1 / 1
ある平日
しおりを挟む
人生はいつだって面倒である。
ログインして朝目覚めるとすぐに始まる面倒な一日。
最初は起きたくないという思いから始まり、出かける準備、通勤、出社と、嫌なことのオンパレード。
意を決して家を出ると満員電車というボスが待ち構えている。
あまり強くはないのだが、毎日となるとなかなかに厄介な相手だ。ほぼ毎日どこかで気を抜いた奴が餌食になっている。
奴の得意技は、混乱、誘惑だ。
人混みによる肉体的、精神的なダメージがじわじわと蓄積されていく。
精神の弱い者は、奴の放つ奇怪な幻術によって、ふらふらと正面の口へと飛び込んでしまう。
このボスの攻略方法は、余裕ある時間配分と流れに身をまかせ、じっと耐える忍耐力が鍵だ。
そうして乗り越えた先、向かうのは勤め先という魔城だ。
魔城は、ビジネスというルールのもと、お金を稼ぐことが目的のギルド。
これは、世界で最も人気のMMORPG「人生」において一番選ばれているフィールドだ。
階級分けされ、強い者につき従いレベルを上げていく。
そうして上り詰めた先には、高い報酬とより高位なクエストが待っている。
この「人生」の仕様は実に難解で、複雑に絡み合った因果の元に形成されている。
例えば、定期クエストをしている最中に、通路で上司とすれ違った時、臨時の緊急クエストが発生したりする。
この臨時クエストの特徴として、報酬はほぼなく、失敗すれば手痛い罰則が待っている。たまに大事なキークエストも混じっているから厄介だ。
このゲームの基本は、所属していない勤め先へと赴て交渉というクエストをしたり、扱っている商材を捌く売り込みというクエストをこなしていく。
システマチックに売れていく商材もあれば、泥臭く必死になってようやく売れる商材もある。
皆一様に安定して稼げる部署で働きたいのだが、それは普段の成果を考慮した人事ガチャに身を委ねなければならない。
このガチャは、移動、昇進、降格といった具合にマイナス要素も含んでいる。
極稀に、上司からSSR確定ガチャ券をもらえたりするので、臨時クエストを逃げ続けるのは得策とは言えない。自身の持つ体力、能力を考慮して、下位のパーティーメンバー達と徒党を組みながらこなしていく必要がある。
そうしたこなしたクエストは、すぐに報酬を貰えるわけではない。
月に一回ある報酬獲得イベントに参加しなければいけないのだ。
そのイベントは、勤め先ギルド内にあるチーム別に開催される。そこで、こなしたクエストを発表し、より良い報酬獲得のためのプレゼンをしなければならない。
また、チーム内で報酬割合が決まったあと、その資料を元に、勤め先ギルド内にあるチームの代表が集まり、そこでまた報酬獲得のためのプレゼンが始まる。そこでの良し悪しによって、各チーム毎に配分される報酬が決まるのだ。役職が上がらなければ、このイベントには参加できない。
だから、チームの代表がプレゼンに失敗すれば、いくら報酬割合が多くても、報酬の量が減ってしまう。逆に、代表がプレゼンに成功して、多額の報酬を獲得できれば、報酬割合が低くても、多くの報酬が見込める。
この報酬の多さで、人事ガチャの割合が決まったり、毎月の給料が変わるのだ。
そんな全世界参加型MMORPG「人生」には規制がかけられており、一人がギルド内で行動可能な時間が公式に設定されている。
しかし、一億総ネトゲ廃人と化した日本において、そのような規制を守る勤め先ギルドはごく少数であった。
残業という月に四十時間延長可能な特例制度をフルに活用し、ギルメンの行動時間を増やしていた。しかし、酷いところではサービス残業というチート手段の横行が目立っていた。
サービス残業とは、残業をしたギルメンには、必ず残業チケットという報酬を送る決まりになっているのだが、そのチケットを偽装し、なんの価値もない残業チケットをギルドメンバーに配布する行為のことを指す。
