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39、恩人から友達へ

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「ステーキにふわふわの白パン、色とりどりの野菜のサラダ、マンゴプリン、どれもとても美味しかったです。
 ありがとうございます、フラン様」

 スパイス屋の店先でフラン様に丁寧なお辞儀をする。

「アイリーン。
 僕達はもう友達だろ。
 フラン様はやめてくれよ」

 見送りに来てくれたフラン様が顔を曇らせた。

「さようですよ。
 王子様をがっかりさせると私がお仕置きをいたしますわよ」

 口をへの字に曲げたミセススパイスさんが、ふんと鼻をならす。

 ミセススパイスさんの特技は色々な物を鑑定することだ。
  
 で、さっきも私が流した涙の鑑定をされた。

 結果、怪しい人物じゃないと判明して、ミセススパイスさんからフラン王子の友達になる許可がでたのだ。
 
 涙で人物の良し悪しがわかるなんて、ミセススパイスさんてただ者、いやただキノコじゃないわね。

「こら毒キノコ、アイリーンに意地悪したら真っ黒焦げにしてやるからな」

 ジョンの言葉に、スパイスさんが笑い声をあげる。

「ほほほ、相変わらずジョンはババアに強いんじゃな。
 その調子で、ババアにワシの出禁をとくように言っておくれ」

「どさくさ紛れに何を言うの。
 あなたみたいなお調子者をレストランSに出入りさすと、国の秘密を全部ばらすでしょ」

 眉をつりあてミセススパイスさんが夫をにらみつけた。

「二人とも夫婦ゲンカは他所でやってほしいな」

 フラン様はクスリと笑うと、真剣な顔をこちらはむける。

「アイリーン。
 さっきのを友達バージョンでやり直して」

「え?」

 フラン様って案外根にもつタイプなのね。

 目を丸くして驚く。

「さあ、はやく。
 じゃないと永遠に家に帰れないよ」

「わかりました。
 えーと。では始めます」

 フラン様がジーと見据えてくるので緊張した。

 はあーと深呼吸をしてから、
「今日はごちそうさま。
 どれも美味しかったわ。
 ありがと。
 けど、フランって意外に根にもつタイプだったのね。
 笑っちゃった」
と言葉を口にする。 

「わあ、すいません。
 根にもつタイプは聞かなかった事にしてください。
 ついポロリと言ってしまったけれど」

 心の声を言葉にしてしまうなんてバカバカ。

 両手を口にあててアワアワしていると、ふいにフラン様に抱きしめられた。

「あやまらなくていい。
 僕達は友達なんだから」

 フラン様は優しい目をして、そっと私の耳元でささやく。

「でもさ。
 これからもアイリーンと友達でいられる自信は、僕にはないよ」

「ショックだわ!
それって私を嫌いになるかもって事でしょ」 

「さあ、どうだろうね」

 フラン様は思わせぶりな笑みを浮かべると、抱いている腕により力をこめた。

 そして大きな手で私の頭を何度もなでる。

 突然の予期せぬ出来事に頭に血がのぼり、心臓がバクバクと音をたてて騒いでいた。

「おい。フラン様。
 友達ってそういうのもアリなのかよー」

 ジョンの無邪気な疑問にスパイス夫妻が笑い声をたてる。

「アイリーン。
 家に帰って僕の言った意味を、ゆっくりと考えてみて」

 フラン様はそう言うと、やっと腕の力をゆるめて、私を解放してくれた。

 それから胸元から取りだした黒い角笛を口元にあてる。

 ピー、ピピピピと甲高い音がしたかと思えば、一瞬でキキ護衛騎士が姿を見せた。

「アイリーン。
 7日後の3時、市場の噴水の所でまっててくれる?」

 キキ護衛騎士の背中にとびのったとたん、フラン様の声が耳をかすめる。 

「わかったわ」

 私は友達としてコクリと首を縦にふったのだ。














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