上 下
4 / 346
第1章 英雄と竜帝

第4話 勇者、巻き込まれる。

しおりを挟む
「やべえなほんとに大事に巻き込まれちまったよ。」

 昨晩の間にロアはクルセイダーズの二人のやりとりを見つつ、適当に相槌を打ちながら、状況を推測した。竜帝を討伐する……というのは表向きな理由で、あくまであのヴァル・ムングの目的を阻止することが目的らしい。

 その目的というのがロアとっては理解しがたい内容であった。二人に詳細を確認したかったが、あまり深く詮索すると、ロア自身が勇者でないことが露呈してしまうためそれは出来なかった。

 他にもわからないことがある。何故、ロアが勇者として認識されているかということだ。あまり面識のない村人ならともかく、クルセイダーズの二人やヴァル・ムングにまで勇者として認識されている。ロアは思い返してみても勇者の顔には、正直似ているとは到底思えなかった。原因があるとすれば、勇者から受け取った頭冠である。あれを受け取ってから、一度しか見ていない勇者の技を使うことができたし、それにあの刺客はこれを奪おうとしていた。

 やはり、何らかの秘密があるに違いない。そういう意味でも、無闇に頭冠をはずすことは出来ない。とにかく、この場をうまく切り抜けて立ち去りたいというのがロアの本音であった。

「……おい!大丈夫か?聞いているのか?」

 思索に耽っていると、魔術師、ファルから声を掛けられていた。

「え?…、ああ、まあ大丈夫。」

 先程の思考を読まれていたのではないかと、思わずドキリとしてしまう。もちろんそんなことはないはずなのだが、内容が内容だけに思わず、そう思ってしまう。

「あらら~♪、まさか勇者様ともあろうお方が怖じ気づいたんじゃないでしょうね?」

 横から神官、ジュリアから茶々を入れられてしまう。昨日もそうだったがこの娘は一々他人にたいして意地悪な言動をしてくるので、もちろん彼女には一切悪気はないのだろうが、ロアからしたら苦手なタイプだった。女性慣れしていないこともあって尚更である。ファルの方も魔術師ということもあり、思慮深く、疑り深いようなので、ロアはことの真相がばれてはしないかと常にはらはらしていた。

「そりゃ、多少は怖いぜ。」

「なんか、あんたさあ、キャラ変わってない?なんか腰引けてるよ?」

 痛いところを突いてきた。やはり元の勇者からすると立ち振舞いに違和感があるのだろうか?

「そ、そりゃあよ~、相手はなんたって、あの竜帝なんだぜ?怖いだろ?」

 動揺を隠しきれず、思わず口調が上擦ってしまう。

「あんたわかってる?あくまであたしたちの目的はあいつの計画を阻止することにあるんだからね?竜帝と戦うのはやむを得ず戦うはめになったらってだけ。多分あたしらだけじゃ勝てっこないし、クルセイダーズの精鋭をかき集めたって勝てるかどうかよ?」

「……まあ、そうならないためにも竜帝の棲みかに辿り着く前にあいつを阻止しろってことだ。」

 ファルはいかにも話を話を早く終わらせたげな様子であった。

「問題は他の討伐隊のやつらだな。どれだけヴァル・ムングの息のかかったやつがいるかわからん。場合によっては連中全てを相手にしないといけないかもな。」

 蛇が出るか鬼が出るか、ロアにとっては全てが未知数なため、竜帝だろうが竜食いの英雄だろうが大差ないように思えた。

「じゃあ行くぞ!二人ともせいぜい気を張っていけよ!」

 彼らは討伐隊の集合場所へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...