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1章 可愛いは無敵

11、黒い微笑み マリー視点

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「そこはそうじゃありません。
 マリー様は本当に物覚えが悪いざますね。
 オリビア様の記憶力はあんなに素晴らしいと言うのに」

「姉妹なのに学習能力に差がありすぎますな。
 せめてオリビアの半分、いや。
 半分の半分でも頭が良ければ、私も苦労しなかったのに」

 物心つくと私にも家庭教師がつけられたが、授業の度に教師からこんな風に嫌味ばかり言われた。

 そして、ついには使用人達まで私をバカにし始めたのだ。

「オリビア様は立派なレデイー。
 それに比べて、マリー様のはしたないこと。
 やはり血は争えないものね」

「オリビア様のお母様は公爵令嬢だったけど、マリー様のお母様は娼婦あがりでしょ。
 育ちが違いすぎるのよ」

 あの頃の私の心はボロボロだった。

 どんなに頑張ってもお姉様のようになれなかったから。

「お母様。
 どこかにいるという闇の魔法使いを探してちょうだい。
 黒い魔法で私をこの世から消してもらいたいから。
 だってね。
 優秀なお姉様と比べられて、毎日が惨めだもん」

 ある日の事だった。

 思いつめてお母様の部屋を訪れると、顔をクシャクシャにして泣きじゃくったわ。

 部屋の窓にコウコウと月が輝く夜だった。

「マリー、あなたが泣く必要なんて1ミリもないわ。
 なぜならね。
 あなたの方がオリビアより、将来幸せになるからよ」

「お母様の大嘘つき。
 バカな私が天才のお姉様に勝てるわけないでしょ」

「嘘じゃないわ。
 貴族だろうが王族だろうが男がスケベである限り、マリーの勝ちよ」

 お母様はキッパリと言い切ると、黒く微笑んだ。

「お母様っていつも綺麗だけど、今晩はより綺麗よ」
 
 私は月の光に照らされて、青白く浮かびあがるお母様の顔に陶酔した。

「たしかに、大人になるにつれお母様の言う通りになってきたわ。
 そして、とうとうあのお姉を潰すことに成功したのよ」

「よっしゃ!」と手で拳をつくって、勢いよくロッキングチェアから立ち上がった時だ。

 ヌルリとした生暖かい感覚が、下半身を伝わったのは。

「ええええ!
 ウッソー」

 遅れてやってきた月の物に、私は両手で両耳をふさいで絶叫した。

「ヤバ。
 マリー妊娠してなかったんだ。
 とりあえず、しばらくはヒョイ様には秘密にしておこうっと」

 誰もいないのに、唇を両手でおおい声をひそめる。

「マリーもけっこうな悪女ね」

 私はあの夜のお母様のように黒く微笑んだ。














 
 
 

 
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