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56.虫よけ

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これで、少しは時間が稼げるか…?
奥の私室に行って、大きめの鞄を出す。その中に服や下着をたたんで入れていく。
何か他にも必要だと言えるものはあるか?残ってる薬で使えそうなものは…。
虫よけの煙幕がある。一時的に目を見えなくさせることができるかもしれない。
私室の机の上に置いてあるのを服の中に隠して入れる。

「もう準備は良いだろう?早く行くぞ。」

見張りについていた男が待ちきれなくなったようだ。
何か隙はないだろうか…煙幕を投げつけるのに、少しの隙があれば。


ドンドンドン!
薬屋のドアが乱暴にたたかれる。

「ルーラ、ここにいるのか!?」

ノエルさんの声だ。ドアに鍵がかかっているらしい。


「…誰か来たのか。黙ってろ。」

男たちは静かにしてやり過ごすことに決めたらしい。
みんながドアの方をみて様子をうかがっている。今だ。
虫よけの煙幕を床にたたきつけて、息を止めて目を閉じる。

「うわっ。なんだ!この煙!ごほっ。…っげほげほ。」

「目にしみる。みんな目を開けるな!」

目を閉じても自分の店の中はどこになにがあるかわかってる。
誰もいなかったカウンターの中を通って、ドアの近くに行く。
ドアの近くにも誰もいなかったはずだ。
たどりついて、鍵を手探りで開ける。
開いたと同時に外に飛び出して、すぐさまドアを閉めた。

「ルーラ!」

目を開けるよりも先にノエルさんに抱き上げられていた。

「ルーラ、大丈夫か。今の騒ぎは何だ!」

「ノエルさん、中にハンナニ国に頼まれた男たちが何人かいて、
 私を連れて行こうとしてたの。
 虫よけの煙幕がはられているから、一人ずつ外に逃げてきたら捕まえて!」

「わかった!」

私を降ろして背中に隠すと、魔剣を出してかまえている。
ドアから一人ずつはい出るように逃げてくるのを剣を突き付けた後で、
手刀でたたいて気を失わせている。
騒ぎを聞きつけて出てきた近所のおじさんに頼んで、
男たちを縛り上げて横に並べていく。

「こいつら、数か月前からこの辺ウロウロしていた奴らだ。
 怪しいとは思ってたが、ルーラちゃんを連れて行こうとするなんて。
 おい、みんな手伝え。騎士を連れて来てくれ!」

おじさんたちの連携で、どんどん人が集まって協力してくれる。
最後の一人を気絶させた後、ノエルさんが薬屋の中に入り、
残党が隠れていないか確認してくれる。

「もう大丈夫だ。安心していい。」

そう言って、ノエルさんが私を片手で抱き上げる。
えぇ。もう大きくなったから片手で抱き上げるのは無理だと思ってたのに…。
私ってまだ小さいの?

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