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五章『ムークラウドの街の いへん』

六十三話『闇の中の さいかい』

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――― …

「… いない…!?」

行く手を遮るスケルトン達を撃破しながら、俺達は町長の屋敷へ到達した。

幸いな事に、そこには魔物の群れはおらず静まり返ったものだった。だが… 同じく、カエデとベルクさんの姿も、ない。

「カエデちゃん達… 確かにココにいるって通信チャットがあったんですよね…?」

辺りを不安そうに見回す悠希に、俺は頷いた。


町長の屋敷は鉄柵に囲まれ、広い中庭を抜けると大きな二階建ての屋敷がある。
広いとはいえ、人家の庭。見渡せない範囲ではないはずだが… それでも、そこには人の気配は全く無い。
ただ、薄気味悪く瘴気が渦巻いては空に立ち上っているだけだった。

「よくねぇ雰囲気だな。…まさか、2人ともどこかに攫われたとかじゃないだろうな…」

敬一郎の予想に寒気がする。
ベルクさんもカエデも、スケルトン程度の魔物ならあっという間に倒せるはずだ。しかしあの慌てた様子と、ここに姿がないという事は… …。


その時。

中庭の先。
町長の屋敷の大きな扉が、不気味に軋んで、開いた。

「…!?」

俺達はそこから何かが飛び出してくるのではないかと身構える。

しかし… そこからは何も出てこない。ただ扉が開いただけ。 …しかし、扉を開けた人物も、そこには存在しないのだった。

「… 中に入れ、って事なのかな」

「何にしても悪趣味なヤツだぜ。…完全に俺達をビビらせようとしてやがる」

薄暗い中庭の、更に暗い屋敷の中。 扉の奥には、微かにランタンの灯りが見えるだけで、あとは闇と瘴気が包んでいる。

「…い、行くしかないっス…。あの中にきっと、カエデちゃんも、ベルクさんも…」

怖いものは苦手らしい悠希も、その恐怖を押し殺して一歩前進した。

…今度は、俺が先頭に。悠希が次に扉の中に入り、殿しんがりを敬一郎が務める。


確信した。
これは単なる、魔物の襲撃なんかではない。

何者かが、この街を… 支配しようとしているのだ。

そしてその何者かが、この町長の屋敷の奥に潜んでいる。…そして、俺達を招いているのだ。


…恐怖よりも先に、俺には思う事がある。

――― 絶対に、そいつを、止めてみせる。

その決意を胸に、俺達は屋敷の中へ足を踏み入れた。

――― …

以前来た時に目を奪われた煌びやかなシャンデリアに、灯りは点いていない。
代わりに道端に置かれたランタンが、不気味に屋敷の中を照らしている。

屋敷の中にも、魔物はいない。
エントランスから廊下の隅々にかけて闇と瘴気が支配し、静寂に包まれた屋敷は不気味さを更に増していた。

「… センパイ、このランタン…」

「ああ、分かってる」

悠希の気付きは、俺も既に勘付いていた。

このランタン、ただ無造作に灯っているわけではない。

入り口からエントランス、そして吹き抜けの階段を上り… 二階にまで、ランタンが置かれている。屋敷の中には、そこしか灯りは無い。
そして二階に上がると… そのランタンは真っ直ぐに、一番奥の部屋にまで配列されていた。

一番奥の部屋。
それは以前この屋敷を訪れた時に案内された、町長の書斎だった。

「… お招きされてるようだな。真、どうするよ?」

「… 正面から行くしかないだろうな。敵が何者であろうと、とにかく会ってみない事には何も分からないし… 俺達も、そうするしか道はない」

俺と敬一郎は顔を見合わせて話した。

足音で軋む廊下を慎重に、一歩ずつ… 最奥の書斎まで進む。

行くしかない。この街の異変も、カエデとベルクさんの所在も、町長の行方も、この奥の部屋にしか、答えはないはずなんだ。

俺と悠希と敬一郎は、書斎前のドアまでたどり着くと…。


勢いよく、そのドアを開けた。


――― …

書斎は、暗闇に包まれていた。視界には何も映らない。

だが… その気配だけは、感じ取る事ができた。

「――― クククク…」

薄気味悪く、静かな笑い声だけが、書斎の中に響いた。

俺は暗闇の中に叫ぶ。

「… 出て来いよ! 人を招いておいて、姿も現さないつもりか!?」

暗闇が返事をする。

「――― すまないな。少し君達の様子を観察したくてね。まあ、演出だと思ってくれ」
「これから始まる決闘への、ささやかな前座だとね ――― 」

「決闘…!?」

「決めるんだよ」
「僕か、君か… このセカイを統べるのにふさわしいのは、どちらかを… ね」

セカイを、統べる…?

ワケが分からない。
俺を誰かと勘違いしているんじゃないのか?そんな疑問を抱いた時。

暗闇が、動く。

薄暗さに慣れてきた目で、微かに目の前に人物がいることが目視できた。

そして、その人物が、一歩近づき… 天井を指さすのが見えた。

指さした、天井。正確に言えば、書斎の上。
広く伸びた天井には、柱のように本棚が伸びている。

その本棚に、ランタンの灯りが光った。

「…!!」

「ベルクさん… カエデちゃん!!…町長まで…!!」

悠希が叫んだ。

本棚の最上部には、ロープが巻かれている。
そこにぐったりと頭を垂れて瞳を閉じて、磔にされている人物が、3人。

ゴトー町長。執事のベルクさん。そして… カエデだった。

闇の中の声が言う。

「殺してはいないよ。僕の魔法で眠ってもらっただけさ」
「流石に大人数でこられては、こちらが不利なのでね。少しの間、ぐっすり夢の中で眠ってもらう」
「――― とはいえ、此処は夢の中、だけどね。クククク…」

「…!?」

夢の中…!?
それを知っているという事は、こいつは…!!


それを俺が勘付いた瞬間、部屋に光が灯った。
部屋の四方に配置されたランタンが、薄暗くも明るく、広大な書斎を照らす。

そして… 闇の中の人物も、俺達の前に、姿を現すのだった。

「… ッ…!!??」

「そんな… アンタは…!!」

「嘘…!? だって、貴方は…!!」

俺達は驚愕の声を、その人物にあげた。

『その人は』薄気味悪く微笑み… 眼鏡をクイ、と上に上げて、俺達に一歩ずつ、近づいてくる。


「久しぶりだね」
「少し驚いて欲しくてさ。演出に拘らせてもらったんだ」
「… 始めよう」
「ムークラウドの… ひいては、この『ムゲンセカイ』の運命を決める、決戦を ――― !!」

その人物は、杖を前に構える。

俺は、銀の杖を前に構えて… 精一杯の声を、その人物にかけた。


「… なんでだよ… !!」
「柊 生徒会長 …ッ!!!」


ひいらぎ 宗司そうじ先輩…。生徒会長は、微笑むのを止めなかった。

その笑いは、俺達に向けられた… 明らかな『敵意』だったのだ。

――― …


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