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三話 獣の集いし場所《動物園》

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『入園門』と可愛らしいフォントで書かれた門には、係員が数名立っている。
動物園に入園するものはまずチケットを購入。その券を立っている係員に渡して、園に入っていくらしい。
マリルはささっとチケットを購入してきて、ルーティアとリーシャに渡す。


「噂には聞いていたが、これが動物園というものか。この中に獣の類がうじゃうじゃといるのだろう?」

「森林ダンジョンか何かみたいな表現はやめてくれないかな、ルーちゃん。動物の生態を学習したり保護活動をしていたりするしっかりした施設なんだからね」

「ふむ、なるほど。生態を知っておけば後々にフィールドで一戦交える時にも安心だしな」

「……たくましくてなによりだねえ。さ、とにかく入ろうか。……リッちゃん?」

チケットを渡し、入園口に向かおうとするマリルとルーティア。
しかしリーシャは入園門を見上げて、ただただボーッとしていた。先ほどとはまた違う、少し潤んだ、キラキラと輝く瞳で。

「……動物園、初めて来た」

「ふっふっふ。来たいと思ってたんでしょー。ま、来たコトあろうがなかろうが、リッちゃんは絶対好きな場所だと思ってたけどねー」

「えっ、ど、どうして分かったの?マリル」

驚くリーシャ。マリルは『お見通しだ』と言わんばかりのドヤ顔でリーシャの顔を覗き込む。

「そういえば、リーシャの昨日のバッグやら剣の鞘がヒントだとか言っていたな。動物園と関係があったのか?」

ルーティアの質問に『よくぞ聞いてくれた』とばかりに今度はルーティアの方を向くマリル。

「昨日、謁見の間に来たリッちゃんのバッグに動物のぬいぐるみのストラップがたくさん飾ってあったのよ。ペンギンと……オカピっていうんだっけ、あの動物」

「……!み、見られてたの……」

「あと剣の鞘についてた小さいキーホルダー。あれ、レッサーパンダよね。動物のアクセサリーが多いコトにまず着目したの。加えて、クマやウサギなど一般的なぬいぐるみではなく絶妙にメジャーとマイナーの境目にいるような動物なコトも考慮したわ。
さてはリッちゃん、動物好きだな、ってね」

「……!!」

バレた、というショックの顔をリーシャは見せた。マリルの眼鏡が太陽に光り、まるで推理をする探偵のように見える。

「どうやら当たりのようね」

「う……」

「だから、あえて動物園。好きならば何度も来てる場所だから安心できるだろうし、初めての場所であればなおさら楽しいだろうしね。あれだけ動物の小物つけてて嫌いなワケないもんねー?リッちゃん」

「う、ううう……」

どんどん追い詰められるリーシャ。さすがに騎士としてのプライドか『かわいい動物大好き』とは言いづらいのだろう。
その様子を、まるで少しいたぶるように見つめるマリルと……ルーティア。リーシャの顔はどんどん赤くなっていく。

「と…… とにかく、入るわよッ!!わたしが好きか嫌いかなんてどうでもいいでしょ!!さっさとこんな休日終わらせてルーティアに復讐するんだからね!!」

照れ隠しに怒ってみせて、リーシャはチケットを持って係員の待つ入園口へと進んでいく。どうやら行く気は満々らしい。

「うーむ、希少だなぁ。ああいう14歳」

「きしょう……?どうしてだ?」

「ツンでデレってやつですよ。ああいうテンプレ通りの娘っ子は、大事にしなきゃいけないですねぇ」

「???」

しみじみと語りながら、リーシャのあとをマリルは追いかけた。その言葉の意味は分からなかったが、ルーティアもとにかく二人の後をついていく。

――


「わぁぁぁ……」

入園をして、少し真っ直ぐ歩いた先。


三人を出迎えたのは、巨大なゾウだった。
灰色の、巨大な身体。長く伸びる鼻に、ピクピクと動く大きな耳。巨大なその身体は遠目で見ていても迫力があり、見る者を圧倒する。
ノッシノッシと黄土の地面を歩くゾウを、何人かの家族連れが嬉しそうに眺めていた。

