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2章 新しい暮らし
1、まるでノラね
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「勝手にしろ!
可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」
「引きとめられる事を計算にいれたポーズだろうけど。おあい憎様。
前妻そっくりのオマエがいなくなったら、私はセイセイするわ。
頼まれても引きとめるもんですか!」
シロを胸に抱いて玄関へ向かう背中にたくさんの罵声が浴びせられた。
「何十年も家族として暮らしてきたのに最後の態度がアレよ。
おかげで1ミリも悲しくないけど」
なんて強がってみても、自然に涙が頬をつたう。
「クウーン」
シロが心配そうに私の涙をペロペロとなめて、すぐにギュツと顔をしかめた。
「バカね。涙はショッパイのよ」
可愛いしかめっ面に思わず笑ってしまう。
やっぱりシロは私の癒しだ。
「これからも一緒にいようね」
フワフワした身体に頬ずりをしながら、公爵家を去ってゆく。
「さよなら。
オリビア公爵令嬢」
邸の青銅色の荘厳な門を見上げ呟くと、あてもなく街をさまよう。
「あら、いつのまにかこんな所まで来ていたのね」
しばらくして道を挟んだ向こうに老舗宝石店「エリーゼ」を見つけ、驚きの声を上げた。
そこはかつてヒョイ様と訪れた店なのだ。
「たしか婚約指輪の下見だったわね」
お店の特別室で、複雑な味のハーブティーとクッキーでもてなされた事は今でもはっきりと覚えている。
ヒョイ様が選んでくれた指輪はどんな感じだったのか思い出せないのに……。
さすが食いしん坊の私だ。
「あのクッキーは本当に最高だったわ」
店主の奥様が私達の為にわざわざ焼いてくれたスミレ色のお菓子を思いだしたとたん、ギュルルとお腹がなった。
「そう言えばお夕飯がまだだわ」
黄昏た街のあちこちのレストランから美味しそうな香りが漂ってきて、より空腹が刺激される。
「どこかで休憩したいけれど手持ちのお金はゼロ。
しかたないから『エリーゼ』で少し休ませてもらいましょう。
上手くいけばあのクッキーがいただけるかもしれないわ」
厚かましいけれど背に腹はかえららない。
ぐったりと地面でへばっているシロを抱き上げると、イソイソとお店へ向かった。
「お久しぶりです」
とお店の白い扉に手をかけるやいなや、店内から主がツカツカとやってくる。
「さすがだわ。
遠目でもすぐに私って気がついてくれたのね」
胸がキュンと高鳴った時だった。
「こら!
ここは平民がくるような店じゃないんだ。
トットと帰りやがれ」
と声を荒げた店主にハタキで身体をぶたれたのは。
「え?
アナタは本当にあの時の店主なの」
口の中でモゴモゴ言っていると、今度は頭からバシャーンと水を浴びせられた。
「『エリーゼ』は王太子様御用達なんだよ。
そんな小汚い恰好でウロウロされたら困るんだ」
前髪からポタポタと落ちてくる雫をぬぐって顔を上げると、あの時優雅な様子でクッキーをふるまってくれた奥様が血相をかえて私を睨んでいる。
「まさかあんな人達だったとは……。
びっくりだわ。
悪い夢でも見たみたいだわ」
まるでノラ犬のようにフラフラと街を歩いていたら、どこからか豪華な馬車がやってきて私の目の前でピタリと止まる。
「やっぱり夢を見ているの?」
目を丸くして首を傾けていると馬車の中から、輝く仮面をつけたスラリとした男が現れたのだ。
可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」
「引きとめられる事を計算にいれたポーズだろうけど。おあい憎様。
前妻そっくりのオマエがいなくなったら、私はセイセイするわ。
頼まれても引きとめるもんですか!」
シロを胸に抱いて玄関へ向かう背中にたくさんの罵声が浴びせられた。
「何十年も家族として暮らしてきたのに最後の態度がアレよ。
おかげで1ミリも悲しくないけど」
なんて強がってみても、自然に涙が頬をつたう。
「クウーン」
シロが心配そうに私の涙をペロペロとなめて、すぐにギュツと顔をしかめた。
「バカね。涙はショッパイのよ」
可愛いしかめっ面に思わず笑ってしまう。
やっぱりシロは私の癒しだ。
「これからも一緒にいようね」
フワフワした身体に頬ずりをしながら、公爵家を去ってゆく。
「さよなら。
オリビア公爵令嬢」
邸の青銅色の荘厳な門を見上げ呟くと、あてもなく街をさまよう。
「あら、いつのまにかこんな所まで来ていたのね」
しばらくして道を挟んだ向こうに老舗宝石店「エリーゼ」を見つけ、驚きの声を上げた。
そこはかつてヒョイ様と訪れた店なのだ。
「たしか婚約指輪の下見だったわね」
お店の特別室で、複雑な味のハーブティーとクッキーでもてなされた事は今でもはっきりと覚えている。
ヒョイ様が選んでくれた指輪はどんな感じだったのか思い出せないのに……。
さすが食いしん坊の私だ。
「あのクッキーは本当に最高だったわ」
店主の奥様が私達の為にわざわざ焼いてくれたスミレ色のお菓子を思いだしたとたん、ギュルルとお腹がなった。
「そう言えばお夕飯がまだだわ」
黄昏た街のあちこちのレストランから美味しそうな香りが漂ってきて、より空腹が刺激される。
「どこかで休憩したいけれど手持ちのお金はゼロ。
しかたないから『エリーゼ』で少し休ませてもらいましょう。
上手くいけばあのクッキーがいただけるかもしれないわ」
厚かましいけれど背に腹はかえららない。
ぐったりと地面でへばっているシロを抱き上げると、イソイソとお店へ向かった。
「お久しぶりです」
とお店の白い扉に手をかけるやいなや、店内から主がツカツカとやってくる。
「さすがだわ。
遠目でもすぐに私って気がついてくれたのね」
胸がキュンと高鳴った時だった。
「こら!
ここは平民がくるような店じゃないんだ。
トットと帰りやがれ」
と声を荒げた店主にハタキで身体をぶたれたのは。
「え?
アナタは本当にあの時の店主なの」
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そんな小汚い恰好でウロウロされたら困るんだ」
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「まさかあんな人達だったとは……。
びっくりだわ。
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まるでノラ犬のようにフラフラと街を歩いていたら、どこからか豪華な馬車がやってきて私の目の前でピタリと止まる。
「やっぱり夢を見ているの?」
目を丸くして首を傾けていると馬車の中から、輝く仮面をつけたスラリとした男が現れたのだ。
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