるつもりはない。
 俺は俺だ。

 勇者だとか神だとか魔王だとか、どうでもいい。俺が欲しいのは、あのEXダンジョンと……大切な仲間だけだ。


「ぐぉぉおぉぉぉおッ!!」


 俺の『レベル投げ』が直撃し、伯爵は吹き飛び大岩に激突する。どうやら、あれは本物の肉体らしいな。次で終わりだ……!
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