上 下
3 / 10

第3話 精霊猫・ニキシーと旅立ち

しおりを挟む
「教えてくれ、猫」
「ニキシーです」
「ニキシー、その“呪い”について詳細を教えてくれ」

 聞くとニキシーは、かなり真剣な――いや、劇画顔になった。なぜッ!?

「それは……」
「それは……?」

「わかりませ~ん」

 俺はその場でズッコけた。なんで分かんねえんだよォ!? てか、呪いということは分かっているのに、詳細は分からんとはナンダソレ。

「まあいい……そもそも、お前は何者だ?」
「ボクは精霊です。猫の姿は可愛いからです!」
「なるほどね。精霊に会うはこれが初めてだ。でも、なぜ村長の家に住み着いているんだ? 捨てられたのか?」

「失礼な。ボクはお腹が空いて……いえ、深手を負ってクリーミー様に助けてもらったんです」

 空腹で倒れていたところを助けられた――と。把握した。
 猫と話す、なんだか奇妙な気分だが……精霊という上位存在なら仕方ないか。

 その後、会話を終えて俺は部屋へ向かった。

 今晩の寝床へ向かうと、そこにはクリーミーの姿があった。

「――うおッ! クリーミー! なぜここに!」
「ここは私の部屋だからです。お待ちしておりましたよ、アウレア様」
「ちょ、え……。まさか一緒の部屋だったの!?」
「はい。今日は全力で添い寝させていただきますっ!」
「そ、添い寝って……本当に添い寝だけ?」
「もちろん、この身を捧げる覚悟ですっ!」

 興奮気味にクリーミーは言った。マジかよ!!
 ついに俺に春が訪れた!?
 そりゃ、こんな美人のお嬢さんと一晩を過ごせるとか夢のようだ。しかしなぁ……いいのかなぁ。俺はたいしたことはしていない気がするのだが。
 それに、彼女が俺の運命の人なのかどうか分からない。
 正直、今“好き”って気持ちは湧かなかった。

 う~~~ん……。

 やっぱりちゃんと恋愛をしてから、そういうことをしたいような――でも、このチャンスを逃したら二度とないような。悩ましいゾ。

「……」
「アウレア様、まさか私ではご不満なのでしょうか……」

 しゅんとしょげてしまうクリーミー。そういうわけではない。彼女は美しく、胸も大きい。スタイルも抜群。でも、彼女の中には元恋人の存在がいるはずだ。そこに俺がズカズカと入っていいものか……。

「クリーミー、俺は……」
「一晩でいいのです。アウレア様に抱いていただきたい……」

「…………ッッ!」

 欲望に負けた俺は、クリーミーと一晩を過ごすことにした……!


 うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ…………ふぅ。


 ――翌朝。


 ベッドから起床して俺は準備を整えた。出発だ。


「……お待ちを、アウレア様」
「すまん、起こしてしまったか」
「昨晩はありがとうございました」

 ほぼ全裸のクリーミーはシーツで自身を包んだ。頬を赤くし、俺を見つめる。……ああ、そうだった。俺は彼女と楽しい楽しい一晩を過ごしたのだった。

「俺は旅立つ。この能力の謎と呪いを解く為に……」
「分かりました。でも、また気が向いたらこの村に立ち寄ってください。それと、もし将来の相手が見つからなければ……私に声を掛けてください。お待ちしております」

 できれば彼女を連れていきたい。
 だが彼女は一般人だ。
 なんのスキルも持たない、か弱い乙女だ。
 これから俺が進む道は、危険で過酷。連れていけばきっと命を落とすだろう。

「ありがとう、クリーミー」
「あ……そうです!」

 思い出したかのように彼女は微笑んだ。

「ん?」
「代わりと言ってはなんですが、ニキシーを連れていってあげてください」
「なんだって?」
「あのコは精霊です。きっと役に立つかと」
「いいのか……」
「はい。ちょっと寂しいですけど……あなたの旅に役立てるのなら」
「助かるよ」

 俺はせめてもの好意を受け取ることにした。ここで拒否れば、それこそ彼女に申し訳がたたない。ここまで良くしてもらったからな。
 それに、猫の一匹くらいなら何とかなるだろう。アイツは精霊でいろいろサポートしてくれそうなのは事実だ。

 玄関でニキシーを拾った。


「よろしく、猫」
「だから、ニキシーですってば」
「分かった分かった」


 クリーミーと抱き合い、そして別れた。
 根性の別れではない。
 きっと、また、会えるさ。


 * * *


 隣の村を去り、俺は再び草原を疾走していく。

 今日は快晴なり。最高の風。最高のロケーション。なんて壮大で美しい世界なんだ。俺はこんな世界を見たことがない。
 ずっと村で引きこもっていたからだ。

 この世界のどこかに俺の謎を解き明かす方法があるはず。

 ……そうだ。

「帝国へ向かいましょう、アウレアさん」
「って、俺の心を読むなッ」
「精霊ですから」
「なぜドヤ顔。まあいい、そうだな……帝国を目指そう。あそこには様々な人種。職業。パーティやギルド……コロシアムもあるという」

「帝国はヤバいですからね!」
「まあな。俺は一度も行ったことないけどな」
「そうしたか。この場所から歩いて一か月というところですね」
「ほう……。一か月かぁ。って、一か月も掛かるの!?」
「さすがに徒歩では……」

 しまったなぁ。ということは馬とか乗り物が必要か。それとも気長に行くか。そう考えていると近くで叫び声がした。


「きゃああああああああああ!!」


 この声は女性の!
 よし、俺の出番だな。


「俺の目的はレベルダウンの解明だが、人助けもする。最底辺の俺が成り上がるためにな」
「いいですね。そういうのはアリだと思います! このボクも全力でサポートいたします」

 やるべきことは決まった。
 今は女性を助ける!
 それが最優先事項だ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...