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彼は事件に幕を降ろす(1)上
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マサルを引き連れた宮橋が、足早に先頭を進んでいる。そのニメートル後方を、三鬼、藤堂、真由は歩いていた。
先程、藤堂がマサル少年を連れてきてから、詳しいことは聞かされないまま「行くぞ」と少年の腕を取った彼に促されて、真由たちは、こうして宮橋の後ろをついていっていた。
空には、平たい雲が浮かんでおり、やや深みを帯びた日差しに照らし出されている。気の早い店には、ぽつりぽつり明かりが灯り始めていた。
宮橋は足が長いため、普段からでも歩くのがかなり速い。藤堂の横で、真由は早足で前に進んでいた。少し前を歩ている三鬼は、宮橋とほぼ同じぐらいの背丈があるので、肉付きの悪い細身の足を無理もせず前後に繰り出している。
マサルは腕を引かれつつも、時々力の入らない足をもつれさせていた。その度に、宮橋が目もくれずに彼を引き上げる。
車の進入が一部制限されてしまっているのも影響してか、それとも表側の事故が注目を集めている効果か、歩道を歩いている通行人は、普段の半分ほどもなかった。宮橋は黙ったまま、通行人が少なくなった歩道を進む。
「事故ですって、怖いわねぇ」
「近くで殺人事件もあったみたいだし、本当に物騒よねぇ」
途中、買い物袋を持った中年の女性たちと擦れ違った。
とくに視線も向けない宮橋の後ろで、藤堂が女性たちを目で追って「なんだか、呑気な調子の会話ですねぇ」と呟く。すると、三鬼が憮然としてこう言った。
「事故があったから警察関係者が多い、としか思ってねぇんだろ。まさに、その殺人事件の捜査真っ最中なんだけどな」
「まぁそうでしょうね。ところで三鬼さん、宮橋さんは一体何をしようとしているんですかね? なんか背中から、すごい緊迫した空気が溢れているような気がするんですけど……」
「ありゃ、穏便にガキを迎えに行くって雰囲気じゃねぇな」
真由は、付き合いが長いという彼に、どういう意味ですか、と尋ねようとした。しかし、それよりも先に、宮橋がシャッターの降りた宝石店の前で立ち止まって、こちらを振り返っていた。
「これから起こる数分間は、なかったことになる。報告の義務はない。君達は、『ここで立ち止まったりしなかった、今も僕と一緒に容疑者を迎えに行っている最中』なんだ」
「ふうん? つまりまたあれか、俺らが説明出来ねぇようなことで、そのうえ、お前も質問には答えねぇ類(たぐい)のやつってわけだ?」
三鬼は慣れたように、けれど『相変わらず忌々しい奴だな』とでも言うような顰め面で口にした。藤堂と真由は、困惑した表情で互を見合う。
宮橋は何も答えなかった。ふと、マサルの腕を右手で掴んだまま、腕時計へと視線を滑らせる。それを見た三鬼の眉が、途端にピクリとはねた。
「さっきから、やけに時間を気にしているじゃねぇか」
「そんなことはないさ」
宮橋は腕を降ろすと、俯くマサルを横目に留め、それから三鬼に視線を戻してこう続けた。
「いいか、君たちが守るのは、この少年だ。そして自分の身だ。――僕が合図を出したら、彼を保護しろ」
三人に質問を許さず、宮橋はマサルを引き連れて道を左折した。
チッと舌打ちして、三鬼が「おい待て!」と走り出した。真由も慌てて駆け出し、すぐに藤堂も続いたが、同じように左の道に入った瞬間、宮橋の鋭い声が上がっていた。
「そこで止まれ!」