リーシャもその柵の前へと近づき、少しでもその動物を間近で見ようと身を少し乗り出す。その顔は、大騒ぎこそしないがなんとも嬉しそうに輝いていた。

「おー、やはり大きいな。この間討伐した邪龍の方が大きかったが」

「スケールが違うんだよルーちゃんは。 どう?リッちゃん。初めて見た本物のゾウは」

リーシャの後ろで腕組みをしてゾウとリーシャを見守る二人。リーシャはキラキラとした目をずっと目の前に向けていた。

「おっきい……。目が優しそうでカワイイ……。笑ってるみたいに見えてカワイイ……」

虚ろな独り言のようにそう言う。嬉しさを表に出さない分、自分の心の中の感情は相当高まっているのだろう。そんなリーシャの様子を見て、連れてきたマリルも嬉しそうだった。

「どっかの国じゃ暴れる野生の象が恐れられてるらしいけど、この顔見てるとそんなコト微塵も感じないねー。なんと優しそうな顔ですこと」

「すっごい頭もいいのよ。芸ができたり、お絵かきなんかも出来るらしいわ。……ああ、一度見てみたい……」

「ほー、賢いんだな。戦う時は苦労しそうだ」

「ルーちゃんはちょっと現実から離れて静かにしてようね。ここに純粋な少女が一人いるんだから」

しかしそんな言葉も、リーシャの耳には届かない。憧れの生の動物を見て、ずっと嬉しそうにそのゾウの一挙一動を見つめている。
しばらくそのまま、時間が過ぎ……。



「…………」

「…………」

「…………」

「なあ、マリル」

「なあに?ルーちゃん」

「この動物園、何種類動物がいるんだ?」

「パンフレットによると……350種類らしいね」

「…………」

「…………」


「いくぞ、リーシャ」

まだゾウを見つめているリーシャの襟を、ルーティアが掴む。

「え、ええっ……!?で、でも、まだ見たいよ……!ほら、ゾウさんご飯食べるところとか……!」

「お前のペースだと半分も見られないで閉園になるぞ。違う日に一人でじっくり見ろ」

「ええええっ!?だ、だって……カワイイし……!あ、ほら!うんちするかもしれないよ、うんち!!」

「見たくない。ほら、次の動物いくぞ」

「あああああああ!!ゾウさん、ゾウさーーんっ!!」

引きずられて次のコーナーに行くリーシャとルーティア。

「……一気にキャラが崩壊したね、なんか」

楽しそうにそのあとをついていく、マリル。


――


「ああああああっ……!か、カワウソ……!かわいいいいいいっ……!!おめめがくりくりしてるぅぅぅ……っ!!」

透明な仕切り板にべったりとくっつく勢いでカワウソを見つめるリーシャ。

「わー、ホントに可愛いね。みんなくっついてて仲良さそー」

小型犬ほどの大きさの五匹のカワウソは、寄り添って遊ぶようにしていた。

「元々十匹以上の群れを作って生息している動物だからねー……。ぎゅーってみんなでまるまって寝るところとかカワイイんだよぉ……」

「リッちゃん、動物ホントに好きなんだね。色々知ってるけど……見るのは初めてなの?」

「うん……。訓練で忙しかったし、こういうところとか、一人で来るの怖かったから……」

リーシャの視線は、また目の前の動物に釘づけになっている。
そんな状況だからだろうか、なんとなく少女は本音をスラスラと語ってくれるように思える。

「そっかそっか。良かったね、生で見れて」

「うん……」

そんな少女の様子を、微笑ましく見つめる…姉、二人。
またしばらく、リーシャ達はカワウソの可愛らしい仕草に釘づけになるのだった。

――
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