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金の宝箱と聖女

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 鉄製チェーンを解除する俺。
 石のように沈黙するナハトは、黙ったまま立ち上がって殺気を消した。

「どうした、急に口数が減ったな」
「……ラスティ。俺にはお前の連れのような『聖女』がいた」

「なんだって……?」

「だが、彼女は消えてしまった。何者かが『新約・世界聖書ウルガタ』を使用したせいで……」


 新約・世界聖書ウルガタで……?

 そんなことがあったのか。
 しかし、そんな効果があったのか。
 新約版は、法律だけを定める聖書ではないということか。やはり、スコルの持つ世界聖書ウルガタと同じく、なにかしらのスキルを発動できるらしい。

 だとすれば、それを使用した人物とは……?


「分かった。なにか情報が得られれば直ぐに共有する。それでいいか?」
「本当か……!」

「ああ。俺は皇帝だ。常にいろんな情報が入ってくるのさ」
「なるほど。言われてみればそうだ。……解かった。ラスティ、今はお前を信じる」


 少し諦めたような表情でナハトは、左手を地面へ向けた。トレジャーハンドを発動すると『金の宝箱』が五個、十個、ニ十個とどんどん増えていった。

 最終的に上限の百個の宝箱が庭に置かれた。す、すごい光景だぞ、これは。

 あのゴールドダンジョンと大差がない。


「こ、これは……?」
「この中に木材が入っている。全部使っていい」

「マジか!」


 試しにひとつ開封してみると、中には『木材×100000』が入っていた。百個の宝箱があるから『10,000,000』分の木材があるってことだ。

 とんでもねえ数だ……!

 さすがキコリというか、そんなに伐採ばっさいしていたのか。逆にすげえな。


 いやしかし、これだけの木材があれば……バカ兄貴たちがやらかした建物を修理できるぞ。無人島開発スキルでな――!


 ◆


 俺は直ぐに行動へ移した。
 住民たちの声を聞き、必要な建物を修理。壊れないように強化した。

 ドヴォルザーク帝国の各地を歩いては、無人島開発スキルで直しまくった。だが、一日では不可能だ。

 結局、一週間も掛かってしまった。



 ほぼ全部の建物を修復完了した。



 スターバトマーテル城で俺はしばらく休憩。
 蓄積ちくせきしまくった疲労を浴場で回復させていた。


「――ふぅ、いいお湯だ」


 久しぶりの大浴場。だだっ広い浴槽フロに俺は半身浸かって、日ごろの疲労を癒していた。

 ……はずだった。


「し、失礼します! ラスティさん!」


 急に声がして俺は振り向いた。


「ス、スコルぅ!?」


 そこにはバスタオルを巻いたスコルの姿があった。な、なんだと……! いや、過去にも何度もあった気がするけど、風呂に入られるのは久しぶりだな。


「えへへ、来ちゃいました」


 しかも、すでにシャワーを浴びているようだった。気配にまったく気づかなかった。……疲れているのかな、俺。

 けど、嬉しいな。
 こうして自ら来てくれるとは。

 隣にスコルが入ってきた。
 しかもバスタオルを取って入浴。俺は瞬間で天井を向いた。

 ……ちょ、ちょぉ!?

 心の準備がまったくできていなかったぞ!

 心臓がバクバクしている。

 さてはて、どうしたものか……。


「た、建物が直ってよかったよ」
「そうですね。ドヴォルザーク帝国の皆さん、喜んでました!」


 そのせいか、民からの支持が絶大となってしまった。これでは俺は、簡単に皇帝を降りられないな。本当は誰かに席を譲るつもりだったんだけどなぁ……。
 しかし、帝国は故郷でもある。見捨てるなんてマネはできないな。

 この国を正常にし、立て直さなければならない。

 あと残る問題は、クラウスとディミトリーか。

 今もなお、世界規模の偽者討伐は続いている。あれから、かなり撃破されていると報告を受けていた。

 そろそろ、世界ギルドへ向かい聞いてみるか。
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