上 下
14 / 43

十四、レオン王子

しおりを挟む
「なるほどね。そういうことか。
アイリスをないがしろにするなんて、ゴットン君も許せないな」

ひととおり話をうちあけると、お兄様は眉をつりあげた。

「そのうえ、私に聖女様に謝罪しろ、なんて幻滅したわ」

「むしろ、逆だよな。
ゴットンと聖女様とやらが、アイリスに謝罪すべきだ。
元はと言えば、レオン王子が性悪な聖女を、アイリスに押しつけたからいけないんだ」

日頃はとても温厚なお兄様が、大きな声をあげたと同時に、扉がバタリと開いて、彫刻のような整った顔が現れた。

「おい。オレがどうかしたか」

艶やかな金髪、宝石のように輝くエメラルドの瞳、煌びやかなオーラを纏ったレオン王子の登場だ。

「これはこれは王子様。
わざわざ、おこしいただかなくても、呼んでいただければ、すぐに参上したものを」

お兄様は、王子に恭しく敬礼をする。

「くさい芝居はよせよ。
ここは王宮じゃないんだ。
気持ち悪いから、いつものようにレオンと呼べ。
今日は、おまえの所で、剣術の稽古をする約束だったろ」

レオン王子は、お兄様の額を人差し指でツンとつくと、白い歯を見せた。

「すまん。アイリスショックで、すっかり忘れていた」

お兄様は、ピタリと身体にそう白いシャツ、黒いパンツの稽古着姿の王子を見て頭をかく。

私が、レオン王子と初めて会ったのは、貴族学園の中等部の時だ。

高等部に通っていたお兄様の親友である王子が、夏休みを利用して邸へ泊まりにきた時に紹介された。

たくさんの護衛騎士を従えたレオン王子に、最初は近寄り難い印象をうけたものだ。

けど、数日でわかってしまう。

本当は、気さくでやんちゃな普通の男子学生ということに。

それから、二人が貴族学園を卒業するまでの数年、私もよせて三人で遊ぶことも多かった。

レオン王子に会って、あの頃の楽しかった思い出が胸によみがえってくる。

「お、アイリス。久しぶり。
結婚式以来かな。 
なんだ。すっかり色っぽい人妻かと思いきや、全然かわってないな」

そう言うと、レオン王子は笑う。

「そうですか」

うつむいて、消え入りそうな声をだす。

「そう落ち込むな。冗談だ。
そー言えば、さっきイエルが妙なことを言っていたな。
えーと、そうだ『アイリスショック』だ。
まさか、アイリスになにかあったのか」

レオン王子は、驚いたように大きく目をみひらいた。

「そんなことになっていたとはな。
すべてはオレが、アイリスに聖女教育をたのんだせいだな」

長い足を組んで、ソファに腰掛けている王子は、お兄様から事情を聞くと、申し訳なさそうな声をだす。

「やめてください。悪いのは王子様じゃありませんから」

「そう言ってくれると、心が楽にはなるが。
当然。アイリスは聖女に謝罪などする必要はないぞ」

隣に座った私の顔を、レオン王子はのぞきこんだ。

優しい眼差しをむけられて、なんだか落ちつかない。

「ありがとうございます。
そう言っていただき心強いです」

「これからアイリスはどうしたいんだ。
まさか、ゴットンと別れるのか」

レオン王子は、緊張した面持ちで、私の答を待っていた。

「いえ。この程度のことでは。
とくに聖女様は、まだここの常識を知らないだけのようですから、きっちりと教えてさしあげたいです」

「そうか。けど荒削りだがあの聖女の魔力は、相当なものらしいぞ。
教育係でいる間は、それを上回る魔力があった方が、何かとしめしがつくだろう。
アイリス。オレにいい考えがある。
今から、二人で魔鳥の卵を探しにいこう」

レオン王子の大きな手が、私の手をとる。

「魔鳥の卵探しですか」

悪いけど、さすがに今はピクニック気分なんかじゃない。

王子の真意をはかりかねて、小首をかしげる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...