399 / 401
第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第57話 アンタの性格ほどは壊れちゃいないよ。
しおりを挟む「これハ、壊れテまスねえ。無茶をし過ぎタのでは?」
「フン。アンタの性格ほどは壊れちゃいないよ。」
「ソれ、どういう意味デスか?」
オレはドラゴンズ・ヘヴンへと帰投した。帰投後、すぐにデーモン・アーマーの状態を確認、メンテナンスの流れになる。相変わらず、この偏執な死霊術士は鎧にしか興味を持っていないようだ。まあ、こんな変態に心配をされたくはないのも事実だが。元々、人間不信なオレにとってはこれくらいの方がやりやすい。
「アクセレイション・オーバーライドを短時間で酷使しマしたネ? 無茶でスよ。もっと死体を扱ウようニ、丁寧に使ってクださイよ!」
「うるさい。勇者とか処刑隊相手に手加減なんかしてどうすんだよ! ヤツらは万死に値する。何回殺そうが減りはしないんだから、本気で殺すくらいが丁度いいんだよ!」
オレの嫌いな連中、要するに光の勢力に与する人間達だ。クルセイダーズや勇者とか。特にクルセイダーズの処刑隊。ヤツらには昔からの因縁がある。オレの両親を死に追いやった。それだけじゃない。ヤツらは姉さんにも数々の危害を加えた、許しがたい存在だ。だからこそオレは自分の生涯をヤツらの殲滅に捧げると誓ったんだ。そのためなら手段を選ぶつもりはない。
「まア、いいでしょウ。いいデータが取れマしたかラ。オーバーライド連続使用時のオーバーヒートは課題になっテまシた。参考にデきソうなので、今回は不問トしまシょう。」
「案外、物わかりがいいじゃないか。」
意外とあっさり折り合いがついた。コイツは研究している物について納得がいかなければ、何時までも駄々をこねる傾向があるからだ。しつこいったらありゃしない。鎧の試験中、ゾンビ兵を相手にすることが多かったが、全力で破壊すれば、癇癪を起こすなんてしょっちゅうだった。基本的にメンドクサイおっさんといえる。だが、扱い方がわかれば大した問題にはならない。
「生きて戻ってきたのだな、エピオン。無事で何よりだ。」
「ヴァル・ムング様。」
おっさんとやりとりをしている間にヴァル様が研究所にやってきた。オレが大した収穫もなく帰ってきたというのに、不機嫌そうな様子もない。不思議な人だ。
「勇者と交戦したようだな。君は彼をどう見た?」
「正直、あまり強くはないな、という感想です。鎧の不調さえなければ、倒せていたと思います。」
「不調でハありませんヨ! 酷使するカラ、あのヨうナことに!」
「ははははははっ!」
ヴァル様はオレの言動とオプティマのやりとりを見て、朗らかに笑った。どこか嬉しそうでもある。
「倒せたかもしれぬ、ということか! 君らしい。その自信の強さを私はとても気に入っている。次回もその意気込みで挑み給え。期待している。」
「はい、お任せ下さい!」
ヴァル様はオレが尊敬する数少ない人物だ。その強さだけではなく、能力ある物への理解、懐の深さ、良さをあげればきりがなくなるほどだ。オレの剣の師匠でもある。戦い方もほとんどヴァル様に教えてもらった。
「だが、同時に気を付けておき給え。君はまだ勇者の真価を見てはいない。見る前に鎧が不調を起こしたのだとも言える。ある意味、鎧に命を救われたのだよ。本来の用法とは異なるがね。」
オレはこの人に心を救われた。感謝してもしきれない。いずれ世界を救う英雄王となる人だと信じている。勇者など目ではない。だというのに、この人は勇者を必要以上に評価している。勇者という概念自体、時代遅れの遺物なのだ。それを倒すのがオレの役目だ。
「それはどういう意味です?」
「彼は追い詰められたときにこそ、異様なまでの得意な力を発揮する。私は以前、その力をこの身を以て味わった。不死身の肉体でなければ、命を落としていただろう。」
ヴァル様は勇者に敗れたのだと言う。あの時、オレはその混乱に乗じて姉さんを逃した。そうだというのに、この人はオレを咎めなかった。あの件はオプティマに文句を言われた程度で済んだのは、この人のおかげなのは間違いない。その器の大きさに感謝している。
「いや、実質殺されたのだ。不死身であっても。不死の肉体や形の無い物をも破壊、消滅させる力を彼は有しているのだ。」
負かされた恨みもあるはずだし、勇者が弱いことにも気付いているはず。それにもかかわらず、この人は勇者を必要以上に評価していると思う。ヤツの何がそうさせているんだ?
「私は敗北したときに生死の境を彷徨った。だがその状況が私を更に成長させた。私は死の淵から蘇り、更に力を得ることになったのだ。窮地をチャンスに変えるということ。これは勇者から学んだことだ。」
この人が言っていることは間違いない。ドラゴンズ・ヘヴンに戻ってきた時の彼は、行方不明になる前よりも強くなっていた。別人に感じたほどだ。
「私だけではない。彼は周りの人間を良い方向へと変化させている。君の姉、エレオノーラもそうだ。いずれ君自身もこの力を目の当たりにする事になるだろう。」
確かに不可解なところはあった。俺よりも圧倒的に弱いくせに、俺の攻撃を容易く躱すし、剣を折られたり、気絶もさせられた。あまつさえ、ダークネス・イレイザーを相殺された。奴は得体の知れない力を持っているのは間違いない。
「そうだとしても、オレはアイツに勝ってみせます。必ず。」
「フフフ、期待しているよ。」
ヤツが姉さんを変えてしまったのは今回再会して良くわかった。彼女があんなに生き生きとした顔をしているのは初めて見た。いつかはオレの手でそうしてあげようと思っていたのに。オレが長年達成できなかったことをアイツはたった数ヶ月で成し遂げてしまった。悔しい。オレはアイツに勝たなくてはならない。姉さんを取り返すために。勇者はオレの手で必ず、殺す!
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~
ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」
騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。
その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。
この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました
鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。
そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。
「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。
ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね?
という「誰が勇者だ?」的な物語。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
異世界隠密冒険記
リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。
ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる