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65.討伐隊

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辺境の地に来て1週間が過ぎた。
森に入ってすぐのところに野営地を設置し、
私たち王宮薬師はそこで後方支援を行っている。
一緒に来たのはフォゲルさんとジュリアさんで、
何度か討伐隊に参加したことのあるフォゲルさんが先頭に立って指示を出してくれる。
その指示に従い、処方し、治療にあたるのだが、
私が直接治療にあたるのはまずいらしく、
治療にはジュリアさんが主にがんばってくれている。

処方しているすぐそばには近衛騎士のアランさんと女性騎士のリリアナさんがついている。
私が動くと二人も一緒に動くことになるので、他の騎士の邪魔にならないように、
私はなるべく動かず処方に専念することになった。

「そろそろ休憩に入ります?」

ずっと立ったままの二人に申し訳ないと思いつつ、護衛中は座るのはダメだというので、
なるべくこまめに休憩を入れることにしていた。

天幕の奥に小さな休憩室が用意してあり、三人で中に入ると休憩室は少し狭く感じられる。
でも、おかげで内緒話をするような感覚になって、二人と打ちとけるのは早かった。

「ヘレンさんの入れてくれるお茶が恋しいです。」

休憩中は自分でお茶を入れるのだが、
どうしてもヘレンさんたちが入れてくれるようにはうまくいかない。
同じ茶葉なはずなのに、微妙に味が違うように感じる。

「あぁ、ヘレンの特技でもあるのよ。お茶入れるだけじゃなくて、水の浄化とか。
 生活魔術に特化しているのよね。」

「ヘレンさんって、どうして女性騎士にならなかったんですか?
 ものすごく騎士にあこがれてますよね?」

「うん、そうだね。練習とか熱心に見に来てたよ。
 俺が入団する前から来てたらしいから、
 それこそ10歳になる前から王宮にあがってるんじゃないかな。」

「それでも入団しなかったんですか?」

「…ヘレンには言っちゃダメだよ?ヘレンね、剣技だけ不器用なんだ。」

「そうね…木剣で練習している時に、よく木剣がすっぽ抜けて壁に突き刺さってたわ。
 なんでだろうね…力はあるからあれさえなければ騎士になれたのに。」

「力がありすぎたからじゃないか?手で殴る分には良いんだけどなぁ。」

「…えーっと。目指したけど、無理だったってことですか?」

「うん。泣く泣くあきらめてた感じだね。
 生活魔術が得意だから女官になった方がいいって説得されて。
 最後は俺と婚約することであきらめたみたいだよ。」

「え?婚約することであきらめたんですか?」

「うん。俺が代わりに騎士になるって約束して。なんとか納得させた。」

「ふふふ。見てて可愛かったわよ。15歳の頃だったかしら?
 アランがヘレンに騎士の誓いをたててね。
 お前の代わりに俺が騎士になってやるって。
 騎士団の中では有名な話なのよ。」

「…リリアンさんは全部見てきたからな…。
 本人にはもう言わないでやって。」

「言わないわよ~。暴れたら剣技以外でも怖いんだもの。」

意外…。なんでもできそうな完璧女官のヘレンさんだと思ってたのに。
騎士じゃなくて女官になったのにはそんな理由があったんだ。
それでも騎士が好きってあれだけあこがれているのって、なんだかいいなぁ。

「あ、そろそろ仕事に戻ろうか?
 次の休憩あたりでノエル様が戻ってくると思うし。」

「はーい。」
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