上 下
37 / 43

三十七、穏やかな実家暮らし1

しおりを挟む
玄関を一歩ふみだすと、豪華な王宮の馬車が待っていた。

「こんな馬車、今の私には晴れがましすぎるわ」 

馬車の前でとまどっていると、空からルークが舞い降りてきて肩にとまる。

「なにをグズクズしてるんだ。
はやくのれ。
アイリスが悪いことをしたワケじゃないんたぞ。
堂々と、実家へ戻るんだ」

「また鷲さんにお説教されちゃたわ」

「バカいうな。
鷲じゃなくて、優秀な使い魔だろ」

口調ばかりか、すねる様子まで王子にそっくりで、つい吹き出してしまう。

「こら。ここは笑うところじゃない」

ルークは不満そうな声をだす。

けど、あれこれ話している間に、さっきまでの戸惑いも薄れていったようだ。

「わかりました。
おおせの通りにいたします。
なんなら王妃様のように、馬車の窓からお手ふりをしようかしら」

「それはちょっとやり過ぎだろ」

冗談を本気にとったルークが、困ったように首をひねる。

「ふふふ。ちょっとからかっただけよ」

笑いながら馬車にのりこむと、ルークはフンと大きく鼻をならして飛んでいった。

「では、出発いたします」

御者が、不思議そうな顔をしてこちらを
振り向く。

魔力のない者には、ルークはただの鷲にしか見えないはずだ。

鷲とボソボソと話している私は、イタイ女にうつっていたのだろう。 
  
「お願いいたします」

頭を下げると、ゆるやかに馬車は走り始めた。

これからは、人前でルークと話すのはやめよう。

窓から街並みを眺めながら、反省をする。

そうしている間に、馬車は実家の前に到着した。

「お父様はどう思ってるかしら」

ゴットン達が悪いとはいえ、嫁が婚家をおとしめたのだ。

古風なお父様なら、激怒しているかもしれない。

馬車が帰ってゆく音を聞きながら、不安な気持ちで玄関に足をふみいれた。
 
「やはり、迎えの者は誰もいないのね」

そう言ってうつむいた時だった。

長い廊下の向こうから、両手をひろげてお父様が歩いてきたのだ。

「イエルから全部話はきいた。
私が軽率にアイリスの結婚を決めたのが、悪かったのだ。 
すまない。許してくれ」

お父様に抱きしめられたのは、成人して初めてだ。

「お父様のせいじゃないわ。
私がうまく立ち回れなかったのが、悪いのよ」

「それは違うぞ。
まずは食事をしてから、ゆっくりと話をきかせておくれ」

お父様は私が持っていたトランクを、自分で持ち大広間へとむかう。

「何か催しでもあるのかしら。
悪いけど、私は出席する気分じゃないわ」

「まあ。そうつれないことをいうな。
疲れているだろうけど、少しだけつきあってくれ。
皆が会いたがっているし」

大広間の前に立つお父様の頬が、ゆるんでいる。

ひょっとしたら、お父様再婚するのかしら。 

皆って、新しい家族のことなの。

緊張して、そうっと分厚い扉を開く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜人族の婿様は、今日も私を抱いてくれない

西尾六朗
恋愛
褐色の肌に白い角、銀の尻尾を持つ美貌の竜人マクマトは一族の若様だ。彼と結婚した公女フレイアは、新婚だというのに一緒にベッドにすら入ってくれないことに不安を抱いていた。「やっぱり他種族間の結婚は難しいのかしら…」今日も一人悶々とするが、落ち込んでばかりもいられない。ちゃんと夫婦なりたいと訴えると、原因は…「角」? 竜人と人間の文化の違いを楽しむ異種婚姻譚。 (※少量ですが夜の営みの話題を含んでいるます。過激な描写はありません) 【※他小説サイトでも同タイトルで公開中です】

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

囚われた姫騎士は熊将軍に愛される

ウサギ卿
恋愛
ラフラン帝国に姫騎士と称された魔法騎士団長がいた。 北方の獣人の治めるチューバッカ王国への進軍の最中思わぬ反撃に遭い、将軍の命により姫騎士率いる部隊は殿を務めていた。 何とか追っ手を躱していくが天より巨大な肉球が襲いかかってくる。 防御結界をも破壊する肉球の衝撃により姫騎士は地に伏してしまう。 獣人の追撃部隊に囲まれ死を覚悟した。 そして薄れゆく意識の中、悲痛を伴う叫び声が耳に届く。 「そこを退けーっ!や、やめろっ!離れろーっ!それは!・・・その者は儂の番だーっ!」 そして囚われた姫騎士ローズマリーはチューバッカ王国にその熊有りと謳われた、ハッグ将軍の下で身体の傷と心の傷を癒していく。 〜これは番に出会えず独り身だった熊獣人と、騎士として育てられ愛を知らなかった侯爵令嬢の物語〜

婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」 ……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。 しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。 何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。 少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。 つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!! しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。 これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。 運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。 これは……使える! だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で…… ・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。 ・お気に入り登録、ありがとうございます! ・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします! ・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!! ・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!! ・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます! ・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!! ・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

処理中です...