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十四、レオン王子
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「なるほどね。そういうことか。
アイリスをないがしろにするなんて、ゴットン君も許せないな」
ひととおり話をうちあけると、お兄様は眉をつりあげた。
「そのうえ、私に聖女様に謝罪しろ、なんて幻滅したわ」
「むしろ、逆だよな。
ゴットンと聖女様とやらが、アイリスに謝罪すべきだ。
元はと言えば、レオン王子が性悪な聖女を、アイリスに押しつけたからいけないんだ」
日頃はとても温厚なお兄様が、大きな声をあげたと同時に、扉がバタリと開いて、彫刻のような整った顔が現れた。
「おい。オレがどうかしたか」
艶やかな金髪、宝石のように輝くエメラルドの瞳、煌びやかなオーラを纏ったレオン王子の登場だ。
「これはこれは王子様。
わざわざ、おこしいただかなくても、呼んでいただければ、すぐに参上したものを」
お兄様は、王子に恭しく敬礼をする。
「くさい芝居はよせよ。
ここは王宮じゃないんだ。
気持ち悪いから、いつものようにレオンと呼べ。
今日は、おまえの所で、剣術の稽古をする約束だったろ」
レオン王子は、お兄様の額を人差し指でツンとつくと、白い歯を見せた。
「すまん。アイリスショックで、すっかり忘れていた」
お兄様は、ピタリと身体にそう白いシャツ、黒いパンツの稽古着姿の王子を見て頭をかく。
私が、レオン王子と初めて会ったのは、貴族学園の中等部の時だ。
高等部に通っていたお兄様の親友である王子が、夏休みを利用して邸へ泊まりにきた時に紹介された。
たくさんの護衛騎士を従えたレオン王子に、最初は近寄り難い印象をうけたものだ。
けど、数日でわかってしまう。
本当は、気さくでやんちゃな普通の男子学生ということに。
それから、二人が貴族学園を卒業するまでの数年、私もよせて三人で遊ぶことも多かった。
レオン王子に会って、あの頃の楽しかった思い出が胸によみがえってくる。
「お、アイリス。久しぶり。
結婚式以来かな。
なんだ。すっかり色っぽい人妻かと思いきや、全然かわってないな」
そう言うと、レオン王子は笑う。
「そうですか」
うつむいて、消え入りそうな声をだす。
「そう落ち込むな。冗談だ。
そー言えば、さっきイエルが妙なことを言っていたな。
えーと、そうだ『アイリスショック』だ。
まさか、アイリスになにかあったのか」
レオン王子は、驚いたように大きく目をみひらいた。
「そんなことになっていたとはな。
すべてはオレが、アイリスに聖女教育をたのんだせいだな」
長い足を組んで、ソファに腰掛けている王子は、お兄様から事情を聞くと、申し訳なさそうな声をだす。
「やめてください。悪いのは王子様じゃありませんから」
「そう言ってくれると、心が楽にはなるが。
当然。アイリスは聖女に謝罪などする必要はないぞ」
隣に座った私の顔を、レオン王子はのぞきこんだ。
優しい眼差しをむけられて、なんだか落ちつかない。
「ありがとうございます。
そう言っていただき心強いです」
「これからアイリスはどうしたいんだ。
まさか、ゴットンと別れるのか」
レオン王子は、緊張した面持ちで、私の答を待っていた。
「いえ。この程度のことでは。
とくに聖女様は、まだここの常識を知らないだけのようですから、きっちりと教えてさしあげたいです」
「そうか。けど荒削りだがあの聖女の魔力は、相当なものらしいぞ。
教育係でいる間は、それを上回る魔力があった方が、何かとしめしがつくだろう。
アイリス。オレにいい考えがある。
今から、二人で魔鳥の卵を探しにいこう」
レオン王子の大きな手が、私の手をとる。
「魔鳥の卵探しですか」
