輝くは七色の橋

あず

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第24話 パーティーを組んでみましょう

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第24話 パーティーを組んでみましょう
レディカの国王様をゴデチアの温泉旅館に誘致してから1週間後。ゴデチアは色を取り戻す前の経営難など吹っ飛ぶかのような盛況ぶりでマルーンさんはもこもこの髭を揺らしながら"ひぇ~"と嬉しい悲鳴をあげていた。私とマレーも手伝おうかと声を掛けたが、イコリスさんやミロクさんからはもう大丈夫だから、お客様はゆっくりしてて!と怒られてしまい、私たちはゴデチアから次なる都市の色の解放に向けて情報収集をすることになった。
 まずラケナリアの酒場に行ってヘリコニアについての情報を集めようとしていると、「今夜はステージで情報屋の踊り子が踊るみたいだぞ!」と声を掛け合って急いで酒場に入っていく若者がいたので、私とマレーは顔を見合わせると直ぐに酒場に入った。するとちょうどよくバイオリンの音色と共に優雅に踊るサーシャさんの姿があった。
 バイオリンを奏でているのはサーシャの仲間であるアメリアだ。彼女のバイオリンの腕も上がっているように感じる。踊り子の仕事が終わるとサーシャさんと私は目があった。最後にウインクまでしてステージから去ると、私は苦笑いをして、サーシャさんたちは私たちの席までやって来ると周りからは好奇の目に晒された。
「2人とも久しぶりね。ゴデチアの解放後に国王様を温泉旅館に誘致したんでしょう?」
「もうそこまでお話が回ってるんですね…、流石です。」
「情報屋の踊り子を舐めないで頂戴な。それで?次の都市の目星でも付けて、私に情報を貰いに来たんじゃないの?」
「あっ、そうです!次はヘリコニアにしようかなと思ってるんですけど…、サーシャさんの方で何か目新しい情報はありますか?」
「そうねぇ…。ヘリコニアと言えば大きな商店街があることで有名だったわね。新鮮な野菜から魚介類にお肉。ヘリコニアに行けばなんでも揃うって謳い文句まであったくらいね。でも、アンノーンの襲撃でどこのお店も閉めちゃってて。今じゃ誰も住んでいないからね。シャッター街になっちゃってるのよ。」
 そう言ってサーシャさんは自分が注文したジンジャエールをぐいっと飲み干して続きを話した。
「ヘリコニアで色を解放するならカラフルなものになるわ。いつもより種類の多い色素の小瓶が必要になってくる。カラフルな色素の小瓶を落とすのは比較的体格の大きいアンノーンだって話よ。2人とも、気を付けてね。」
「そんな情報まで…ありがとうございます。マレー、早速明日ヘリコニアに行って必要な色素の小瓶の特定を…」
「ああ、それなら酒場の掲示板にもう載ってると思うわ。アイリスの公開している特定するための魔法を使えるようになった魔法使いが多くなってきたみたいでね。近々インディゴで専門の資格者を作ろうかって話も出てるくらいよ。」
「それなら、いちいち私に問い合わせが来ることは無いですね!良かった~!」
「じゃあ、私たちはヘリコニアのためにカラフルな色素の小瓶を集めよう!大きな特殊個体のアンノーンも倒して見せる!」
 そう言って力瘤を見せるマレーにアメリアと私がクスクスと笑っているとサーシャさんだけが少し厳しい顔をしていた。
「サーシャさん?」
 そんなサーシャさんの怖い顔にアメリアが不安そうに尋ねると、サーシャさんはパッと表情を戻した。
「私が深く考えすぎなのかもしれないから!憶測で決めつけちゃいけないもの。」
「「「???」」」
 サーシャさんの言葉に私たちが首を傾げていると、サーシャさんが酒場のマスターに呼ばれて席を離れたので私とマレーもここいらでお暇することにした。
「アメリアも元気そうで良かった。またどこかの酒場で会おうね。サーシャさんによろしく伝えて。」
「はい!アイリスさんたちもお元気で!」
 そういうと私とマレーは机に食事の代金を置いて、アメリアに手を振りながら酒場を出た。
「サーシャさんの表情の違いが気になるけど、まずはヘリコニアの状況を確認しに行ったほうが良さそうだね?」
「うん。ヘリコニアで何かあったのかしら…。」
 私とマレーがサーシャさんの表情で引っ掛かりを感じながら、私たちはラケナリアから北東部にあるヘリコニアに向かった。