その制止の声を聞いた途端、先頭にいた三鬼が、咄嗟に手を横に伸ばして足を踏ん張って急停止した。遅れて道を曲がった真由と藤堂が、その腕に突っ込んで「いたぁ!?」「いてっ」と強制的に足が止まる。
この道は、上下に並んで走る国道と、サンサンビルの大通りを繋ぐ抜け道の一つだった。移動時間短縮のためよく使われていて、普段からギリギリの間隔だろうと車が通る小道にもなっている。
けれどどうしてか、真由たちが踏み込んだ時、その道は人の気配が一切なくなってしまっていた。二台の古びた自転車が、建物の脇に停めてあるだけだ。建物の換気扇が建物の側面についており、下へと伸びたパイプの先からは、水が滴っている。
日中のむわっとした強い熱気が立ち込めたままの通りに、三鬼が思わず顔を歪めた。数十メートル先に見える大通りには、一定の間隔を開けた車が普段通り走っていく様子が見えていて、そちらの排気ガスを乗せた熱風がここに流れ込んできているのだ。
真由は、三鬼の腕にぶつけてしまった顎先を撫でながら、五メートルほど先に離れて立っている宮橋へと目を向けた。ガタガタと震えていたマサルが、ふと堰を切ったみたいに「嫌だッ」と唐突に泣きじゃくって暴れ出し、びっくりしてしまう。
マサルは、今すぐにでも逃げ出したい様子で、彼の大きな手から逃れようとしていた。それでも、宮橋の拘束はびくともしない。
「嫌だ! 俺は死にたくない! 離せよ!」
「僕の邪魔をしなければ、君は死なない。自身でも感じているように、次のターゲットは君だ」
ひどく落ち着いた声が、威圧感を持って低く発せられ、マサルがビクリとして咄嗟のように口をつぐんで宮橋を見た。
「あ、あんた、一体何を知って――」
「時間がないから、無駄な質問は一切受け付けない。今言えることは、筒地山亮が電車で追っ手を振りきったように、現在保護されている他の少年たちも、署までの道のりの移動を続けていれば、君が殺されるまでは安全だということだ」
宮橋は彼の腕を掴んだまま、「何せ僕らが歩きだしてもずっと、ヤツの目は君に向いているからね」と続ける。
「わざわざ条件の揃ったこの場所まできたんだ、そこにターゲットである君がいるのなら、ヤツは間違いなく出てくるよ」
「おい宮橋! 次のターゲットがそいつで、だからここに連れて来たって一体どういうことだ!?」
聞いてないぞ、と三鬼が怒鳴る。しかし、宮橋は振り返らなかった。彼は正面奥の、国道が走る出口を見据える。
「――いいか、三鬼。君たちは今、いない存在なんだ。だから何があっても、たとえどんなことが起こったとしても、絶対にそこから動くな。そうすれば、ヤツからは見えない」
宮橋は一度、肩越しに私情の読めない瞳をこちらへと向けた。薄暗ささえ覚える視界で、明るい茶色の瞳が、やけに浮き上がって見える。
「君たちは、自分の身と、マサル少年を守るんだぞ」
再度そう言うと、宮橋は前方へと向き直ってしまう。
不意に、鼓膜が低く振動するような違和感が起こった。気圧の変動のように耳が半詰まりする。真由は顔を顰め、三鬼と藤堂と揃って、耳に生じた異変を拭おうと唾を飲み込んだ。
マサルが、ヒュっと喉を鳴らして泣き止んだ。彼は、ようやく手を離してくれたた宮橋の背中に回って、スーツのジャケットを掴む。
「そうだ、そこにいろ、マサル少年。死にたくはないだろう?」
宮橋は、横目に彼を捉えて呟いた。マサルが首を上下に振った時――ブツリと電源が落ちるような音が一同の耳元で上がり、見えないフィルターに遮断されたかのように、外界の音がかき消えた。
ブーンっと、強い耳鳴りが頭の芯を揺さぶった。真由は一瞬、重心がふやふやになってくらりとした。
吐き気を起こす異常なその耳鳴りは、一瞬だった。気付いたら、ぱしりと腕を掴まれていた。
目を向けると、片手で頭を押さえた藤堂が、「大丈夫ですか」と声を掛けてきた。真由がなんとか頷き返して見せると、三鬼がひとまず安全を取るように表情を歪めたまま手で指示し、藤堂が彼の後ろへと誘導する。
風は、ぴたりと止んでいた。
冷たい空気が身体に触れる。汗が吹き飛ぶような冷気を足元に感じるにも拘わらず、湿ったねっとりとした気配が上半身を絡みとって、額に嫌な汗をかいた。
宮橋が、向こうを見据えたまま、緊張した顔に強がるような笑みを浮かべた。
「残念だったな。ここには『予定外の客』がいて、お前が完全には飲み込めない領域になっている。さっきみたいに具現化するしかないぞ、さぁ、どうする?」
「お前、何を言って――」
三鬼がそう声を上げかけた時、真由は唐突に、聴覚が戻ったのを感じた。
不意に耳鳴りが、国道側から流れてくる車の走行音に変わっていた。今まで止まっていたかのように、唐突に熱風に顔を打たれて「うわっ」とびっくりしたら、隣で藤堂が同じようにして、一瞬だけ反射的に目を瞑った。
その時、どこからか、タイヤが滑るような甲高い音が響き渡ってきた。
音の原因を探ろうと息を殺した三鬼が、その一瞬後、あることに気づいて「宮橋!」と叫んだ時には、ブレーキの悲鳴音が、建物に挟まれたこの通路に反響していた。
一台の白い乗用車が、猛スピードで国道から折れてこちらに飛び込んできた。開いた運転席の扉が壁にぶち当たり、破壊音を上げて吹き飛ぶのを見て、真由は藤堂と揃って息ぴったりに「うぎゃあああ!?」と、なんとも色気のない悲鳴を上げた。
その暴走車は、前輪をこちらに向けた状態で、コンマ数秒遅れで後輪を滑らせて、完全にこちらへと進行方向を定めた。ブレーキレバーを引いたままエンジンを吹かせた動きだったが、その車の運転席には――誰も座っていなかった。
「嘘だろッ」
視認した三鬼の驚愕よりも早く、車はアクセルをいっぱいに踏み込んだまま、その直後にはブレーキを外していた。
先程、藤堂がマサル少年を連れてきてから、詳しいことは聞かされないまま「行くぞ」と少年の腕を取った彼に促されて、真由たちは、こうして宮橋の後ろをついていっていた。
空には、平たい雲が浮かんでおり、やや深みを帯びた日差しに照らし出されている。気の早い店には、ぽつりぽつり明かりが灯り始めていた。
宮橋は足が長いため、普段からでも歩くのがかなり速い。藤堂の横で、真由は早足で前に進んでいた。少し前を歩ている三鬼は、宮橋とほぼ同じぐらいの背丈があるので、肉付きの悪い細身の足を無理もせず前後に繰り出している。
マサルは腕を引かれつつも、時々力の入らない足をもつれさせていた。その度に、宮橋が目もくれずに彼を引き上げる。
車の進入が一部制限されてしまっているのも影響してか、それとも表側の事故が注目を集めている効果か、歩道を歩いている通行人は、普段の半分ほどもなかった。宮橋は黙ったまま、通行人が少なくなった歩道を進む。
「事故ですって、怖いわねぇ」
「近くで殺人事件もあったみたいだし、本当に物騒よねぇ」
途中、買い物袋を持った中年の女性たちと擦れ違った。
とくに視線も向けない宮橋の後ろで、藤堂が女性たちを目で追って「なんだか、呑気な調子の会話ですねぇ」と呟く。すると、三鬼が憮然としてこう言った。
「事故があったから警察関係者が多い、としか思ってねぇんだろ。まさに、その殺人事件の捜査真っ最中なんだけどな」
「まぁそうでしょうね。ところで三鬼さん、宮橋さんは一体何をしようとしているんですかね? なんか背中から、すごい緊迫した空気が溢れているような気がするんですけど……」
「ありゃ、穏便にガキを迎えに行くって雰囲気じゃねぇな」
