218 / 331
第3章 第2幕 はぐれ梁山泊極端派【灰と青春と学園モノ!!】
第218話 “しちゅうひきまわし”?
しおりを挟む「で? どうしてこうなった?」
実習から戻ってきた翌日、俺は奇妙な光景を目にすることになった。それが何かって? いや、俺にもわからんから混乱してるんだ。
「いらっしゃいまへ~! おいしい、おいしい、特別メニューですよぅ~!」
気の抜けた声でタニシとタガメおじさんが客引きをしている。客引きと言う意味ではあまり良い接客とはいえない。でも、そうなってしまう理由が他にあるからだ。客以外に引いている物がある。
「声が小さい!」
横で見ているミヤコがタニシとおじさんに指示を出している。鬼の形相で。地獄の獄卒と刑務官はきっとこんな顔をしているに違いない!
「いらっっさいまっせ~!」
「なんかイラッとくる! もう一丁!」
「オイ~~~ッス!」
「それ違う!」
ダメダコリャ! しかし、なんでこうなった?タニシ食堂の新企画と称して、学内の移動販売を始めたのだ。実はこれにはタガメ・タニシ両名への刑の執行も兼ねていた。なので馬車馬のように働かされている。まさしく馬車のように新メニューの入った特大のズンドウ鍋を引っ張らされているのだ!
「ちょっといいか? お前、なんか勘違いしてない?」
「お前って言うな! 何よ、ウチのやることにイチャモンでも付ける気?」
「違う。この前、あの二人を『市中引き回しの上、打ち首獄門に処す』とか言ってなかったっけ? それがなんで、こんなおもしろ罰ゲームみたいな内容になってんの?」
「有言実行してるじゃん! ちゃんと処してるじゃん! これは“しちゅうひきまわし”の刑じゃんか!」
「……は?」
コレのどこが“市中引き回し”? だいたいあれは、罪人を縛って馬に乗せて、刑場までの道中、町中を歩いて見せしめにする刑罰だったはず? それが鍋を引き回させるなんて、おかしい。ん? 待てよ? 鍋の中身って……?
「そういえばコレの中身、新メニューの正体って何?」
「コレ? “じっくりトロトロ煮込んだ、惚けそうなシチュー”だけど?」
「シチュー!?」
シチューだと? シチューって言えば、根菜やキノコと肉を煮込んで作る、とろみのあるスープの事だったよな? それよりもこれで謎が解けたので良かった。“市中引き回し”ならぬ“シチュー引き回し”だったとは……。どおりでおかしいと思ったんだ。そんな難しいマニアックな用語を知ってるわけないって。やはり変な勘違いをしていただけだったのだ。
「お前、コレ、本気でやってんの? 俺の知っている“しちゅうひきまわし”と違うんだが?」
「お前って言うなって、言ってるでしょうが!は? 何言ってんの? 意味分かんないんだけど!」
「ああ、そう。じゃあいいわ。」
ダメダ。これ以上突っ込むのは止めとこう。逆ギレされかねんし、俺も処されてしまう。ヒドい勘違いだがこの方が平和だし、客も割と来てるのでそのままにしておこう。
「勇者さん、どうですか? 僕とヴォルフさんの合作、新メニューは?」
「ん? ああ、来たばっかりだから、まだ食べてないんだ。」
ロッヒェンとリキシがやってきた。一応、店の売りもんだから適当に作ったわけではないと思っていたが、二大巨頭の合作だったようだ。俺らがいない間の穴を埋めてもらっていたのだ。なんか店の方針もミヤコの独断で改変されたらしい。その話はエルから聞いた。
「ダンジョンでは僕ら以上に大変な事があったらしいですね?」
ロッヒェンは実習の話題を振りながら、シチューをよそって渡してきた。どうやら試食させてもらえるらしい。遠慮なくもらうことにした。
「おお、すまんな。頂くとするよ。……うまいな。これでダンジョンでの嫌なことも吹っ飛びそうなくらいうまいぞ。」
「ありがとうございます!」
合作なだけあって、大したうまさだった。肉の下ごしらえも見事で柔らかく且つ、食べ応えがある。野菜にも良く味がしみこんでるし、汁自体もじっくり煮込んで、灰汁も丁寧に取ってあるので雑味がなく、極上のうまさだった。
「銀仮面に遭遇するわ、タガメおじさんに邪魔されるわでまともにダンジョン攻略出来なかったぜ。」
「銀仮面はともかく、おじさんが何故ダンジョンにいたんですか? 学生ではない部外者がいるのはおかしいですよ。」
「おかしいよな? でも理由は……タニシの持ち物が欲しかったかららしいぞ。」
「え……?」
おっと危ない! 本当のことを言うところだった。タニシ自作のエロ人形が目当てだったって口が裂けても言えない! ミヤコのあられもない姿の人形だなんて言えない! 言ったら、目の前が鼻血の海が広がってしまう! ロッヒェンはこんな話を聞いただけでもそうなってしまうだろう。人形を直接見せたら、命に関わりかねないからな!
「理由はどうでもいいんだよ。ダンジョン内でのやらかしの方がもっと問題だったからな。罠を発動させたり、助けると見せかけてラスボス部屋に送り込んだり。しまいにはタニシ達を見捨てて、一人だけ逃げ帰ったりしたからな。」
「エェ……。ヒドいですね、それは。」
散々クソムーブをかました挙げ句、オガワ流処世術とかいう謎の技を使ってたらしいな。俺は当事者じゃないので話の上でしか知らない。俺は銀仮面とたわむれてたからな。
「そんなこんなで攻略が不完全だったもんで条件付きで達成扱いだ。あとはどうなるかわからん。」
「もしかしたら、代替の実習とか補習が課せられるかもしれませんね。」
「オイ! こんな所にいたのか? 俺らへの処遇が決まったぞ!」
話していたら、トニヤとジムが血相を変えてやってきた。ちょうど、その話をしてた所へ、速報が入ってきたらしい。雰囲気からすると難儀な問題を課されたのかもしれないな……。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる