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第377話 賽は投げられた - ヤクタ・アーレア・エスト -

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「――そうか、お前の正体は……」


 仮面をぎ取ると、見覚えのある男の顔があった。まさか、コイツだったとはな……なんであの図体とかで気づかなかったんだ俺。


「コイツは、トニトゥルスだ」


 ぼむぼむが男の名を口にした。

 俺とメサイアが以前『ぼったくりバー・えんじょい』にて出会った男だった。全身に傷があって、体格も大きい。とはいえ、普通の巨人族よりは背が低い。2.5メートルあるかないか。それでも十分にデカイけどな。


 トニトゥルスと会って以来、いろいろあったし……完全に失念していたぜ。


「トニトゥルス……どうして気づかなかったんだ、俺……」
「なんだ、サトル、トニトゥルスと会った事が?」

「ああ……一度だけ。メサイアと飲みにいった時に会ってる。その時は気さくな人だとは思ったんだが……まさか世界ギルドのメンバーで裏切者だったとはな」


 やられたぜ。
 敵に酒を奢られていたとはな……。


「サトルさん、どうしますか?」


 リースが心配そうに俺を見つめる。
 やるべき事は分かっている。トニトゥルスから情報を聞き出し、ぼむぼむに渡す。そして、報酬を戴く。


「ぼむぼむ、トニトゥルスを起こす」
「分かった、やってくれ」


「リース、風属性魔法で叩き起こしてくれ」


 俺が指示すると、リースは無詠唱でサンダーボルトを容赦ようしゃなく落とす。ピカッと光るや否や、トニトゥルスをビリビリにしてやった。


「うぎゃああああああッ!!」


 飛び起きるトニトゥルスは、キョロキョロと周囲を見渡し――ようやく状況を理解したようだ。


「こ、ここはどこだ!? なぜ私はこんな場所に……世界ギルドか……! む、仮面が……! ちくしょう! サトル、ぼむぼむ……よくぞ私の正体を見破った」


「やっぱりお前が」


「そうさ。私は世界ギルドのメンバーだった。裏切った理由は前の通り……最初から天帝様の味方だけの事さ」


「そうか……ひとつ教えろ。天帝は【死の要塞国・デイ】にいるんだな? 間違いないな?」


 俺がくと、不気味に笑うトニトゥルス。次第に腹を抱えて爆笑していた。馬鹿にしてんのか……!!



「フフフフフフ、フハハハハハハハハ……!! サトルよ、お前は何も分かっちゃいない!! 世界はとっくに天帝様のモノなんだよ!! 彼こそが神!! 万物の神!! ありとあらゆるものを司る神!! 唯一絶対神なのだよ!! それを何故お前は理解しようとしない! 聞いたぞ、サトル! お前は『理』なのだろう!? ならば目をらすな! 天を仰ぎ、理解しろ! ほうぅら、天帝様の偉大な力が降り注いでくるだろう……!?」


 だめだ、コイツはイカれてやがる。


 話にならん。



「もういい……トニトゥルスお前を――」



「ぎゃああああああああああああ、アババババババババ~~~~~~ッ!!!」



 急にトニトゥルスはビリビリ~っと全身に雷が走って、ぷすぷすと煙を上げた。……って、これリースの大魔法じゃん。


「ごめんなさい、サトルさん。意味分からなかったので!」
「ああ、いいよ。どうせ俺もトニトゥルスを眠らせるつもりだったし、手間が省けたよ、ありがとなリース」

「い、いえ……」


 俺はリースの頭をでた。


 さて、男を引き渡す。


「ぼむぼむ、報酬くれ」
「あ、あぁ……裏切者のトニトゥルスは捕らえた。見事だったな、サトル。その功績を認め、報酬は3,000,000セルだ」


 ドサッとセルリアン金貨を渡され、俺は一気にテンションが上がる。久々の金貨きたー!!


「ありがたく受け取っておくぜ、ぼむぼむ」
「サトル、よくぞやってくれた。これから、世界ギルドはこのトニトゥルスを取り調べた後、監獄送りにするだろう。そして、エロスにいる『円卓の騎士』と『グランドクロス』と合流する。分かっているな?」


 そうか。もう、ぼむぼむにも連絡がいっているらしい。やるべき事はもう決まっているってワケだ。


「分かった。プランの通りに行こう」


 リースの手を取り、俺は部屋を後にしようとする。背後から、ぼむぼむが鋭い口調でこう言った。


「作戦名は――賽は投げられたヤクタ・アーレア・エスト、だ」



 ◆


 世界ギルドを出て、レメディオスの中央噴水広場へ。世界一の美少女エルフ・リースを連れてあるくと目立つ目立つ。そもそも、彼女も世界ギルドのメンバーでもある。知名度は抜群だった。


「リース、ちょっと休憩きゅうけいしてからでも遅くはない。ここ座ろうか」
「はい」


 ベンチに座ると、リースが自らの意思で俺のひざの上にちょこんと乗ってきた。まさかの行動に驚く。


「……いいのか」
「……だって、最近、あんまりサトルさんと二人きりになれなかったですし」


 うつむいて赤面するリース。そう切なそうにされると、俺もたまらなかった。……そうだな、思えばリースは気絶とかしていたし。


「分かった。少しイチャイチャすっか」
「嬉しいです♪ ぎゅっとしてくれませんか?」

「いいよ」


 小さなリースの体を抱きしめ、エルフのもちもちの感触を味わった。やっぱり、エルフ最高の抱き心地だなぁ……癒されるし、柑橘かんきつ系の匂いも最高だ。


「はぅ……」
「どうした、リース。くすぐったい?」

「その、お外ですから……他の冒険者が見ています。はずかしい……」


 今更ながら野次馬が出来ていた。
 こう数十人から注目されると居心地が悪いな。そろそろ、メサイア達のところへ戻るか――と、立ち上がろうとしたその時だった。


「あ~、リースママー!」


 ――え。

 この声、まさか……。


 黒い髪がサラサラと風でなびく。

 白い肌は宝石のようにまぶしい。

 赤い瞳はリースを見ていた。



「あ……ネメシア」
「あ……ネメシアちゃん」


 俺とリースは、その女の子の名を同時に口にする。ネメシアは、リースを認め。けれど、俺には「?」を浮かべていた。


 そうだった。
 この男の姿は初めて・・・だった……!!
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