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第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第18話 交錯する運命

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「で、どうするでヤンスか?」

「もんもーや?」


 魔王疑惑のある人形女が去り、古城には俺たちに加えて、例の少年が取り残されることになった。成り行きで気絶させたとはいえ、気の毒に思っている。エルの弟だしな。ある意味、俺の弟でもあるわけだ。


「当然、利用するのじゃ。」

「も、も、も?」

「利用するって、正義側の発想ではないヤンス!」


 利用するって人質にでもしようというのか?黄ジイの言おうとしていることがイマイチ見えてこない。この少年を煮たり焼いたりするわけじゃないだろうし、なんなのか?


「この坊主も、お主の伴侶の縁者なのであろう? そうであれば、この空間の構成要素の一部とも言えるじゃろう。此奴を辿れば、先程の悪鬼の居所にたどり着けるかもしれん。ここへ来るときに空間に穴を空けるよりは、簡単に移動が出来る。つまりは近道として使えるのじゃよ。」


 なるほど。構成要素、空間の一部なら、近道みたいに使えるのか。人を近道って、中々出てこない発想だ。どんな脳みそしてんだ、このジジイ。


「記憶、思い出という物は人の心に宿る物じゃ。場所や景色も記憶に宿るが基本的に人の目を通して移った物に過ぎん。そこから辿るのは道なき道、草木や岩に阻まれる前人未踏の道を進むような物じゃ。どうせなら、人が通った道、即ち記憶の道筋を通る方が理に適っているのじゃ。」


 記憶の道筋を辿るのか。エルの弟ってくらいなら、彼女はこの少年に対して相当な思い入れがあるはず。彼女の思い出を辿るには必要不可欠なはず。辿っていけばいずれ、彼女の居場所に辿り着けるかもしれない。……とはいえ、弟か。ちょっと俺としては嫉妬してしまうな。しかも血の繋がらない男なら恋愛の感情も多少合ったのでは、とも思ってしまう。そんなことを考えてしまう自分が少し情けなくなった。


「しかし、この子の姿と声、どこかで見たり聞いたりした事があるような気がするでヤンス。しかも、最近だったような……?」

「もす? もすとろ?」


 聞いたことがあるだとう!? どこでだ? チクショウ、まともに口がきければ問いただしてやるのに! 出来ない!


「もんはん、とらい?」

「あ、アニキ、顔が恐いでヤンス!」


 言葉がしゃべれないなら、顔だけで凄んで、圧をかけてやる! さあ話してもらおうか? 何を知ってるんだ? ガツ丼を頼んでやってもいいんだぞ?


「これ、何しとるんじゃ? さっさと行くぞい!」


 ジジイが急かす。これを機にタニシは俺の圧から逃れ、ジジイのところへと逃げていった。やっぱり何か隠している。あの日の朝、何を目撃したんだ? 気になってしょうがない。


「異空跋渉!」


 黄ジイは手刀を少年に向けて振り下ろす。あくまで少年に当てずに空振りするような感じで。すると少年の体にぽっかりと裂け目が出来た。本当に真っ二つになったわけではない。正確には少年の体を起点として裂け目が広がったような形だ。


「ホレ、行くぞい!」

「ムギウッ、ギュゥゥゥゥゥゥゥン!!」


 タニシがジジイに後ろから足蹴にされて裂け目に押し込まれ、消えていった。それに続いてジジイもひょいと飛び込み消えた。同時に裂け目も消える。さあ次は俺の番だ。


「異空ばっしょ……、」

「……ぐ、う……。」


 少年が急に意識を取り戻し立ち上がろうとした。それが原因で技が中断され、失敗してしまった。


「もるげいん!?」

「……あ?」


 起き上がった少年は俺を睨み付けている。すごい目付きだ。俺を親の敵でも見るかのように憎悪を差し向ける。


「お前が勇者か?」

「もげ!?」


 なぜ急にそれを? 何故俺が勇者だと知っている? 会ったこともないのに? 俺の頭には多数の疑問符であふれることになった。
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