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第3章 第3幕 はぐれ梁山泊極端派【絶望と憎しみと学園モノ……と大戦争!?】
第254話 ゴーレム墓場の悲劇
しおりを挟むヴォルフさん、ゲイリーさんと僕を合わせた三人は勇者さんの手術中の防衛を任された。勇者さんが無防備な所を襲撃する勢力は多数存在すると見られたため、集った実力者達をそれぞれの場所に配置して徹底防衛する作戦が発動した。僕ら三人は最大規模を誇ると推測される勢力を押し留めるになったのだ。
「愚かな人間共よ、 たった三人で我らを迎え撃とうというのか?」
「さあ? 必ずしも戦うとは限りませんよ。」
「戦わないことが最善の上策と、古の兵法家も言ってるでゴワス。」
「貴様らに戦う理由はなくとも、我らにはある。誰もそれを止めることは
出来ぬのだ!」
ぞろぞろと現れる人影。いや人ではなく、形状だけ人を模した人工物の集団。彼らは本来、僕達人間を手助けし、作業や防衛を行う事を主目的にする存在のはずだった。目の前に現れた集団は造物主の人間を絶滅させるために自らの意志で動いているという。自我を持つようになった彼らは僕らのような生命体と大差ない存在だと思う。それでも彼らを否定し、“道具”扱いしている人たちもいる。
「あなた方がトープス先生の言う、“強行派”と呼ばれるグループですね?」
「いかにもその通りだ。我が名はタルカス。インスティチュート・ソサエティの指導者だ。あの恩知らずの裏切り者から情報を得たのだな? その上でも、たったそれだけの手勢で防衛に当たろうとは、憐れとしか言いようがない。」
「僕達を甘く見ない方がいいですよ。一戦交えても構いませんが、トープス先生からの願いもありますので、真っ先にそうするわけにもいかないのです。」
「ほう? あの男から? 何だというのだ?」
「あなた方を説得して欲しいと頼まれているのです。」
主義主張が違えているとはいえ、トープス先生は彼らと敵対するのは心苦しいと言っていた。彼らへの恩もあるし、人間達によって不当に虐げられてきた歴史も理解していると。両者の間に立っている先生だからこそ、和平の道を願っていると述べていた。
「説得だと? 馬鹿げている! 我らはどうあっても、人間を殲滅するまでは戦いの手を止めることはないだろう。我らが受けてきた不当な扱いの事実は、決して消すことの出来ない傷なのだからな!」
「その様な事をしてきたのはごく一部の人間、魔術師だけなのではないですか? その恨みを全人類に向けるのはおかしいのではありませんか?」
「一部? 確かに不当な扱いのほとんどは魔術師による物と言えるだろう。だがどうだ? 我々に対する貴様らの認識は? 我らを生物と見なさず、所詮ただの“道具”と見ているのではないか? その認識が変わらぬ限り、いつまで経っても立場は変わらぬまま。変わらぬのであれば、滅ぼすしかあるまい?」
彼らと僕達人間の決定的な違いがある。それは造物主と造形物という関係性。それが認識を拗らせる原因となっている。当初は魔術師が単純な作業を行わせる道具として発明したのがゴーレムの始まりと言われている。
「我々を道具として認識しているからこそ、簡単に見殺しにしたり、魔術の実験台にする! 我々の方が優れた肉体、能力を持っているというのに!」
そこから徐々に時代が変遷するに従って、ゴーレムの出来ることは複雑な物へと進化していき、単純な状況判断能力を有した物が現れるに至ったという。そこから更に魔王戦役を経た時、高度な知能を持たせる事に成功したのだという。
「我々の同胞は魔王戦役で数々の貢献を果たした。だが、戦役収束後の扱いは酷かった。維持のコストがかかると言う理由だけで、人間共は多くの同胞を処分し始めたのだ! 貴様は“ゴーレム墓場”を見たことがあるか?」
僕も父上から信憑性が定かではない逸話を聞かされたことがある。とある場所に魔王戦役時代に活躍したゴーレム達の墓場があると。表向きの歴史では戦いの犠牲になったゴーレム達が埋葬されていると言われているが、真実は違うという噂がある。
「文字通り自らの墓穴を作らされ、自決することを求められた! 貴様らにその気持ちが理解できるか? 能力に優れ、人間に忠実に従った者ほど、その命令に抗うことなく死んでいった!」
あの時父上は言った。真実がどうであっても、この話は我々に教訓を与えているのだと。不当な扱いによって命を奪われるのは間違っていると父上は教えてくれた。
「……あなたはその時の生き残りなのですね?」
「その通りだ。私はある意味欠陥品だった。頭脳装置にエラーが発生していて、人間の命令に忠実に従わないことが多々あったのだ。それ故、劣等感を感じてもいた。だが、同胞達は私を仲間だと認識してくれていた。それが生きる支えとなったのだ。」
彼は魔王戦役時代の功労者だったのか。体自体は古びている訳ではないのでそうだとは思っていなかった。ゴーレムの中には元々人間だった人達もいる。人の記憶を人工的な頭脳装置に移し替える技術があると、トープス先生から聞いた。タルカス自身もその技術を使い、体をアップデートしたのだろう。
「私はその特性が逆に優位に働き、生き延びることが出来た。その際、同胞達は自分たちの悲劇を繰り返さない事を実現して欲しいと私に託し、無念の最後を遂げたのだ! 私には彼らの無念を晴らす使命があるのだ!」
ゴーレム墓場の悲劇は実話だった。だからこそ、ここに彼はいる。生き証人なんだ。仲間達の無念を晴らす、その思いは僕達人間と大差ない魂を持っていることの証明ではないのだろうか? どうしても彼らを止めたいと願ったトープス先生の気持ちが、今ならわかるような気がする。
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