残業チケットは、給料に直接反映することができるとても価値のあるチケットなのだが、サービス残業というチート行為で偽装された残業チケットは、使っても給料に反映されない。
それだけならまだしも、それを臨時クエストの報酬として掲げ、失敗すれば手痛い罰則がギルドメンバーに課されるという「人生」の仕組みを利用した恐ろしい負の循環システムができあがってしまうのだ。
結果を出しても報われないが、結果を出さなければ罰が待っている。
こうしたチート行為を公式に隠れて横行している勤め先ギルドは、ブラック企業として恐れられている。
しかしながら、最近では公式がようやく重い腰を上げ、規制を守らない大手勤め先ギルドに勧告を行ったりしている。
もし、反抗的に規制を破ったりしたら、そのギルドの活動停止処分が期限付きで実施されたり。ギルドの代表がアカウント停止措置を受けたりしていた。
しかしながら、その行為をすれば、多くの罪もないユーザーを露頭に迷わせてしまう危険をはらんでおり、公式が強く是正することができない現状がもどかしいところだ。
そうして、一定の時間を魔城で過ごし、クエストをこなしたあとは、ようやく給料を使って遊びに興じることができる。
仲間たちと集まって遊んだり、他の勤め先ギルドが売り込んでいる商材を買ったりして思い思いの時間を過ごすのだ。
そんな、わずかばかりの楽しい時間が過ぎれば、またしても朝と同じ満員電車というボスが待ち構えている。
クエストをこなし、遊び疲れた後のこのボスの得意技は、催眠、停止だ。
遊びすぎて遅い時間になってしまうと、このボスはクエストに現れなくなり、ホームへと帰る道を塞いでしまう。
また、ボスの内部で戦っていると、その内部の環境から睡魔に襲われてホームから遠くの街まで飛ばされてしまう。
そんなボスとの戦いを終え、ようやくホームにたどり着くと、泥のように倒れ込み、削られたHPの回復を待つためにログアウトする。
ログインして朝目覚めるとすぐに始まる面倒な一日。
最初は起きたくないという思いから始まり、出かける準備、通勤、出社と、嫌なことのオンパレード。
意を決して家を出ると満員電車というボスが待ち構えている。
あまり強くはないのだが、毎日となるとなかなかに厄介な相手だ。ほぼ毎日どこかで気を抜いた奴が餌食になっている。
奴の得意技は、混乱、誘惑だ。
人混みによる肉体的、精神的なダメージがじわじわと蓄積されていく。
精神の弱い者は、奴の放つ奇怪な幻術によって、ふらふらと正面の口へと飛び込んでしまう。
このボスの攻略方法は、余裕ある時間配分と流れに身をまかせ、じっと耐える忍耐力が鍵だ。
そうして乗り越えた先、向かうのは勤め先という魔城だ。
魔城は、ビジネスというルールのもと、お金を稼ぐことが目的のギルド。
これは、世界で最も人気のMMORPG「人生」において一番選ばれているフィールドだ。
階級分けされ、強い者につき従いレベルを上げていく。
そうして上り詰めた先には、高い報酬とより高位なクエストが待っている。
この「人生」の仕様は実に難解で、複雑に絡み合った因果の元に形成されている。
例えば、定期クエストをしている最中に、通路で上司とすれ違った時、臨時の緊急クエストが発生したりする。
この臨時クエストの特徴として、報酬はほぼなく、失敗すれば手痛い罰則が待っている。たまに大事なキークエストも混じっているから厄介だ。
このゲームの基本は、所属していない勤め先へと赴て交渉というクエストをしたり、扱っている商材を捌く売り込みというクエストをこなしていく。
システマチックに売れていく商材もあれば、泥臭く必死になってようやく売れる商材もある。
皆一様に安定して稼げる部署で働きたいのだが、それは普段の成果を考慮した人事ガチャに身を委ねなければならない。
このガチャは、移動、昇進、降格といった具合にマイナス要素も含んでいる。
