上 下
8 / 8

◆またまた怪しいバイト

しおりを挟む
 冷静を失い、感情のままに剣を打ちつけてくる入江。
 これでは、ただの暴力だ。

「てやッ!!」

 俺は剣で応戦する。
 入江もそれなりの動きで防御した。
 一応、口だけではない。

 レベルもステータスもそれなりに高い。

 だけど、俺には及ばない。


「くそ、くそ、くそがッ!!」


 ガンガン打ちつけてくるが、それだけだ。

 けれど、油断していると剣が弾かれた。


「……!」

「先輩さぁん!! これで武器が無くなったな。おしまいだァ!!」


 ニヤッと笑う入江だが、俺は直ぐに『祝福のダガーナイフ』に持ち替えた。

 レベルアップしている今の俺になら、これを扱える。


「これでも食らえ!!」


 思いっきり振りかぶると、二回攻撃の斬撃が入江のボディに命中。


「がはあああああああああッ」


 思いっきり吹き飛んで柵に背中を打ちつけていた。
 これにより――。


【Winner:Maxwellマクスウェル


 マクスウェルというのは、俺のキャラネームだ。
 ということは勝利だな。


「お疲れ様です、兄様」
「おう。なんとか勝った」
「もう祝福のダガーナイフを扱えるレベルに到達していたとは……さすがです」

「いけるか微妙だったけど、ギリギリ足りたらしい」


 入江の方は……うん、気絶しているだけらしい。
 ケガとかはないようだし、あのまま放置しておくか。

 もう昼休みも終わるしな。


「戻りましょうか」
「そうだな。ヤツは気づいたら勝手に戻るだろ」


 * * *


 途中で知花と別れ、教室へ戻った。
 代り映えのしない普通の授業が続く。


 そうして放課後。


 チャイムが鳴ると共に通知が入った。
 知花からだ。


【知花:そちらへ向かいます】
【大:俺の方から迎えに行くのに】
【知花:いえいえ、これくらいはさせて下さい」
【大:分かった。待ってる】


 俺はずっと知花と遠ざけていたのにな。
 それなのに、今は知花が俺に近づいてくれている。申し訳ない気持ちも湧き出た。だけど、これからが肝心だ。

 もっと親密になって、よりよい生活を続けていきたい。


 しばらくして知花がやってきた。
 俺も廊下へ出て合流。


「帰りましょう、兄様」
「あぁ、そうだな」


 微笑み合って、廊下を歩きだす。

 学校を出れば夕焼け空が広がる。


「今日はご飯、何にしましょうか」
「知花の好きな料理にするよ。なにがいい?」
「ん~、そうですね。カレーですかね」


 そういえば、知花はカレーが好きだったな。
 よし、スーパーへ寄って食材を買っていくか。

 しかし、その前に東雲さんのところへ寄らないとな。


「それじゃ、まずはビルへ行こうか」
「あ、そうでしたね、分かりました」


 静内駅の方面へ向かい、例のビルへ。
 相変わらずビルっていうか寂れた探偵事務所みたいな場所だ。

 呼び鈴を鳴らし、しばらくするとロック解除の反応があった。


「いつもカギ掛けてるんだな」
「SFOの情報漏洩を避けたいらしいです」
「それもそうか。まだ正式サービスすら始まっていないしな」


 中へ入ると、椅子に座ってキセルを吹かす東雲さんの姿があった。
 俺たちに築くと眼鏡を外し、鋭い目つきを向けた。


「ようこそ、佐藤くん。それに知花」


「言われた通りに来ましたよ、東雲さん。で、用件とは?」
「うむ。もちろん、SFOのことさ」
「クエストです?」

「いいや、バイト・・・。今夜出現するボスモンスターに挑んでみて欲しくてね」
「ボスモンスターですか?」

「ああ、まだプロトタイプ……試作モンスターでね。運営の『PROMPTプロンプト』が私に頼んで来たんだ。だが、そんな暇がなくてね、二人にお願いしたい」


 そういうことか。
 つまり、俺たちに実験台になって欲しいと。


「でも、そのボスモンスターに負けてデスペナルティとか嫌ですよ」


 知花が本当に嫌そう言う。


「大丈夫だ、試作モンスターに関しては敗北しようともデスペナルティはない。ただのテストだからね。
 テストを受けてくれたら、特別報酬として膨大な経験値とベル、アイテムを出す」


「どうします、兄様」


 選択権は俺に委ねられた。
 報酬も出るならいいか。

 俺は承諾した。


「受けますよ。どこへ行けばいいんです?」
「ありがとう。出現ポイントは『古川両岸緑地公園』だ」

「昨日と一緒のところか。分かりました。では行ってきます」

「出現時間は二十時ジャストだぞ」
「時間指定があるんですね」
「当然だ。レイドボスだから、そういうことになる」


 レイドなのかよ。
 嫌な予感しかしないぞ。


 俺と知花は、東雲さんのビルを後にする。時間があるからスーパーへ寄っていった。

 それから、アパートへ。

 残り時間は二時間ほど。

 先に飯を食うか。


「兄様……あの」
「どうした、知花」

「今日はありがとうございました。屋上で」
「ああ……あれくらい、たいしたことないさ」
「とても嬉しかったです。わたし、兄様と一緒にいたいから……」

「お、おう」

 あまりに可愛い笑みを向けられ、俺は照れた。
 そうだな、俺も知花と一緒にいたい。

 他の男になんて取られたくない。

 もっともっと俺は強くなりたい。
 知花を守れるような男に。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...