悪いけど、さすがに今はピクニック気分なんかじゃない。
王子の真意をはかりかねて、小首をかしげる。
アイリスをないがしろにするなんて、ゴットン君も許せないな」
ひととおり話をうちあけると、お兄様は眉をつりあげた。
「そのうえ、私に聖女様に謝罪しろ、なんて幻滅したわ」
「むしろ、逆だよな。
ゴットンと聖女様とやらが、アイリスに謝罪すべきだ。
元はと言えば、レオン王子が性悪な聖女を、アイリスに押しつけたからいけないんだ」
日頃はとても温厚なお兄様が、大きな声をあげたと同時に、扉がバタリと開いて、彫刻のような整った顔が現れた。
「おい。オレがどうかしたか」
艶やかな金髪、宝石のように輝くエメラルドの瞳、煌びやかなオーラを纏ったレオン王子の登場だ。
「これはこれは王子様。
わざわざ、おこしいただかなくても、呼んでいただければ、すぐに参上したものを」
お兄様は、王子に恭しく敬礼をする。
「くさい芝居はよせよ。
ここは王宮じゃないんだ。
気持ち悪いから、いつものようにレオンと呼べ。
今日は、おまえの所で、剣術の稽古をする約束だったろ」
レオン王子は、お兄様の額を人差し指でツンとつくと、白い歯を見せた。
「すまん。アイリスショックで、すっかり忘れていた」
お兄様は、ピタリと身体にそう白いシャツ、黒いパンツの稽古着姿の王子を見て頭をかく。
私が、レオン王子と初めて会ったのは、貴族学園の中等部の時だ。
高等部に通っていたお兄様の親友である王子が、夏休みを利用して邸へ泊まりにきた時に紹介された。
たくさんの護衛騎士を従えたレオン王子に、最初は近寄り難い印象をうけたものだ。
けど、数日でわかってしまう。
本当は、気さくでやんちゃな普通の男子学生ということに。
それから、二人が貴族学園を卒業するまでの数年、私もよせて三人で遊ぶことも多かった。
レオン王子に会って、あの頃の楽しかった思い出が胸によみがえってくる。
「お、アイリス。久しぶり。
結婚式以来かな。
なんだ。すっかり色っぽい人妻かと思いきや、全然かわってないな」
そう言うと、レオン王子は笑う。
「そうですか」
うつむいて、消え入りそうな声をだす。
「そう落ち込むな。冗談だ。
そー言えば、さっきイエルが妙なことを言っていたな。
えーと、そうだ『アイリスショック』だ。
まさか、アイリスになにかあったのか」
レオン王子は、驚いたように大きく目をみひらいた。
「そんなことになっていたとはな。
すべてはオレが、アイリスに聖女教育をたのんだせいだな」
長い足を組んで、ソファに腰掛けている王子は、お兄様から事情を聞くと、申し訳なさそうな声をだす。
「やめてください。悪いのは王子様じゃありませんから」
「そう言ってくれると、心が楽にはなるが。
当然。アイリスは聖女に謝罪などする必要はないぞ」
隣に座った私の顔を、レオン王子はのぞきこんだ。
優しい眼差しをむけられて、なんだか落ちつかない。
「ありがとうございます。
そう言っていただき心強いです」
「これからアイリスはどうしたいんだ。
まさか、ゴットンと別れるのか」
レオン王子は、緊張した面持ちで、私の答を待っていた。
「いえ。この程度のことでは。
とくに聖女様は、まだここの常識を知らないだけのようですから、きっちりと教えてさしあげたいです」
「そうか。けど荒削りだがあの聖女の魔力は、相当なものらしいぞ。
教育係でいる間は、それを上回る魔力があった方が、何かとしめしがつくだろう。
アイリス。オレにいい考えがある。
今から、二人で魔鳥の卵を探しにいこう」
レオン王子の大きな手が、私の手をとる。
「魔鳥の卵探しですか」
悪いけど、さすがに今はピクニック気分なんかじゃない。
王子の真意をはかりかねて、小首をかしげる。
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