声を聞いた

江木 三十四

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みさとと犯人の遭遇

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 福田君に連絡をする少し前、みさとはコンビニにいた。
 「結構、店内にお客はいるけどこの中にここ数日、私と同じ店に行っている人がいるはず。声を聞ければなあ。犯人、声を出さないかな・・」
 みさとの期待とはうらはらに、お客は皆黙々と商品を選び、購入している。

 コンビニから出てくるとちょうど放送が聞こえて来た。
 「こちらは、広報倉里です。最近交通事故が増えています。事故に合わない、合わせないために安全運転を心がけましょう。広報倉里からのお知らせでした」
 みさと何気なく聞いていたが、急に顔色が変わる。                       
 「そうだ、これ私が聞いた声だ!前はよく聞いたのに、最近アナウンスの人が変わったから思い出せなかったのね」               
 「あの時、怒鳴っていたのが犯人だったんだ。福田さんに電話しなくちゃ」                 
 あちこち見て電話を探す。
 「公衆電話がない。こんなことなら携帯を持ってればよかった」              
 すると、一人の男性がコンビニから出てくる。
 みさと、その男性に必死になって頼む。
 「すみません、携帯を持っていたら貸してもらえませんか?とても大事な急用なんです。お願いします!」
 男性、みさとの剣幕に押されて携帯を取り出し渡す。                   
 「ありがとう。すぐに返します。え~と、ここを押せばいいんですね」
 呼び出し音が心臓の鼓動のように鳴る。                   
 「早く出て・・早く!あっ、福田君?私、みさとです」                  
 電話を受けた福田君、驚いたように答える。
 「非通知だったから誰かと思ったよ。みさとちゃんも携帯買ったの?」         
 「携帯は親切な人に借りてるのよ。それより聞いて。あの殺人の犯人が分かったのよ。さっき広報で」
 あせって早口でまくし立てる。 
 「えっ、ホント?・・倉里市の広報で・・あれっ、どうしたんだ切れた。みさとちゃん」              
 「さっき、市の広報の放送をした男の人よ。あれ、何するんですか」
 
 男、みさとから携帯を奪い取る。           
 「大変な話を聞いてしまいました。殺人事件とはね」
 先ほどまで、笑顔を浮かべていたのとは別人のような冷酷な表情の男。                   
 「そうよ、犯人を捕まえなくちゃならないの。だから返して・・!わっ!あなたの声、さっき放送で聞いた・・あの夜聞いた声と同じ・・」 
 「そうか、目撃者がいたのか。うっかりしたな」                              
 みさと逃げ出そうとするがあっさり腕を捕まれてしまう。                    
 「やめて、離してよ!大声を出すわよ」                 
 「騒ぐな、声を出すと痛い目をみるよ」
 いつの間にか、男の手にはカッターナイフ。一瞬閃く。       
 「痛い!」
 ブラウスの左袖が切れ、腕から血が滲む。                    
 「こんなものでも馬鹿にしたもんじゃない。結構切れるもんですよ。あきらめて言うことを聞いたほうが良い」
 片方の唇を上げて不気味に笑う。             
 みさと震えながら頷く。                
 「じゃ、少し歩こう。ゆっくりと話しができる静かな場所を探そうじゃないか」

 「いったいどういうことだ?みさとちゃんに何があったんだ。大変なことになりそうだ」             
 あせる福田君のもとに益子君、かけてくる。
 「緊急手配をしてもらったぞ。みさとさんがどうしたって?」          
 「みさとさんから、犯人が分かったって連絡があったんだけど、急に切れちゃったんだ。嫌な予感がする」                 
 「どこにいるって言ってなかったのか?」
 「それを聞く前に切れちゃった。切られちゃったんじゃないかな。彼女に危険が迫ってる。大変だ!」
 「ホントか?」
 益子君も、状況が切迫しているのがわかる。
 「急いで探さないと」    
 「そんなこと言ったって。どこか心当たりがあるのかよ?」               
 「彼女、占い師じゃないか。自分のことは分かるって言ってた」       
 「しかし、彼女はいないぜ」      
 急に閃いた福田君。
 「自分以外のことが分かればいいんだよ」  
 「どういうことだ?」
 福田君の視線の先を見ておどろく。
 「えっ、あの人?」            
 「急がないと時間がない」       
 首を傾げている益子君を置いて走っていく。              
 「すみません、急いで聞きたいことが・・」
 福田君に、声をかけられた男性顔を上げる。               
 「良いですよ。どんなことでしょう?」
 「実は・・」

 歩いているカップルの青年が突然声を出す。
 「あっ、あの人、占い師さんだ」             
 「どうしたの、ろくちゃん」
 女性は、そう言うと男性の指さす方を見る。       
 「今、向こうの通りを歩いてた。あの占い師だった」                     
 「なに、あの占い師って?」
 訳が分からない様子の女性。           
 「僕たちの結びの女神さんだよ」                    
 「えっ、例の人」
  やっと意味が分かったという顔をする。               
 「ちょうどいいや、お礼が言える」            
 「どっち行ったの?」          
 「あの角を曲がったよ。見失っちゃう。急ごう」


つづく
  この物語はフィクションです。人物や場所等が実在したとしても一切関係ありません。
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