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第1章 英雄と竜帝

第22話 師、曰く。 ~真髄とは~

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「一0八計の真髄?なんですか、それ?」

 唐突な師父の問いに戸惑った。習得している技は、未だ少なく、その真髄にたどり着くには更なる年月を費やす事になるだろう。

「今のあなたが思っていることで構いませんよ。」

 やさしく師父は言う。とはいえ、適当に答えるわけにもいかず、今の自分の知識を総動員して、答えをひねりだそうと試みる。

「う~ん、いついかなるときでも敵に対応してそれを倒すみたいなことですかね?」

「それは間違いではありませんが、あくまで表面的なものです。」

 余計にわからなくなってきた。頭がこんがらがる。

「難しく考えなくていいんですよ。あなたに初めて会った時にも言ったはずですよ。」

 師父に初めて会った時?何か大切なことを言われた気がするが、はっきり思い出せなかった。大切なことなのに。

「武術とは弱き者のためにある。確かにこう言ったはずですよ。」

 そうだった。あの時、絶望に打ちひしがれていた自分に、希望の光を灯したのは、この言葉だった。

「正直、今の梁山泊はこの真髄から、かけ離れている気がします。あまりに勝利にこだわるあまり、力に固執しすぎているのです。流派を守るため仕方無かった側面もありませんが、それではあまりにも血で汚れすぎた。強者がさらに力を探求するために使われれるようになってしまったのです。」

 ロアの認識では最初から力の、強い梁山泊しか知らない。世間一般でも恐らくそういう認識なのは間違いないだろう。最強にして至高の流派として人々から恐れられている。一体いつから、そうなってしまったのかは知らない。

「ですが、私はこの風潮に対して、異を唱えます。真髄を忘れてしまっては、流派の存在意義がなくなってしまいます。それに……、」

 何かを言おうとして、師父はそこで口をつぐんだ。

「それに……?」

 ロアは言葉の続きを促す。

「それに、戦技一0八計を極めることは出来なくなると言われています。古い言い伝えでは戦技一0八計を極めた者は全てを制すると言われています。時間、空間、物事の摂理をも超えて、世界の構造をも理解するのだと言われています。」

 気の遠くなるような話だった。技を極め、真髄を理解することがどうして世界を理解することに繋がるのか?さっぱり理解できない。

「じゃあ、師父はその、極めることができたんですか?」

 恐れ多いことを聞いてしまったのは理解している。だが好奇心のほうが勝ってしまった。

「いえ。さすがに私でも無理ですよ。修行中の身です。まだ、ほんの一部が見えただけに留まっています。ですが、先程話したことが少しでも垣間見えたのは事実です。正直、恐ろしいいとさえ思えました。」

「俺に出来るんでしょうか?そんなことが。」

 大それたことを口にしているのは理解していた。自分にはまだほんのわずかしか習得できていないのだから。

「ええ。出来ますよ。いつの日か。そうでなければ、あなたを弟子にしてませんよ。」

「いつの日か……。」

 それがいつになるかはわからない。途方もない鍛練の先にそれはあるのだろうか?果ての見えない到達点はいつになったら見えるのだろうか?
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