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第2章 黒騎士と魔王

第77話 師、曰く。 ~さんこうのせいしん~

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「皇の精神?なんですか、それ?」


 俺は初めて耳にした言葉を、オウム返しのように、師父に聞き返した。我ながら馬鹿みたいだ。


「梁山泊には、各流派を束ねる五覇がいるということは以前説明しましたよね?その上には三皇という方々がいるのです。現在はいずれも空位ですけどね。」


 五覇という偉い人たちがいるのは、前に教えてもらっていた。各流派の達人中の達人でなければ襲名を許されない高い地位だ。雲の上の存在で、入門して以来、見たことがあるのは“拳覇”であり宗家でもある、ジン・パイロンだけだ。


「三皇だけではなく、五覇でさえ剣覇は今、空位となっています。ですが、それ以上に三皇として認められる人は滅多にいません。記録上も数えるほどしか存在していません。」


 聞いているだけで気の遠くなりそうな話だ。少なくとも俺には到達できそうにないのは、はっきりわかった。


「三皇の中でも序列は存在します。天破が最も位が高く、地裂、人制と続きます。」

「天、地、人か……。」

「これで三皇がどのような地位なのかわかってもらえたと思います。話を三皇の精神に戻しましょう。本題はここからです。」


 俺は聞き逃すまいと、さらに集中力を高めて、師父の話に聞き入った。


「我々は例え到達できなくとも、三皇を目指して日々鍛錬を積んでいます。三皇として認められるには強さだけではありません。その精神性も磨かなくてはならないのです。」


 精神性……。幼稚な俺には一生到達できそうにはないが、少しでもそれに近付きたい。だから、しっかりと心に刻みつけておきたい。


「明鏡止水、光風霽月、虚心坦懐。それぞれ、心にわだかまりを持たず、心を磨き澄まさなければ、到達できる境地ではありません。最早、悟りに近い境地と言ってもいいでしょう。」


 悟りか。一体、何をしたら、いつになったら到達できるんだろう。


「この境地に到達できれば、戦技一0八計は最大限の力を発揮し、壊せぬ物を壊し、守るべき物を守り抜くことができるようになるとも言われています。」


 ただでさえ強い一0八計。普通に習得するだけでも無敵とさえ思える。そこからさらに三皇の精神を身に付ければ、できないことはない、ということなのか?


「あなたにはすぐに習得しろ、とは言いません。私でさえ、まだ途上なのですから。あくまで三皇の精神を念頭において、修練を積んで下さい。」

「うーん?俺には難しすぎるかなあ。修練を乗り切るだけでも精一杯だし……。」

「まずは自分が何を成すべきか、何を目指すのか、何を守りたいのか。そこから考え、追求していきましょう。」

「何をするべきなのか?何を……、」


 そういうことを今まで考えたことなかったな。生きるのに精一杯で。強くなる、っていうことはそういうことなのか?
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