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ニセモノの婚約指輪
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ニセモノの婚約。
ニセモノの同棲生活が始まった。
ヘルボルス帝国の南にあるイベリスの別荘。そこで、わたしと彼は住み始めていた。
「別荘っていうか、お店ですね」
「仕方ないだろう、プリムラ。僕は商人なんだから」
「そうでしたね。ところで、イベリスはどんな商品を扱っているのです?」
気になって聞いてみると、イベリスは得意気な顔で取り扱っている品々を教えてくれた。
「まずはこれさ」
「まあ、綺麗。宝石ね」
「そう。僕は宝石を専門に扱う。特にこの『パライバトルマリン』はとても希少で高価なんだよ」
手袋をして指輪を摘まんで見せてくれるイベリス。それはとても色鮮やかな青色をした宝石だった。まるで澄み切った青海のよう。なんて透明度。美しい。
「なんて魅力的な宝石なのでしょう」
「人々を魅了するこのパライバトルマリンは、帝国の象徴であり、魔力の源でもあるんだよ」
「魔力の?」
「うん。魔術師や錬金術師が欲しがるんだよ。なにより、ヘルボルス帝国がこの宝石を欲しがる。だからね、僕の一族はこのパライバトルマリンを掘り当て、莫大な富を生んだんだ」
「へえ、そんな歴史があったなんて――」
感心していると、お店の扉が強く開いた。
誰かがズカズカと入ってきて、怖い顔でイベリスの前に立った。
あの太ましい女性……まさか。
「イベリス! どうして、私を捨てたの!!」
「ア……アンナ、どうして僕のお店が分かった!?」
「お父様の聞いたの! さあ、私と結婚してちょうだい!」
「す、すまないが……僕にはすでに婚約者がいるんだ。彼女だ」
「なんですって!?」
ギョロっとした眼でわたしを睨むアンナという女性。怪物のように迫力満点で威圧感に負けそうだった。けれど、わたしは公爵令嬢。常に冷静でいなければ。
そうだ。
わたしとイベリスは、ニセモノの関係ではあるけど婚約を交わしている。わたしも彼も“平穏”を望んでいる。故に生活の邪魔をする者は排除しなければならない。
気持ちを落ち着かせ、気丈に振る舞う。
「イベリスの言う通りです。わたしは彼と婚約してるのですよ。それにほら『パライバトルマリン』の指輪だってあるんです」
先ほどの指輪をこっそり嵌めていた。
イベリスは『いつの間に!?』と驚いていたけど、この状況だから仕方ない。
「……そ、それは! そんな、そんなの嘘よ! パライバトルマリンなんて、こんな芋臭い田舎令嬢が買えるわけないでしょ!!!」
「失礼ですね。わたしは公爵令嬢です」
「……こ、公爵……令嬢!?」
イベリスに確認するアンナ。彼は即頷いた。
「アンナ、彼女……プリムラは、間違いなくセイロンライティア公爵の娘だよ」
「セ、セイロンライティア公爵!? あ、あの……ヘンタイ公爵の!」
ヘンタイとは失礼ね。
お父様は、ちょっと変わっているだけよ。
「さっさと出て行ってください。衛兵を呼びますよ」
「ぐっ……今日のところはこれくらいにしておくわ! でもね、諦めないからねッ!」
そんな捨て台詞を残し、アンナは店から去った。……また来る気?
ニセモノの同棲生活が始まった。
ヘルボルス帝国の南にあるイベリスの別荘。そこで、わたしと彼は住み始めていた。
「別荘っていうか、お店ですね」
「仕方ないだろう、プリムラ。僕は商人なんだから」
「そうでしたね。ところで、イベリスはどんな商品を扱っているのです?」
気になって聞いてみると、イベリスは得意気な顔で取り扱っている品々を教えてくれた。
「まずはこれさ」
「まあ、綺麗。宝石ね」
「そう。僕は宝石を専門に扱う。特にこの『パライバトルマリン』はとても希少で高価なんだよ」
手袋をして指輪を摘まんで見せてくれるイベリス。それはとても色鮮やかな青色をした宝石だった。まるで澄み切った青海のよう。なんて透明度。美しい。
「なんて魅力的な宝石なのでしょう」
「人々を魅了するこのパライバトルマリンは、帝国の象徴であり、魔力の源でもあるんだよ」
「魔力の?」
「うん。魔術師や錬金術師が欲しがるんだよ。なにより、ヘルボルス帝国がこの宝石を欲しがる。だからね、僕の一族はこのパライバトルマリンを掘り当て、莫大な富を生んだんだ」
「へえ、そんな歴史があったなんて――」
感心していると、お店の扉が強く開いた。
誰かがズカズカと入ってきて、怖い顔でイベリスの前に立った。
あの太ましい女性……まさか。
「イベリス! どうして、私を捨てたの!!」
「ア……アンナ、どうして僕のお店が分かった!?」
「お父様の聞いたの! さあ、私と結婚してちょうだい!」
「す、すまないが……僕にはすでに婚約者がいるんだ。彼女だ」
「なんですって!?」
ギョロっとした眼でわたしを睨むアンナという女性。怪物のように迫力満点で威圧感に負けそうだった。けれど、わたしは公爵令嬢。常に冷静でいなければ。
そうだ。
わたしとイベリスは、ニセモノの関係ではあるけど婚約を交わしている。わたしも彼も“平穏”を望んでいる。故に生活の邪魔をする者は排除しなければならない。
気持ちを落ち着かせ、気丈に振る舞う。
「イベリスの言う通りです。わたしは彼と婚約してるのですよ。それにほら『パライバトルマリン』の指輪だってあるんです」
先ほどの指輪をこっそり嵌めていた。
イベリスは『いつの間に!?』と驚いていたけど、この状況だから仕方ない。
「……そ、それは! そんな、そんなの嘘よ! パライバトルマリンなんて、こんな芋臭い田舎令嬢が買えるわけないでしょ!!!」
「失礼ですね。わたしは公爵令嬢です」
「……こ、公爵……令嬢!?」
イベリスに確認するアンナ。彼は即頷いた。
「アンナ、彼女……プリムラは、間違いなくセイロンライティア公爵の娘だよ」
「セ、セイロンライティア公爵!? あ、あの……ヘンタイ公爵の!」
ヘンタイとは失礼ね。
お父様は、ちょっと変わっているだけよ。
「さっさと出て行ってください。衛兵を呼びますよ」
「ぐっ……今日のところはこれくらいにしておくわ! でもね、諦めないからねッ!」
そんな捨て台詞を残し、アンナは店から去った。……また来る気?
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