 色が取り戻し始めているレディカの国では、太陽の光が燦々と照り付け、私たちは水分補給で時折休みながらヘリコニアに辿り着いた。
「ここがヘリコニア…。街の人も色を失って時が止まってるみたいね。」
 私たちはヘリコニアに入ってキョロキョロと辺りを見渡しながらサーシャさんの言っていた大きな商店街を目指した。ヘリコニアに入ってから数分すると建物も増え、街の中心には時計塔があった。だが、その時計塔も色を失い、その秒針が動くことはなかった。
 私たちはヘリコニアの商店街に入るとサーシャさんの言っていた通りのシャッター街の惨状に心を痛めた。
「どうにかして、この商店街を復活させたいけど、ゴデチアみたいに色を解放したところで集客をきちんとしなくちゃ元通りにはならないだろうし…。」
「この街の魔力の泉の状況も確認しておきましょ。またあの黒づくめの男に何かされてたら、大事件よ。」
「うん!行こう!」
 マレーの意見で私たちはヘリコニアの魔力の泉を探した。すると、商店街の通りを真っ直ぐ進んだ先にある大きな公園の中心の東屋の中に魔力の泉はあった。
「ここにはプラムの魔法使いは来てるのかな?」
「東屋の管理からして、定期的には見に来てるみたいね。記録帳があって、日付も最近のものがあるわ。」
 マレーが東屋の棚を調べて記録帳を発見するとその内容を確認してプラムの魔法使いが定期的に来ていることを確認していた。
「魔力の泉の様子も確認出来たし、次は必要な色素の小瓶の種類ね!多分どこかに必要な色素の小瓶の種類を大々的に表示してるってサーシャさんから聞いたことが…。」
 マレーが魔力の泉の東屋から出て、キョロキョロと辺りを見ていると私がその張り紙を見つけた。
「マレー!これじゃない?」
「お、それっぽいね。えっと、これは結構本数が多くなりそうね…細かい色の指定もあるし。サーシャさんの言っていた特殊個体のアンノーンの情報も少しは書いてあるわね。」
 その張り紙には私が見つけた色素の小瓶の特定方法を会得した者が書いたのであろう色素の小瓶の種類と必要本数が書かれていた。そして、ヘリコニアの都市全体で森の区域に当てはまる場所で様々な色素の小瓶をドロップするアンノーンの集落があり、そこには特殊個体のアンノーンも出るとの情報が張り紙の下の方に書かれていた。
 それを確認すると私たちはそのヘリコニアの森林区域に向かい、アンノーンの集落を探した。慎重に森林区域を進んでいると、前を歩いていたマレーがサッと腕をあげて私に止まれの合図を送ってきた。声を出さないところを見ると、アンノーンの集落を見つけたようで声出し厳禁のようだった。
 マレーの隣に素早く移動してマレーの指さす方向を見るとアンノーンたちが集まって何やら言葉を交わしているようだが、アンノーンの言葉は人間には理解できない。スカイの研究者の中にはアンノーンの言語を理解しようと研究をしている者がいると私の最近の愛読書"スカイ研究ログ"という雑誌に載っていた。
 そんなことより、アンノーンの集落があるということは通常の個体のアンノーンとその集落を治める特殊個体のアンノーンがいることに間違いはなさそうだった。
 私たちが息を殺してその特殊個体の姿を拝もうとその場で様子を窺っていると、ガサガサと集落の奥の方から音がして出てきたのは体長2メートルはありそうな巨大な2足歩行型のアンノーンが現れた。あまりのデカさに私は驚いてしまった。
「(あ、あんなに大きいの!?でも倒したらたくさんの種類の色素の小瓶を落とすのも納得できそうなくらいの特殊個体ね…。)」
 隣にいるマレーも動揺を隠し切れておらず、特殊個体の方を見つめて動けなくなっていた。私たちのことは気付いていないようで、特殊個体のアンノーンはそのままズシズシと歩いて私たちとは反対方向の森の中に消えていった。
 特殊個体がいなくなったことで、私たちは知らぬうちに止めていた呼吸をし始めた。
「ぷはぁっ…!こ、呼吸するの忘れてた…。」
「私も…。あんなに大きいのかぁ~、倒すには他の魔法使いと協力しなくちゃいけないレベルね。」
「そうだねー。他の魔法使いたちにも情報共有したほうが良さそうだね。」
