上 下
156 / 401
第3章 迷宮道中膝栗毛!!

第156話 ……死ぬことと見つけたり。

しおりを挟む
「刀が折れたぞ、オイ!交代だ!」


 俺はすかさず前に出て、侍に交代を促した。しかし、ヤツはピクリとも動かなかった。剣を振り下ろした体勢のままで固まっている。刀を折られたショックで動けなくなってしまったか?


「パゴア、パゴア!哀れな奴よ!100年の鍛錬は無駄だったようだな。所詮、定命の者ではこの程度が限界よ!」


 定命?聞き慣れない単語だな。寿命があるってこと?不死身になっただけでマウント取るなよ。俺なら確実にお前にダメージ与えれるんだからな。覚悟しとけよ。


「哀れな男には処刑という慈悲を与えてやろう。死んであの世で無為なる人生を送ったことを後悔するが良い!」


 命の危険が迫っているのに、侍は動かない。石化でもしたんじゃないか?


「……武士道とは、死ぬことと見つけたり。」


 突如、侍は口を開いた。何かヘンなこと言い始めた。辞世の句かな?


「どうした?遺言か?いいだろう、許可をくれてやる。敗者の弁でもなんでも良いから、言いたいのならば申すが良い。多少の時間はくれてやろう。」


 むかつくなあ。余裕かまして侍をおちょくってやがる。俺なら速攻で八刃してやるんだけどなあ。


「修羅道とは……、」


 何か言いかけたところで折れた刀を投げ捨て、構えを取った。今度は素手でやり合うつもりか?でも、手を見ると何か見えない刀を持っているかのような形になっている。とうとう、幻覚まで見え始めたのか?


「……倒すことと見つけたり!!」

(シュバッ!!!)


 空気を切り裂いたような音が響き渡った。何が起きた?エア刀が奇跡を起こしたのか?……よく見ると、ダイヤ野郎の体に大きく斜めの刀傷が付いていた!しかも、侍の手には折れたはずの刀が握られている。


「貴様!どこにそんな物を隠し持っていた?」

「隠す?否、これは拙者が術により具現化した刀なり。これは常に拙者と一心同体、我が肉体の一部なり。」


 今気付いたけど、さっき折れた妖刀は側に転がっていた。あれ?じゃああれはどこから出てきたの?一心同体とか言ってるけど、意味がわからない。体から生えてきたのか?お侍さん、刀、生えてますよ!


「あれはまさか!?アストラル・ブレイド!」


 ファルちゃんが驚いている。あの手品のトリックがわかったのかな?


「え?何?明日取られる・無礼講?」

「アストラル・ブレイドだ!馬鹿!あれは魔力で錬成した武器だ。要は俺のヴォルテクス・ブレイドと似たようなもんだ。」


 魔法で作った刀だと!じゃあホントに冗談じゃなくて、体から生えてきたのか。ファルちゃん、お得意の風の剣と同じ原理だとは。でも、なんか見た目が違うな?ファルちゃんのやつは実体がない空気の剣みたいだったし、侍のは本物そっくりの刀だ。実体がある。


「悔しいが、アイツのアレの方が精度が上だ。さすがに俺でも実体化は出来ない。」

「どういうこと?」

「魔力という物は強力な物ほど実体化するものなのじゃ。程度の差はあるが金剛石の王の体と同じじゃ。当然、魔光結晶の方が遙かに魔力は上質じゃ。」

「そんなにすごいのか、アレ!」


 自前で剣が作れるほど、魔法が得意だなんて、ある意味チートじゃないか!何をしたらそんなことに……って100年迷宮にこもってたからか。俺もそんくらい修行すれば、同じ事ができるようになるだろうか?


「パゴア!我が肉体と同じく魔力錬成で作った物か。侍如きが使いおるとは!」
「拙者は……100年待ったのだ。お主のような分別のない外道に、武士道を穢されてたまるものか!」


 侍は再び斬りかかった。目にも止まらない速さだ。俺と戦っていたときよりも速い。あの時はまだ本気を出してなかったのか。


(ピシュン!!)

「ぐおあ!?」


 ゴトン、という音とともにダイヤ野郎の腕が切り落とされた。さすがにアイツも悲鳴を上げていた。処刑するつもりが、形勢逆転して処刑される立場になってしまったようだ。


「雷光一閃。神速の一太刀なり。」


 侍の刀を見ると、刃の部分が雷を纏ったように光り輝いていた。魔法も併用しての一撃だったのか。


「ライトニング・ブレイドも併用してやがるのか!……いや、あの刀自体雷の魔力で錬成しているのか?」


 雷の魔力?でも何か変だな。俺と戦っていたときもそうだったけど、地属性の魔法が得意だったんじゃないのか?いきなり雷を使うなんてどういうこと?雷らしい技は例の正拳突きぐらいしかなかったはず?でも、アレ、どこにも雷要素がなかったような……。


「地属性の魔法を使っていた貴様が何故、雷属性の魔法を使えるのだ?地属性は雷属性を阻害する故、相性は悪いはず!魔術師ならともかく侍の貴様が何故、こんな芸当が出来るのだ!」


「従来の常識ではそうであろう。物は使いよう、使い方によっては際立たせることも可能となる。これは100年の鍛錬の賜物なり。」


 魔法属性同士の相性のことはサヨちゃんから聞いたことがある。火は氷に強く、氷は風に強く、風は土に強く、雷は水に強く、水は火に強い。というように順繰りに強弱関係が成り立っているらしい。


「拙者は本来雷属性の術を得意としているが、地属性の術を極め、刀を作ることを考えた。素材を見極める上で金属、鉱石の性質を吟味する内にあることに気が付いた。それは雷を遮断する物、雷を透過する物があると。」


 人それぞれ、魔法属性には適性があるらしい。得意属性に弱い属性の魔法は使えなかったり、使えても効果が弱くなってしまうそうだ。風の魔法が得意なファルちゃんが偽竜帝と戦ったときに地属性魔法を使ってたけど、あれはあくまで低位の魔法だから使えたらしい。普通は熟練の魔術師しかできない芸当だそうだ。そういう意味では侍がそこまで使いこなせるのは異常なことなんだろう。


「拙者は雷の術を蓄える事が出来る素材を吟味して、雷と地属性を併せ持つ刀を作ったのだ。相互作用により雷の術を際立たせることが出来る。名付けて“地雷也”。我が最強の刀なり!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

剣客居酒屋 草間の陰

松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

騎士学院のイノベーション

黒蓮
ファンタジー
 この世界では、人間という種が生存できる範囲が極めて狭い。大陸の大部分を占めているのは、魔物蔓延る大森林だ。魔物は繁殖能力が非常に高く、獰猛で強大な力を有しており、魔物達にとってみれば人間など餌に過ぎない存在だ。 その為、遥か昔から人間は魔物と戦い続け、自らの生存域を死守することに尽力してきた。しかし、元々生物としての地力が違う魔物相手では、常に人間側は劣勢に甘んじていた。そうして長い年月の果て、魔物達の活動範囲は少しずつ人間の住む土地を侵食しており、人々の生活圏が脅かされていた。 しかし、この大陸には4つの天を突くほどの巨大な樹が点在しており、その大樹には不思議と魔物達は近寄ろうとしなかった。だからこそ魔物よりも弱者であるはずの人間が、長い年月生き残ってきたとも言える。そして人々は、その護りの加護をもたらす大樹の事を、崇拝の念を込めて『神樹《しんじゅ》』と呼んでいる。 これは神樹の麓にある4つの王国の内の一つ、ヴェストニア王国に存在する学院の物語である。

鬼才の若き陰陽師は引退しました。両親を食った最強の鬼神を封印されて陰陽術が使えないので後進を育成しながら高校に通う。 俺は寿命を削る禁術や妖

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
最強だった陰陽師、禁術で最強に舞い戻る 徳川幕府の時代から主君に使え、魔を祓う陰陽師の家系の跡取りである元Sランク陰陽師『仁科祐介(にしなゆうすけ)』は、三年前の大災害【名古屋の大祓】の際に両親と自身の霊力を喪失しごく平凡な高校生活を送っていた。 帰国子女で後輩陰陽師の星川の訪問によってユースケの平穏は壊される。 ただでさえ人員不足の陰陽師協会は、引退したユースケを東京某所の調査に向かわせたいようで……仕方なく依頼を引き受けるもそこには、部隊規模で殲滅する大妖『牛鬼』が少年少女を追い立て居るところを見つける。 ユースケは何とか牛鬼を滅するも違和感を覚え、少女を詰問する。 すると少女は鬼神を降ろせる存在『玉依姫』だと判明し少女を救うためユースケは伝来の禁術を使用する。 全ては敵である鬼と少女を守るため…… 鬼を宿し『玉依姫』改め――『玉鬼姫』となった少女を守るためユースケは再び陰陽の道を歩き始める。

処理中です...