可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか？

２章 新しい暮らし

４、運命の人がやってくる ルネ視点

「オリビア様をのせた馬車がこちらに向かっている」

　私は脳裏に浮かんだ景色をボソリと口にする。

　いつの頃からだったろう。

　こんな風にちょっと先の出来事が見えるようになったのは。

　亡くなった私の母は占い師だったけれど、的中率の高さでいつしか魔女と呼ばれていたという。

　ひょっとしたら、そんな母の能力が私の体内で少しずつ覚醒している？

　もしそうなら、それは母のような不幸な人生を私も歩むって事じゃない。

　生前の母の元には国内外の権力者さえも、隠密で訪れていたらしい。

　そしてその中の１人と母は恋におちた。

　相手は故ハミルトン国王である。（その事実は国王の次男から最近聞いたばかりだけれど）

　が、国王にはすでに立派な王妃がいた。

　だから母は妊娠を国王に告げず密かに私を産み落としたが、その直後に亡くなったというわけだ。

   なんて哀れなのよ。

「笑える。
　肝心の自分の未来がわからなかったなんて。
　そんな役立たずな能力なんか私は欲しくないし、ハミルトンの人とも関わりたくない。
　だからほっといて下さい！」

　私を保護しようと施設を訪れたアラン様に何度も声をあらげた。

　なぜって、アラン様が私の能力を利用するつもりだと勘違いしていたから。

「あんなに抵抗していたのに、アラン様をお兄様と呼べる日がくるなんて不思議なもんね。
　自分の未来が読めない方が、案外面白いものかもしれないわ」

　椅子から立ち上がって、雨粒が激しくぶつかる大きな窓ガラスにソッと両手をあてて目を閉じる。

「とうとうオリビア様をのせた馬車は邸の門を通過した。
　思ったとおり、オリビア様は私の運命の人に違いない」

　なぜなら。

　ゆらゆりと見える映像の中のオリビア様は、金と銀に眩く輝いているからだ。

　そんな風に見えた人は初めてだった。

   初めてオリビア様を認識したのは、登校途中校門をくぐった時である。

『まちなさい、マリー。
　腹がたったなら、自分でやるべきでしょ。
　こんな風にね』

  そう言うとオリビア様は平民をバカにするマリー(様付けしたくない)の頬をピシャリとうったのだ。

　次期王太子妃を鋭く睨みつける凛とした涼やかな瞳。

　怒りのせいでバラ色に紅潮した頬。

　あの瞬間のオリビア様に私の心臓はかつてないほど高鳴ったのだ。

「オリビア様は私の運命の人に間違いない」

　貴族学園に編入したものの、施設育ちの私はマリー派の生徒達にからかわれへこんでいた。

　だからこそ、直感的にオリビア様に最大の期待をもつようになったのだ。