 私とマレーはそのまま森林区域から出るとヘリコニアの街へ戻り先ほど見た特定された色素の小瓶の張り紙にペンで特殊個体のアンノーンの特徴について付け足し文を添えておいた。これで他の魔法使いたちが見れば特殊個体の特徴が伝わりやすい。私たちはとりあえず簡単に集まりそうな色素の小瓶を集めることにし、色彩鑑定士のハヅクさんと着彩士のフルスナさんの手配をお願いしたのだった。
 森林区域からは特殊個体は出てこないようで、私たちが数日間ヘリコニアの草原区域でアンノーンを倒してても特殊個体が襲ってくる…ということはなかった。他の魔法使いたちもその特殊個体を目にしたのか誰も挑もうとはしなかった。
 ――――――
 数日後。私たちはラケナリアの宿泊先からヘリコニアに向かおうとしていると声を掛けられた。
「君たちもヘリコニアの色の解放に尽力しているのかい?」
「?ええ。そうですけど。」
「じゃあ、特殊個体のアンノーンについては?」
「この目で見たわ。あの大きさでは戦うのが苦労しそうだなとは思ってるけど。」
「その通りなんだよ!あ…、自己紹介がまだだったね、俺はリキリス。インディゴの色彩鑑定士をしている。君たちの名前は?」
「私はアイリス。アイリス・シュガーツです。」
「マレー・クラウドです。」
「アイリスにマレーだね、よろしく。俺の魔法は目にあってね。アンノーンがドロップするであろう色素の小瓶を見ることができるんだ。それで、俺もあの特殊個体のアンノーンを見た時にこの目でドロップするはずの色素の小瓶の種類を見たら…なんと1体で5本分の色素の小瓶が出るんだ!」
「5本もですか!?」
 リキリスさんの言葉に私はびっくりした。通常の個体のアンノーンは1体につき1本の色素の小瓶がドロップする。なのに、あの特殊個体は1体で5本分の色素の小瓶をドロップするらしい。私たちはあの特殊個体を倒せばヘリコニアの色の解放がより進むのではないかと思った。
「俺の仲間がカーマインにいてね。あの特殊個体のアンノーンを倒す算段を立ててるところなんだけど…、2人も参加するかい?」
「え、いいんですか?」
「仲間が多いほうが相手の注意が散漫して戦いやすくなる。まぁ、連携を取るために数日は魔法使い同士で練習をする必要はあるけどね。」
「分かりました。私たちもリキリスさんの仲間に入らせて貰いたいです。特殊個体を倒すには2人だと限界がありますし… 。」
「ありがとう!早速ラケナリアの酒場で今度の戦闘訓練の話し合いがあるんだ。アイリスとマレーの魔法についてもその時に紹介してくれ。大丈夫、俺の仲間は信頼できる。特殊個体を倒したい気持ちは一緒だからね。」
 そう言うと、リキリスは"明日の朝10時にラケナリアの酒場"ルータオ"で待ってるから!"と言ってヘリコニアから離れていった。
 彼の登場で私とマレーはあれよあれよと仲間に入れてもらった。複数人での動きは確かに練習をしないとあの特殊個体の前でバラバラの動きなってしまっては致命的になってしまう。私たちはリキリスの仲間に入ることで特殊個体を倒すことができるなら、と気持ちの折り合いをつけてその日はラケナリアの宿に戻って眠ったのだった。
 ――――――
 翌日。午前10時に酒場ルータオで待っているとリキリスが現れた。彼の後ろには屈強な筋肉を見せつけるほどの最小限の鎧で固めた男性や弓兵であろう美しい女性など全員で4名の魔法使いが揃っていた。
「遅くなってごめんよ、2人とも!さぁ、ここにいるのが俺の仲間だ!紹介するよ。この筋肉バカがオルキス、俺の兄だ。そして弓兵の紅一点がヘルゼナ。それからタンク役のモッツだ。各々魔法の話については今日の練習場所である草原区域に行く道すがらで話し合ってくれ。それじゃ、出発!」
 リキリスの掛け声で私たちは歩き出し、みんなと自己紹介をして私の魔法の飴玉の話、マレーの灼熱の拳の話など、戦闘の作戦に使えそうな情報は提示した。
 それから草原区域に到着すると、まずは後方支援の弓兵ヘルゼナさんに私は魔力強化と身体強化の飴を渡して前線で戦う者たち全員に身体強化の飴を一つずつ渡しておいた。
 リキリスの仲間たちの連携は見事で危険な場面などなく、立ち回れていた。私たちが仲間に入っても独断狼狽えることなく、無事アンノーン数体を倒すことができた。
 そして、翌日。私たちはついにあの森林区域の集落のボス、特殊個体の"コニア"と名付けられたアンノーンを討伐するため、森林区域に向かったのであった。
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