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21、カーラのおしおき

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「奥様をだますなんてとんでもありません」

 カーラが床に両手をついて頭を下げる。

「じゃあ、アイリーンがさっき言ったのはどういうことざんす。
 ちゃんと説明しなさい!」

 目をつりあげた夫人は腰に両手をあてて叫んだ。

「そ、それは」

 言葉につまるカーラに、「ふふん、いい気味だよ」とミーナがパチパチと拍手をする。

「えーと、なんと言いますか」

 カーラの冷や汗がポタリと床に落ちた時だった。

「公爵夫人お許し下さいませ。
 実はお姉様はどうしても公爵家へ嫁ぎたくて、毎日のようにお母様を責めていたんです。
『私の本当のお母様はカーラのせいで死んだのでしょ。
 その罪滅ぼしだと思って、私がアラン様と結婚できるようにしなさいよ』と。
 そのせいで気の弱いお母様は神経を病んでしまい、公爵夫人にあんな嘘をついてしまったんだと思います。
 そばに私がついていながら、本当に申し訳ありません」

 お得意のうそ泣きをしたマリーンが、カーラを抱きしめる。 

「そうだったのか。
 アイリーンから見れば、オレは高嶺の花だものな。
 納得だ」

 アレン様は満足げに額にかかった前髪をかきあげた。

「マリーンが言ったことは嘘です。
 私とアラン様の結婚を強く望んだのは、お継母様の方です。
 結婚が決まれば、公爵家からの支度金がはいる。
 それが欲しかったからです」

「まあ、まあ、まあ。
 一体どっちが嘘をついているのかしら。
 わからないざんす」

 公爵夫人が首をコクンと傾ける。

「マリーンです」

「ちがうわ。お姉様でしょ」

 マリーンが声をはった。

「もうこうなったら、どっちでもいいざんす。
 私が賭博でつくった借金を、そちらで肩代わりしてくれるなら、許してさしあげるわ」

「なんですって!」

 私とマリーンが同時に声を上げる。

「いやならよろしいのよ。
 けど、このままだとカーラやマリーンは、2度と社交界にでられなくなるざんず。
 元々社交界と無縁のアイリーンはともかく、お2人にとっては一大事でしょーね」

 夫人は顔の半分を扇で隠すと、ずるそうに目を光らせた。

 なんだかんだ言っても、マンチン公爵家の力は偉大だ。

 敵にまわすと厄介である。

「わかりましたわ、公爵夫人。
 その提案、喜んで受け入れさせていただきます」

「あらそう。
 べつに無理しなくてもいいざんすよ」 

「いえ。元はと言えば、すべてアイリーンが悪いのですから」

 カーラはスクッと立ち上がると、ツカツカと私の前までやってきた。

「悪い子にはおしおきをしないとね」

 そう言うと、勢いよく腕をふり上げ私の頬を力まかせにぶつ。

 パチーン。

 パチーン。

 カーラは片頬をうつと、すぐにもう片方の頬をうってゆく。

 それを狂ったように何度もくり返すのだ。

「もう我慢ならないよ」

 とうとうポケットからミーナが飛び出してゆき、カーラの足元に炎をはいた。



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