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69.赤い花

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連玉草をかき分けて奥に進み、花が咲いているのを近くで確認する。
干からびた唐辛子のような赤い花が飛び出るように無数に咲いている。
不気味に見えるその赤い花が、野原の奥まで続いている。

これほど広範囲に魔獣の血が広がることは無い。
間違いない。故意に連玉草の花を咲かせたものがいる。
採取袋を取り出して、花を数枚抜き取って入れる。
後ろを振り返ってノエルさんに目で合図をし、その場から離れた。

ノエルさんの左腕から魔剣が浮き上がるように出てくる。
それを右手で掴むと、剣先から青白い炎が立ちあがるのが見えた。浄化の炎だ。
かまえたノエルさんが勢いよく連玉草を薙ぎ払うと、
野原の半分ほどの連玉草が浄化されて燃えていく。
赤い花が一つも見えなくなったのを確認して、顔に巻いたハンカチを外した。

「どういうことだ?」

「間違いなく、この花を咲かせるために魔獣の血を巻いた人間がいるわ。
 この広範囲の花を咲かせるには、かなりの量の血が必要になるはず。
 魔獣の発生もこのせいかもしれない。」

「この辺境の森だけ何度も魔獣の発生が起こっていたのもこのせいかもな。
 騎士団に報告しておかなければ…。」

とりあえず夜が近づいているし、野営地に戻ろうと決める。
歩き出したところで、ノエルさんが私の動きを制止した。

「しっ。」

何かはわからないが、静かに止まっていろということなのだろう。
そのまま止まって耳を澄ますと、声が聞こえた。誰かがここに近付いている。

「明日には王都に帰れるな~今回は早かった。」

「そうだな。あとはさっさと花を摘んで帰ろうぜ。」

「ああ、早く戻らないとバレるからな。急ごう。」

騎士の格好をした三人がこちらに歩いてくる。
どうやら連玉草の花を採取しに来たようだ。
顔を布で覆い隠しているのを見ると、その危険性もわかっているのだろう。


「お前ら、止まれ。」

気配を消していたノエルさんがすっと近づいて三人の前に出る。
魔剣は出していないが、騎士団の者ならばノエルさんの顔は知っている。
三人がひっと声に出して驚いて止まった。

「今すぐ顔を見せろ。歯向かえば切る。」

脅しなのかもしれないが、間違いなく殺気が出ている。
それに気が付いた三人はガタガタ震えながら顔を出した。
やはり騎士団に所属している者たちだった。
名前は知らないが、顔だけはわかった。

「…ジョンとベイルとなんだっけもう一人は。」

「…あの、ケニーです。」

「三人の目的は花を摘みに来た、で間違いないな?」

「…はい。」

「連玉草の花で間違いないな?」

「名前は知りません。赤い長細い枯れたような花です。
 …俺たち命令されてて、こっそり取ってくるようにと。」

バレたらまずいことだったのはわかっていたのだろう。
青の騎士であるノエルさんに見つかったら後は無い。
逃げようとしたら間違いなく切られる。
それならばすべて話そうと思っても不思議はない。

「…お前ら三人とも騎士団に戻ったら全部話せ。
 逃げようと思うなよ?逃げても身内に連絡が行くぞ。」

「…わかりました。」

しょんぼりした三人にそう告げると、前を歩くように告げる。
逃げないように見張りながら戻ることになるらしい。
…これは処分重くなりそう。だけど、同情する理由はまったくなかった。
連玉草の危険性は薬師として知っているから。

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