真由は、付き合いが長いという彼に、どういう意味ですか、と尋ねようとした。しかし、それよりも先に、宮橋がシャッターの降りた宝石店の前で立ち止まって、こちらを振り返っていた。
「これから起こる数分間は、なかったことになる。報告の義務はない。君達は、『ここで立ち止まったりしなかった、今も僕と一緒に容疑者を迎えに行っている最中』なんだ」
「ふうん? つまりまたあれか、俺らが説明出来ねぇようなことで、そのうえ、お前も質問には答えねぇ類(たぐい)のやつってわけだ?」
三鬼は慣れたように、けれど『相変わらず忌々しい奴だな』とでも言うような顰め面で口にした。藤堂と真由は、困惑した表情で互を見合う。
宮橋は何も答えなかった。ふと、マサルの腕を右手で掴んだまま、腕時計へと視線を滑らせる。それを見た三鬼の眉が、途端にピクリとはねた。
「さっきから、やけに時間を気にしているじゃねぇか」
「そんなことはないさ」
宮橋は腕を降ろすと、俯くマサルを横目に留め、それから三鬼に視線を戻してこう続けた。
「いいか、君たちが守るのは、この少年だ。そして自分の身だ。――僕が合図を出したら、彼を保護しろ」
三人に質問を許さず、宮橋はマサルを引き連れて道を左折した。
チッと舌打ちして、三鬼が「おい待て!」と走り出した。真由も慌てて駆け出し、すぐに藤堂も続いたが、同じように左の道に入った瞬間、宮橋の鋭い声が上がっていた。
「そこで止まれ!」
その制止の声を聞いた途端、先頭にいた三鬼が、咄嗟に手を横に伸ばして足を踏ん張って急停止した。遅れて道を曲がった真由と藤堂が、その腕に突っ込んで「いたぁ!?」「いてっ」と強制的に足が止まる。
この道は、上下に並んで走る国道と、サンサンビルの大通りを繋ぐ抜け道の一つだった。移動時間短縮のためよく使われていて、普段からギリギリの間隔だろうと車が通る小道にもなっている。
けれどどうしてか、真由たちが踏み込んだ時、その道は人の気配が一切なくなってしまっていた。二台の古びた自転車が、建物の脇に停めてあるだけだ。建物の換気扇が建物の側面についており、下へと伸びたパイプの先からは、水が滴っている。
日中のむわっとした強い熱気が立ち込めたままの通りに、三鬼が思わず顔を歪めた。数十メートル先に見える大通りには、一定の間隔を開けた車が普段通り走っていく様子が見えていて、そちらの排気ガスを乗せた熱風がここに流れ込んできているのだ。
真由は、三鬼の腕にぶつけてしまった顎先を撫でながら、五メートルほど先に離れて立っている宮橋へと目を向けた。ガタガタと震えていたマサルが、ふと堰を切ったみたいに「嫌だッ」と唐突に泣きじゃくって暴れ出し、びっくりしてしまう。
マサルは、今すぐにでも逃げ出したい様子で、彼の大きな手から逃れようとしていた。それでも、宮橋の拘束はびくともしない。
「嫌だ! 俺は死にたくない! 離せよ!」
「僕の邪魔をしなければ、君は死なない。自身でも感じているように、次のターゲットは君だ」
ひどく落ち着いた声が、威圧感を持って低く発せられ、マサルがビクリとして咄嗟のように口をつぐんで宮橋を見た。
「あ、あんた、一体何を知って――」
「時間がないから、無駄な質問は一切受け付けない。今言えることは、筒地山亮が電車で追っ手を振りきったように、現在保護されている他の少年たちも、署までの道のりの移動を続けていれば、君が殺されるまでは安全だということだ」
宮橋は彼の腕を掴んだまま、「何せ僕らが歩きだしてもずっと、ヤツの目は君に向いているからね」と続ける。
「わざわざ条件の揃ったこの場所まできたんだ、そこにターゲットである君がいるのなら、ヤツは間違いなく出てくるよ」
