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あの事故以来、ユアちゃんは姿を現さなかった。私は死を免れたのだろうか。…でも。今思うと、死にたくなかった理由がわからない。善人が不幸にあうこんな世界なら。去っても良いや。きっと、今でも私をいじめていた人たちは馬鹿笑いを続けているんだろうな。1人の少女の死なんて知らずに。それに、私がいなくなっても、世界は回り続ける。なら、いっそのこと、死んじゃおうかな。できれば、苦しい死に方がいい。すみれより、もっと私は苦しまなきゃいけないんだ。そんなことを考えていると。


「ダメです!!」

ユアちゃんだった。
「私が出てこられたと言うことは、本気で死のうとしてますね?」
「そうだけど、悪い?」
「悪いです。…死を逃れる方法はただ1つだけ。愛。愛なんです。これがどういうことかわかりますか?」
「死、逃れる方法あったんだね。」
「寿命とかはどうしようもないんですけど…。って、そんなことはどうでもいいんです。すみれさんは、あなたのことを愛していました。大好きな友達だったから、助けたんです。その命を、簡単に捨てようとしないでください!」
ユアちゃんが凄んだ。…でも、私は。


「簡単なんて、言わないでよ。大体、あんたたち死神が、人間の魂を奪っているんでしょ⁉︎」
つい、叫んでしまった。そんなわたしを見たユアちゃんは、顔を伏せた。泣いているんだと気付くには、少し時間がかかった。

「そんなふうに思っていたんですね。私、誤解されたままは嫌なので、説明させてください。」
「……」

言いすぎた、と思った。反省してユアちゃんの話を聞く。
「まず、私たちの仕事は、魂を導くことです。死んでしまった人の魂を、です。つまり、私達が奪っているわけではないんです。…そして、私達が仕事をしなかったら、どうなるかわかりますか?」

「いや……」
「魂は迷子になり、その魂の持ち主だった人の存在は抹消されます。人々から忘れ去られるんです。」

死神は、私たちのために働いてくれていたんだなぁ、と。

「ごめんね」
ぽつりとつぶやいた。

「良いんです。」
ユアちゃんは笑った。涙は消えていた。
「死のうとなんて、しないでくださいね。」
その時、ふわっと、風を感じた。窓は開いていないのに。その風は、暖かく心地よかった。


「そうだよ。死なないで。」
優しい声が、聞こえた。姿は見えないけど、“いる”。

「内緒にしてたこと、話すね。」
彼女はそう前置きをすると、話し始めた。
「まず、私の前にもね、死神の女の子が来てたの。だから、あの時マイの話を素直に信じられたの。」
あの時、というのは1日目のことだろう。
「死ぬのは怖かったよ。でも、マイと話せて嬉しかった。」
ふんわりと、すみれは笑った。

「ぶっちゃけね、死ぬ理由がマイを助けるためでよかった。マイにはね、幸せに生きて欲しいの。それが私の、願い。」
気がつくと、とめどなく涙が溢れてきた。

「ありがとう。」

この命、大切にするよ。

「大好きだよ。」
温かい…。すみれに抱きしめられていた。すみれの姿が一瞬現れて、すぐに消えた。ユアちゃんも、もうそこにはいなかった。

「幸せに生きるよ。あなたも、どうか幸せになれますように…。」

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