上 下
50 / 60

49、あきれたお父様

しおりを挟む
「元婚約者ってほんとに酷い奴だな。
 おまけにおかしなババアもついてるし。
 アイリーンはあんな奴のどこか良かったんだい」

 マリーンより一足早く庭へでた私の乱れた髪を手ぐしで整えながら、フラン様が眉をしかめる。

 いつも穏やかなフラン様の口から、ババアなんて言葉がとびだしてきたので、少しビックリした。

 フラン様はかなりいらだっているようだ。

「どこって言われても」

 特に浮かばない、と言おうとした。

 けれどアラン様にケリをいれられたお腹が急に痛みだして、スラスラと答えられない。

「なんで口ごもるの。
 もしかしたら、あの男の全部が好きだったりして。
 確かに国宝級のイケメンだったよな」

「元婚約者が国宝ならフランは……」

 世界遺産よ、と口にしようとした時、また脇腹が痛みだして言葉がとぎれてしまう。

「痛い!」

 声をあげるやいなや、フラン様に強く抱きしめられた。

「アイリーン大丈夫?」

「身体の方は大丈夫よ。
 でも心が折れちゃいそう」

「そりゃそうだ。
 元とはいえ婚約者にこんな風に痛めつけられたんだから」

「そうじゃないの。
 アラン様との婚約はカーラお継母様が勝手に決めただけ。
 私はあんな顔だけ男、大嫌いだったの。
 今、心が折れそうなのはフランのせいよ。
 だって、さっきから私を責めているでしょ。
 大好きな人に嫌われる事ほど、悲しいことはないもの」

「大好きな人って……。
 ありがとう。アイリーン」

 最初ポカンとした顔をしていたフラン様だけど、すぐにこぼれるような笑顔になって、私をギュッと抱きしめる。

「僕こそごめん。
 実を言うと嫉妬してたんだ」

「フランが私なんかに嫉妬してくれるなんて。 
 光栄すぎるわ」

「可愛い顔でそんなケナゲナ事を言われると、もう我慢できない。
 ね、アイリーン。
 キスしてもいいかな」

 フラン様がそっと耳元でささやく。

 こんな時はどうしたらいいの。

 了解!って返事をするのもおかしいし。

 結局黙って目を閉じた時だった。

「兄ちゃん、こういう時はな。
 もっと勢いよくガバッといくもんだぜ」

「ヤレ、ヤレ、もっとヤレ!」

「若いっていいねえ」

 周囲から様々なヤジがとんでくる。

 すっかり2人の世界に入ってて、周りに大勢の人がいる事を忘れていたのだ。

「あ! いけない」

 あわてて目を開くと、頬をそめて困惑しているフラン様の姿が、真っ先にとびこんできた。

 照れる美形の王子様って最強の凶器よ!

 心臓が破裂しそうなほど高鳴る。

 このままでは気絶しそうだから視線を移した時、また違う意味で心臓が止まりそうになったのだ。

「ミーナ。
 あそこの木陰で若い女とイチャついてるのは、お父様みたいなんだけど。
 たぶん私の目の錯覚よね」

 人間よりはるかに視力のいいミーナに、おずおずとたずねてみる。

「あの男はパインお父様だよ。
 よかったら、ミーナが頭をなぐってこようか」

 腕を曲げて力こぶを自慢するミーナに、
「見なかった事にしようね」
と消え入りそうな声をだすと脱力した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

でしたら私も愛人をつくります

杉本凪咲
恋愛
夫は愛人を作ると宣言した。 幼少期からされている、根も葉もない私の噂を信じたためであった。 噂は嘘だと否定するも、夫の意見は変わらず……

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

夫が聖女を溺愛中。お飾り妻になったので、魔道具をつくりにいきます

りんりん
恋愛
アイリスコーエンは、結婚して間がない。 それなのに、夫ゴットンの浮気を疑っている。 相手は、結婚直後にひきとった聖女見習いのキャルだ。 キャルは、平民出身で酒場で働いていた。 アイリスは、キャルが、貴族学校へ編入する前に、『貴族社会のしきたりを教えて欲しい』と王子から頼まれたのだ。 けど、キャルは態度が悪い。 それなのに、アイリスの義父や義母までが、アイリスをおいだして、聖女と息子を結婚させたがっている。 聖女の義両親になれば、権力が手にはいるからだ。 お飾り妻となったアイリスは、嫁入りの時に持ってきた魔道具で気晴らしをする毎日だった。 ある日、聖女のことでもめて、アイリスは実家へもどる。 実家に、レオン王子がやってきた。 この王子が、アイリスにキャルの教育を頼んだのだ。 「すべては、この王子のせい」 苦々しく思うアイリスに、レオン王子は屈託なく笑いかける。 「魔鳥の卵を探しに、森へいこうぜ」 「どうして」 「聖女に負けない魔力を、備えるためだ」 それから、アイリスの人生に、転機が訪れたのだ。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… まったりいきます。5万~10万文字予定。 お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...