上 下
7 / 331
第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第7話 新手の弟子志願者か?

しおりを挟む
 エルを慰め、これで行く準備が整ったかと思った矢先、何かメンバー内の雰囲気が悪くなってしまった。ハッキリ言ってなにが起きたのかわからない。宿屋で俺が合流する前になにがあったんだ?


「師匠、俺っち、ワクワクが止まらないッスよう。憧れの勇者様に同行出来るなんて夢みたいッス!」


 新メンバーのコイツだけハイテンションだ。脳天気だ。というより……コイツ、空気読めてねえ! まわりはどんよりムードなのに、コイツ一人だけ楽しくピクニック気分じゃねえか!


「お前、平時からそんなだと、なんかあったときに持たないぞ!」


 あの時、タニシが一部始終を見ていたようだが、聞こうとすると話を逸らそうとする。同じ場所にいたゲイリーは寝ていたようだ。問題が起きた張本人、ミヤコも口を閉ざしている。珍しくなにも言わない。「何でもない。」の一点張りだ。あいつがあんな態度を取るんだから、なにか重大なことがあったに違いない。


「大丈夫ッス! 俺っち、スタミナには自信あるッスから!」


 それに直接出来事を見ていないはずのエルも様子がおかしい。朝方の恐怖の感情は薄れたようだが、なにかソワソワしている。別の何かを心配しているようだ。


「それはどうかな? お前、戦いの真っ最中にスタミナ切れになっても知らねえからな?」


 共通の手掛かりは一つ。あの場所には不自然な物があった。離れたテーブルに残されたスープの器。中にはタマネギが残っていた。三人ともあれを見ていたし、気にしていた。あの場にいた誰かとトラブルでも起こしたのだろう。ミヤコとなにかあって、タニシがその事実を隠している? 逆のパターンは考えにくい。タニシが問題を起こしていたらミヤコがからかうの必至だからだ。


「望むところッス!」

「望むのかよ! スタミナ切れを!」


 そして、エルだ。不自然だ。あの動揺はおかしい。あの食べ残しの犯人を知っているのかもしれない。あれを見て誰かを思い出したのかも?


「失礼しますが、あなた方は勇者様ご一行でしょうか?」


 新弟子と問答している間にエルの故郷らしき町が近くなってきていた。それにつれて人影が増え始めたと思っていた矢先、何者かが声をかけてきた。魔術師らしい身なりをした男だ。怪しい雰囲気ではなく、何か気品があるというか、貴族っぽさもある。しかもイケメンだ。


「そうだけど、あんた誰?」

「これは失礼、私の方から名乗るべきでしたね。私の名はラヴァンタージュ・モンブラン。ラヴァンとでもお呼び下さい。」


 何者? いきなり俺らに声をかけてくるとは。まさか……また弟子入り志願者とかじゃないだろうな? もうそういうのいらないから。このむさ苦しいガチムチタマネギだけで十分なんで。あ、でも交換扱いなら許可する。むしろチェンジしたい。


「んで、なんの用?」

「私は勇者様に知り合いが同行していることを聞きつけ、こちらにいらっしゃるということでお待ちしていたのです。」

「知り合い? 誰の?」


 俺は当然知らんのでメンバーに振り返って確認してみる。でも、みんな一律にキョトンとしている。ただしタマネギ野郎は除く。なんかこのラヴァンとか言う人に期待の眼差しを送っている。なにを期待してるんだ? まさか貴族とお近づきになれるのを期待してるのではなかろうな?


「知り合いと言っても、ご存じないかもしれません。ですが、その方のご家族とはお付き合いがございます。」


 その視線は俺の斜め後ろにいる人物に向けられている。タマネギがしゃしゃり出てきたため、いつもの俺の隣のポジションから外れている。エルだ。謎の魔術師は彼女のことを見ている。


「知ってる人? 親戚とか?」


 同じ町の人なのか? 知り合いを名乗るってことは親戚とかの可能性はある。


「知りません。あなたは何者ですか?」

「……ですが、私は貴女のことを良く知っています。いえ、知っていなければならない立場なのです。」

「……は?」


 俺はあきれた。突然妙な事を言い始めた男に不信感を覚えた。彼女のなにを知っていると言うんだ? 俺がこの世で一番エルのことを知っているという自負はある。場合によっちゃ、この男をぶちのめさないといけない。


「エレオノーラ・グランデ、私はグランデ家次期当主の貴女の……婚約者なのです!」

「なんだと!」


 俺は絶句した。とんでもないことを口走った、この男に対して怒りがふつふつとわき上がり始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~

まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。 よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!! ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。 目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。 なぜか、その子が気になり世話をすることに。 神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。 邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。 PS 2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。 とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。 伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。 2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。        以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、 1章最後は戦闘を長めに書いてみました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...