極稀に、上司からSSR確定ガチャ券をもらえたりするので、臨時クエストを逃げ続けるのは得策とは言えない。自身の持つ体力、能力を考慮して、下位のパーティーメンバー達と徒党を組みながらこなしていく必要がある。
そうしたこなしたクエストは、すぐに報酬を貰えるわけではない。
月に一回ある報酬獲得イベントに参加しなければいけないのだ。
そのイベントは、勤め先ギルド内にあるチーム別に開催される。そこで、こなしたクエストを発表し、より良い報酬獲得のためのプレゼンをしなければならない。
また、チーム内で報酬割合が決まったあと、その資料を元に、勤め先ギルド内にあるチームの代表が集まり、そこでまた報酬獲得のためのプレゼンが始まる。そこでの良し悪しによって、各チーム毎に配分される報酬が決まるのだ。役職が上がらなければ、このイベントには参加できない。
だから、チームの代表がプレゼンに失敗すれば、いくら報酬割合が多くても、報酬の量が減ってしまう。逆に、代表がプレゼンに成功して、多額の報酬を獲得できれば、報酬割合が低くても、多くの報酬が見込める。
この報酬の多さで、人事ガチャの割合が決まったり、毎月の給料が変わるのだ。
そんな全世界参加型MMORPG「人生」には規制がかけられており、一人がギルド内で行動可能な時間が公式に設定されている。
しかし、一億総ネトゲ廃人と化した日本において、そのような規制を守る勤め先ギルドはごく少数であった。
残業という月に四十時間延長可能な特例制度をフルに活用し、ギルメンの行動時間を増やしていた。しかし、酷いところではサービス残業というチート手段の横行が目立っていた。
サービス残業とは、残業をしたギルメンには、必ず残業チケットという報酬を送る決まりになっているのだが、そのチケットを偽装し、なんの価値もない残業チケットをギルドメンバーに配布する行為のことを指す。
残業チケットは、給料に直接反映することができるとても価値のあるチケットなのだが、サービス残業というチート行為で偽装された残業チケットは、使っても給料に反映されない。
それだけならまだしも、それを臨時クエストの報酬として掲げ、失敗すれば手痛い罰則がギルドメンバーに課されるという「人生」の仕組みを利用した恐ろしい負の循環システムができあがってしまうのだ。
結果を出しても報われないが、結果を出さなければ罰が待っている。
こうしたチート行為を公式に隠れて横行している勤め先ギルドは、ブラック企業として恐れられている。
しかしながら、最近では公式がようやく重い腰を上げ、規制を守らない大手勤め先ギルドに勧告を行ったりしている。
もし、反抗的に規制を破ったりしたら、そのギルドの活動停止処分が期限付きで実施されたり。ギルドの代表がアカウント停止措置を受けたりしていた。
しかしながら、その行為をすれば、多くの罪もないユーザーを露頭に迷わせてしまう危険をはらんでおり、公式が強く是正することができない現状がもどかしいところだ。
そうして、一定の時間を魔城で過ごし、クエストをこなしたあとは、ようやく給料を使って遊びに興じることができる。
仲間たちと集まって遊んだり、他の勤め先ギルドが売り込んでいる商材を買ったりして思い思いの時間を過ごすのだ。
そんな、わずかばかりの楽しい時間が過ぎれば、またしても朝と同じ満員電車というボスが待ち構えている。
クエストをこなし、遊び疲れた後のこのボスの得意技は、催眠、停止だ。
遊びすぎて遅い時間になってしまうと、このボスはクエストに現れなくなり、ホームへと帰る道を塞いでしまう。
また、ボスの内部で戦っていると、その内部の環境から睡魔に襲われてホームから遠くの街まで飛ばされてしまう。
そんなボスとの戦いを終え、ようやくホームにたどり着くと、泥のように倒れ込み、削られたHPの回復を待つためにログアウトする。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる