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第2章 黒騎士と魔王

第44話 激突!試験のお昼ご飯!!

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「さてと次は、アレだな。」


 多少、不本意な試験があったものの、進行そのものは順調に進んでいった。何と次は俺の得意なアレである。まさか、そんな物まであるとは。最早何の試験を受けているのかわからなくなってきたが、逆にありがたかった。やっと自分の得意分野で勝負できる。


「勇者様!もしかして勇者様も、この技能試験を受けるんですか?」


 錬金術師ちゃんだ。相変わらず、癒やされるなあ。君がいてくれて、ホントに良かった。


「モチロン!当然じゃないか。実は俺、“料理”が得意なんだ。」


 そう、次の試験は料理なのだ。こればっかりは譲れない。梁山泊なめんなよ。


「受講者はそれぞれ定位置に付いて下さい。全員が定位置に付き次第、開始します。」


 言われるがまま、定位置に付く。錬金術師ちゃんは俺とは離れた位置になってしまったようだ。定位置もといテーブルの上には包丁、鍋などの基本的な調理器具は用意されていた。他に使いたい物があれば別途用意された場所まで取りに行く形式のようだ。食材も同様に必要な物を取りに行くようになっている。


「えー、では皆さんそろいましたので、調理技能試験を開始したいと思います。」


 ついに始まる。待ちに待ったぞ、この瞬間。


「制限時間は一時間となります。制限時間が来た時点で終了となりますので、その時点で例え調理中でも停止して下さい。そのまま続けた場合は失格となります。」


 一時間か。その間に完成させないと全てが無駄になってしまう。かといって短時間で作れる物を作ったとしても、合格できるだけのクオリティに仕上がるかどうか心配である。それと食材についても問題がある。この地域の食材は知らない物も多い。何を作るのか、本当に悩ましいところだ。


「それでは、始め!」


 始まったああ!さあ食材選びからだあ!俺は足早に食材置き場に向かった。



 
「ふう、ざっとこんなモンかな。」


 制限時間五分程前になんとか完成させた。途中でどうなるかと思って焦りはしたが、なんとかなった。食材も調理器具も、自分が今まで使い慣れてきた物とは大分勝手が違ったので、ちょっと手間取ったのだ。作った料理は炒飯である。昨日、サヨちゃんに作った時よりは出来映えはいいはずだ。これで問題ないはずだ。


「制限時間です!直ちに終了して下さい!」


 ヨシ!時間だ。今からが決着の時だ。


「さて、続いて審査に入らせて頂きます。この試験は特別審査員によって判定されます。」

 
 特別審査員?なんでこれだけそんなのがいるんだ?もー、わけがわからん。


「審査員の皆様、どうぞ!」


 会場に審査員が入ってきた。物凄く物々しい。いかにも「食を極めました」みたいな風貌のオッサンが三人ほど入ってきた。物凄いオーラを放っている。迫力だけならヴァル・ムング級である。……それと、そのオッサン共の後ろにもう一人、小さな人影があることがわかった。……女の子?ん、なんか見覚えが……、


「あんた、こんなところで何してんだ!」


 思わず叫んでしまった。何故か、サヨちゃんがいた。何、しれっと紛れ込んでんだよ!


「うるさいぞ!そこ!審査員様だぞ!」

「そんなの聞いてないぞ!納得のいく説明を要求する!」

「だまれ!……何なら、そなたを一発不合格にしてやってもよいのだぞ!妾が一言言えば、そなたなど、どうにでもなるんじゃぞ。」

「あのう、喧嘩はよろしくないかと。進行に影響がでますので、何卒、ご勘弁を。」


 司会のひとに止められた。突拍子のないことが発生したもんで、ついつい、ヒートアップしてしまった。


「言っておくが、そなたには決して忖度など一切せんからの。覚悟しておくがよい。」


 精一杯のドヤ顔でサヨちゃんは審査員席へ向かっていった。しかも、その席の札にはこう書かれていた。


(審査員長だとぉ!?)


 どういうこと!あんた、ギルドにどんなコネがあるんだよ。そんなコネがあるんなら、冒険者ライセンス、試験なしで貰うことも出来たんじゃないのか。


「それでは、審査に移ります。それでは順番に料理を持ってきて下さい。」


 審査の時間がやってきた。自信があるとはいえ、ちょっと緊張してきた。まず一人目が料理を持って行った。本人だけでなく、審査員以外の人間も緊張している空気が伝わってくる。


「お願いします!」


 料理が審査員の手元に行き渡り、それぞれ料理を口にし始める。一口だけ食べた後、誰も口を開こうとしない。シーンと静まりかえっているのがかえって緊張感を煽る。


「貴様、これでも料理のつもりか?」


 突如、所々髪に白髪が混じった強面のオッサンが口を開いた。料理のつもりかって、料理以外の何物でもないと思うが。見た感じ普通の肉料理っぽいけど。


「全く!火の通し方がなっておらん!二度と私の前に姿を見せるな!出て行け!」


 ひえ~、こっわい。なにそれ、言い過ぎじゃないの。


「精進せいよ。」

「まずいっちゃあ、まずい。」


 続いて、ひげのオッサンとオールバックのオッサンもコメントする。この二人も言葉は穏やかだが厳しい。


「だめじゃのお。この程度では犬の餌にもならぬぞ。ハイ、次!」


 サヨちゃん、結構辛辣なこと言ってる。強面のオッサンに負けず劣らずである。一体どうなるんだこの試験。

 
「次は私です!行ってきます。」


 次は錬金術師ちゃんの出番のようだ。料理は……子豚の丸焼き?かわいい見た目によらず、結構、豪快な料理で来たな。良く時間内に収まったな。火を通すのに時間かかるだろ、普通。そのまま、彼女は審査員の所へ向かっていった。


「フム……、貴様、この豚の産地はどこだ?」


 オイオイ!食材の産地を聞くんかい!たまたま用意されていた物の産地なんてわかるかよ!無理ゲーすぎだろ!


「あの、イベルゴン産でございます。」


 司会の人がフォローを入れる。そうだろうな。ギルドの人にしかわからんだろ。そういうことを聞くのは勘弁して欲しい。頼むから。


「左様か。では頂こう。」


 なんやかんやあったところでようやく口にした。ホント、面倒臭えオッサンだな、こりゃ。


「フン、つまらん味だな。見ろ、手が汚れてしまったではないか!」


 なんだと、この野郎!錬金術師ちゃんの料理を否定するとは許しがたい。


「うーまーいーぞー!」


 叫ぶな!髭のオッサン。強面の方とはリアクションが正反対だ。評価が割れたか?


「うまいっちゃあ、うまい。」

「うまいのう!見事じゃ!」


 おお!他二人も好感触みたいだ。これはいけるんじゃないか。続いて、評価の札を審査員が掲げた。


「ハイ、合格です。おめでとうございます。」


 評価はなんと、全員一致で○だった。やったぜ。人のこととはいえ、ついつい喜んでしまった。しかし、何だろう。強面のオッサンは否定的なコメントしてたような気がするが……、ツンデレかな?
 
 その後、不合格者が何人も続き、会場の空気は冷え冷えになっていた。数々の強者たちが倒れていく中で、とうとう、俺の出番が回ってきた。さあ、どうする?さあ、どうなる?こういうときは……、

 
 食は梁山泊で出来ていた。

 血潮は豚肉、心は一日七千キロ。

 幾たびの修羅場で卵一日五万個。

 ただの一度も鶏肉三千キロ。

 ただの一度も餃子は百万個。

 彼の者は常に独り、梁山泊で二日酔い。

 ゆえに食は万里を越え、

 その体は、きっと食材で出来ていた。

 
 梁山泊で無限に料理作ってたんだ!負けるはずがない。これで問題ないはずだ。雑用超人をなめるなよ。


「では、次の方、どうぞ!」


 ヨシ!行こう。俺は意気揚々と審査員のところへと向かっていった。そして、審査員それぞれの前に炒飯を出す。


「ホウ?東国の料理とは珍しい。こんなところで食べられるとは思っておらなんだ。」

「ムム!これは素晴らしい。」

「……髪切った?」


 ちょっと待て、なんで今、髪のこと聞いてんだよ。


「なんじゃ?またこれか!ひねりがないのぉ。」

「うっせえ、ババア!見た目は同じでも、この前のとはクオリティが違うんだよ。このオリジナル・チャーハンは……、設備が違う!食材が違う!火力が違う!本気度が違う!」


 「また」なんてよく言えるな。あのとき、俺の分までキレイに平らげるぐらい、味にハマってた癖に!俺は知ってるんだぞ!


「ちょっと、ちょっと、落ち着いて下さい!審査員席から離れて下さい。」


 ホラ見ろ。また怒られたじゃないか。サヨちゃんが余計なこと言うからだ。気を取り直して……、


「いっちょ、おあがりよ!」


 審査員が実食に入る。全員、神妙な顔で一口食べる。その表情からは評価の善し悪しは読み取れなかった。


「ほう、しっかりとライスを使用しているな。炊いてから調理とは、手際が良いようだな?」

「お褒めにあずかり、光栄です。」


 手応えあり。強面のオッサンが褒めるとは珍しい。これは、勝ったな。(誰にだよ。)


「こ、これは……、うーーまーーいーーぞーーー!!!!」


 やかましいわ!普通のリアクションができんのか、このオッサンは。


「うん、うまいっちゃあ、うまい。」


 このオッサンは言うことがあっさり過ぎて、本心がわからなすぎる。次はサヨちゃんだ。


「……くやしい。」


 くやしい?サヨちゃんはうつむきながら、小刻みに震えている。何だ?腹でも壊したかな?俺の料理で腹壊されても困るけど。


「な、なんて……、」


 なんて?そう言いつつ、彼女は両手でテーブルをバン!と叩きつつ、すくっと立ち上がった。


「なんて物をつくってくれたんじゃあああ!!」 


 えぇ!?どういうこと?何、そのリアクション。


「うますぎて泣けてくるんじゃああ!泣かせんといて欲しいんじゃあ!」


 泣いとる。ていうか号泣しとる。そんなうまかったんか。


「では、審査員の皆様、判定をお願い致します。」


 ゴクリ。緊張のため、思わず唾を飲み込んだ。これで判定が決まる。と言ってもほぼもう確定してるが。


「判定は、満場一致で合格です!」


 やったぜ!なんとか得意分野は合格できた。良かった、良かった。そのまま、浮かれた気分で自分の場所に戻った。


「すごいですね!審査員の皆さん、すごい褒めてましたね。」


 錬金術師ちゃんがすかさず褒めてくれる。ホントええ娘や。


「そうでもないっすよ。……自分、不器用ですから。」


 できうるかぎりのドヤ顔で言ってみた。こんな経験初めてかもしれん。なんて試験を用意してくれたんじゃああ!
 
 この調理実技が全課程の最後だったため、俺は余裕をもって勝利の余韻に浸り続けることが出来た。その後、相変わらず多数の不合格者を出し続け、とうとう最後の一人になった。さあ、オオトリはどんな奴だ?


「ゴッツァンデス!!」


 また、お前か!力士マン!お前、どんだけ多才なんだよ!


「では、どうぞ!」


 司会に促され、力士は一つの大鍋を審査員たちの目の前に置く。なんだ、あの料理は!見たことも、聞いたこともないぞ。


「ホウ!これはまた!極東の国の料理ではないか!こんな貴重な物をこんなところで食べられるとは思いもしなかったぞ。」

「確か、チャンコ鍋といったか、この料理は。」

「すごいっちゃあ、すごい。」

「なんじゃ、この料理は!ワクワクが止まらんぞ!」


 何か尋常じゃないくらい、審査員の興味を引いている。これだと、嫉妬してしまうではないか。


「では、早速頂こう。」


 オッサン共が実食に入った。サヨちゃんは既に食べ始めている。ていうか、ガッついている。あんたはどんだけ食いしん坊なんだ。


「フム、全ての食材が丁寧に下ごしらえされておる。実に良い。……こんな料理を考えたのは誰だあ!」


 知るか!もはや、よくわからんことを口に出すようになってきている。


「全ての食材が見事に調和している。なんたること!うーーまーーいーーぞおーーー!!」


 うるさい。ウザい。もういいよ。


「これを食べるとお酒がすすむよね!うまいっちゃあ、うまい。」


 オイオイ、いつの間に酒を出したんだよ。仕事中だろ。飲むな!


「な、なんて事をしてくれたんじゃああ!!これは肉と野菜の大運動会じゃああ!!」


 とうとう、頭がおかしくなったか、サヨちゃんよ。


「こんなうまい物は食べたことがない!これに比べると、ロアの作った物はカスじゃ!!」


 言いやがったな、コノヤロウ!そんなこと言ったら、二度と食べさせないぞ。


「さ、さて、大変盛り上がっておりますが、判定の方を……、」

「もう良い!判定など、どうでも良い!こやつが優勝じゃ!……他はみんな、カスじゃ!全員不合格じゃ!以上!!」

「ご、ゴッツァンデス!!」


 なんだとこらあ!合格取り消しとはどういうことだ。それといつから試験が大会みたいになってるんだよ!不満なのは当然、俺だけじゃない。方々からも大ブーイングの嵐である。


「チクショー!!お、俺の方がもっとおいしい物を作れるんだからね!!」

「ああっ!!勇者様!どこへ!」


 俺は会場を飛び出した。やってられっか!
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