「おい宮橋! 次のターゲットがそいつで、だからここに連れて来たって一体どういうことだ!?」
聞いてないぞ、と三鬼が怒鳴る。しかし、宮橋は振り返らなかった。彼は正面奥の、国道が走る出口を見据える。
「――いいか、三鬼。君たちは今、いない存在なんだ。だから何があっても、たとえどんなことが起こったとしても、絶対にそこから動くな。そうすれば、ヤツからは見えない」
宮橋は一度、肩越しに私情の読めない瞳をこちらへと向けた。薄暗ささえ覚える視界で、明るい茶色の瞳が、やけに浮き上がって見える。
「君たちは、自分の身と、マサル少年を守るんだぞ」
再度そう言うと、宮橋は前方へと向き直ってしまう。
不意に、鼓膜が低く振動するような違和感が起こった。気圧の変動のように耳が半詰まりする。真由は顔を顰め、三鬼と藤堂と揃って、耳に生じた異変を拭おうと唾を飲み込んだ。
マサルが、ヒュっと喉を鳴らして泣き止んだ。彼は、ようやく手を離してくれたた宮橋の背中に回って、スーツのジャケットを掴む。
「そうだ、そこにいろ、マサル少年。死にたくはないだろう?」
宮橋は、横目に彼を捉えて呟いた。マサルが首を上下に振った時――ブツリと電源が落ちるような音が一同の耳元で上がり、見えないフィルターに遮断されたかのように、外界の音がかき消えた。
ブーンっと、強い耳鳴りが頭の芯を揺さぶった。真由は一瞬、重心がふやふやになってくらりとした。
吐き気を起こす異常なその耳鳴りは、一瞬だった。気付いたら、ぱしりと腕を掴まれていた。
目を向けると、片手で頭を押さえた藤堂が、「大丈夫ですか」と声を掛けてきた。真由がなんとか頷き返して見せると、三鬼がひとまず安全を取るように表情を歪めたまま手で指示し、藤堂が彼の後ろへと誘導する。
風は、ぴたりと止んでいた。
冷たい空気が身体に触れる。汗が吹き飛ぶような冷気を足元に感じるにも拘わらず、湿ったねっとりとした気配が上半身を絡みとって、額に嫌な汗をかいた。
宮橋が、向こうを見据えたまま、緊張した顔に強がるような笑みを浮かべた。
「残念だったな。ここには『予定外の客』がいて、お前が完全には飲み込めない領域になっている。さっきみたいに具現化するしかないぞ、さぁ、どうする?」
「お前、何を言って――」
三鬼がそう声を上げかけた時、真由は唐突に、聴覚が戻ったのを感じた。
不意に耳鳴りが、国道側から流れてくる車の走行音に変わっていた。今まで止まっていたかのように、唐突に熱風に顔を打たれて「うわっ」とびっくりしたら、隣で藤堂が同じようにして、一瞬だけ反射的に目を瞑った。
その時、どこからか、タイヤが滑るような甲高い音が響き渡ってきた。
音の原因を探ろうと息を殺した三鬼が、その一瞬後、あることに気づいて「宮橋!」と叫んだ時には、ブレーキの悲鳴音が、建物に挟まれたこの通路に反響していた。
一台の白い乗用車が、猛スピードで国道から折れてこちらに飛び込んできた。開いた運転席の扉が壁にぶち当たり、破壊音を上げて吹き飛ぶのを見て、真由は藤堂と揃って息ぴったりに「うぎゃあああ!?」と、なんとも色気のない悲鳴を上げた。
その暴走車は、前輪をこちらに向けた状態で、コンマ数秒遅れで後輪を滑らせて、完全にこちらへと進行方向を定めた。ブレーキレバーを引いたままエンジンを吹かせた動きだったが、その車の運転席には――誰も座っていなかった。
「嘘だろッ」
視認した三鬼の驚愕よりも早く、車はアクセルをいっぱいに踏み込んだまま、その直後にはブレーキを外していた。
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