上 下
12 / 331
第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第12話 悪いな君達、この魔術は一人用なんだ。

しおりを挟む
「なんだか妙な気配がする。なんだ?」


 以前も同じ様な気配を感じたことがある。しかも、廃墟のようなところだった様な気がする。妙な既視感。どこだったかな?


「ひょえあぁぁっ!? オバケが出てきたでヤンスぅ!」


 見るとあちこちから悪霊があふれ出てきていた。これはまるで……エルと初めて会った場所、例の砦跡みたいだ! 既視感の正体はこれだったようだ。


「むぐっ……!」


 相変わらず口からはうめき声しか出せない。戦うことにはあまり影響しないので、構わず戦いを始める。大したことのない敵だが、タニシでは対処できそうもないので、庇いながら戦わないといけない。片っ端から斬り捨てる!


「エネルギー・ボルト!」


 ラヴァンは俺たちのことは気にせず、アンデッドモンスターたちに攻撃を始めた。でも、魔術師からしたら、アンデッドとか魔族って天敵なんじゃなかったっけ? 魔法が効きにくくなるとかそんな理由で。


「君たちにも一応言っておこう。これは本物のアンデッドではない。」

「も、もがぁ?」

「本物じゃないってどういうことでヤンス?」


 しゃべれない俺の代わりにタニシが聞き返す。通訳かな? とりあえず今は頼るしかない。


「これはあくまでナドラ様が作り出した物だ。この空間もだ。あくまで見た目のみを模倣している。それを生成するエネルギーまでは模倣できない。」

「もっ、もんげぇ?」

「話が見えてこないでヤンス。訳わかヤンス?」


 もはや俺たちは何も理解できないどころか、何を言っているかも意味不明な状態に陥っていた。ピンチなのに喜劇みたいな状況だ。ワロエナイ。ラヴァンも嫌そうな顔をしている。俺らの知能指数が低いせいで不快になっているかもしれない。


「……非道とはいえナドラ様は魔族ではないということだ。だから、ここにいるアンデッドは神聖魔法を使わずとも倒すことが出来る。要するに普通の攻撃で倒すことが出来るのだ!」

「もっ、ももんがぁ?」

「つまりはあっしの殺人技も通用するでヤンスかぁ?」


 どおりで斬ったときの感触が違うはずだ。なんか木とか紙とかを斬ってるような感じがしていた。作りもんな感触というべきか? 加えてラヴァンの魔法が効いているので、アイツ自らの行いがそれを証明している。確かに本物はもっとネットリしている。独特の気持ち悪さを感じるのだ。


「喰らえ、タニシアン・サイクロン!!」


 タニシはいつの間にかフレイルを取り出して、くるくる回転しながら攻撃している。ていうか、この前のタイフーンと違いがわからないんだが? しかも、よく見たらフレイルも新しくなっている。分銅の部分がゴッツン・ゴーの瓶の形になっている。無駄にデザインが凝っている。


「このままではキリがない。やはり元を絶たねば意味がない。」

「も、も?」

「でも、ここにはオバサンはいないでヤンスよ?」


 原因はわかってる。でも、いない以上は倒しようがない。ここから出ないことには始まらない。俺もあの奥義を使っても無理なことは自覚している。やろうと思えばできる。だがやれば取り返しのつかないことになりそうな予感がする。そういう違和感をこの空間に感じる。さっきの既視感に近い感覚だ。なんかすごいモヤモヤする。


「私の一門は空間に関する魔術を得意としている。私ならばなんとかここから脱出をすることは出来る。私一人だけならば、な。」


 ラヴァンはニセの悪霊達から間合いを取り、魔法の集中を始めた。脱出の魔法だろうか? でも、その話からすると俺らは取り残されるって事だよね?


「これから私は脱出を試みる。容易には出来ないだろうが、出口へは近付くことは出来るはず。ナドラ様は私が対処する。それまで待っていてくれ。」


 一方的に言い残して、ヤツは消えていった。他の場所に行ってしまったようだ。そして、この場にはアンデッドとアホ二人だけが取り残された……。


「もっ、もんげーあっ!?」

「ひどいヤンス! あっしら居残りにされたでヤンス! やっぱりイケメンは信用できんでやんす!」


 途方に暮れながら、アンデッドたちがじりじりと近付いてくるのを見ながら、戦いを継続する覚悟を決めた。とにかく戦い続けるしかない。


「……なんじゃ、なんじゃあ? お主ら情けない事ばっかり言っとったら、助けられる者も助けられんぞ?」


 久し振りに聞いた声だ。最後に聞いたのは大武会の決勝の前だ。祝勝会をやるとか言ってたクセに姿を現さなかった。俺の見舞いにさえ来なかった。


「ももげ!?」

「誰でヤンスかぁ? 急にヘンなオジイチャンが現れたでヤンスぅ!」


 なんでこんなところにいるんだ、黄ジイ! 今までずっとどこへ行っていたんだ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

へたまろ
ファンタジー
ここは、とある恋愛ゲームの舞台……かもしれない場所。 主人公は、まったく情報を持たない前世の知識を持っただけの女性。 王子様との婚約、学園での青春、多くの苦難の末に……婚約破棄されて修道院に送られる女の子に転生したただの女性。 修道院に送られる途中で闇に屠られる、可哀そうな……やってたことを考えればさほど可哀そうでも……いや、罰が重すぎる程度の悪役令嬢に転生。 しかし、この女性はそういった予備知識を全く持ってなかった。 だから、そんな筋書きは全く関係なし。 レベルもスキルも魔法もある世界に転生したからにはやることは、一つ! やれば結果が数字や能力で確実に出せる世界。 そんな世界に生まれ変わったら? レベル上げ、やらいでか! 持って生まれたスキル? 全言語理解と、鑑定のみですが? 三種の神器? 初心者パック? 肝心の、空間収納が無いなんて……無いなら、努力でどうにかしてやろうじゃないか! そう、その女性は恋愛ゲームより、王道派ファンタジー。 転生恋愛小説よりも、やりこみチートラノベの愛読者だった! 子供達大好き、みんな友達精神で周りを巻き込むお転婆お嬢様がここに爆誕。 この国の王子の婚約者で、悪役令嬢……らしい? かもしれない? 周囲の反応をよそに、今日もお嬢様は好き勝手やらかす。 周囲を混乱を巻き起こすお嬢様は、平穏無事に王妃になれるのか! 死亡フラグを回避できるのか! そんなの関係ない! 私は、私の道を行く! 王子に恋しない悪役令嬢は、可愛いものを愛でつつやりたいことをする。 コメディエンヌな彼女の、生涯を綴った物語です。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 第一部完結済み! 現在は第二部をゆっくりと更新しています。

処理中です...