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37.薬師室

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次の週になって、王宮のほうに来るようにとユキ様から指示があった。
王宮にある薬師室で他の王宮薬師たちと会うらしい。


ミラさんたちは夜会の準備もあるからか、今日は外していて、
ノエルさんと二人で王宮の通路を歩いて向かった。
薬師室は外宮から一番遠い場所に位置し、後宮とはまた違う区画にあった。
王族に近い区画らしい。陛下と王子三人の宮がそばにあるそうだ。
命を狙われることもある王族に、何かあった時にすぐ駆け付けられるようにと、
薬師室はここと謁見室の近くにもう一つあるらしい。
処方するのは主にこちらの薬師室だということなので、
私が王宮薬師になったらこの部屋に通うことになるのだろう。


「ここだな。」

ノエルさんが扉を開いて中に入る。それに続いて中に入った。のだが、

「…誰もいない?」

棚や壁に薬草が干してあるのを見ると、ここが薬師室で間違いないと思う。
だけど、机は綺麗になっているし、処方台の上にも何もない。
少なくても今日は誰もいなかったように見える。

「今日来るように言われたよなぁ?」

「うん。今日だし、時間も間違えてないよ。
 ここが薬師室なんだよねぇ?」

「ああ。どういうことなんだ?」

とりあえず中に入って待っていると、ユキ様が入ってきた。
中に入って、私たちだけしかいないのを見て、ユキ様も首を傾げた。

「お前たちだけか?」

「はい。来てみたら誰もいませんでした。」

「ん?どういうことだ。
 ちょっと謁見室のほうの薬師室にいるやつを呼んで来い。」

ユキ様の後ろについていた護衛に指示をすると、一人が走って行った。
しばらくして、一人の薬師服を着た若い男性を連れて戻って来た。

「どうしたんですか?ユキ様。」

「他の王宮薬師はどこに行った?」

「ええ?こっちは今日は休みだって聞きましたよ?
 ハンスさんが、薬師室を消毒するから今日一日閉鎖するって。」

「そんな指示出してないぞ。
 新しい王宮薬師を紹介するから集めておくように言ったんだがな。」

「ああ、それ噂になってましたよ。
 陛下がお手付きの子を無理やり王宮薬師にしたって。
 ずいぶん寵愛されてるそうじゃないですか。」

「はぁ?なんだその噂。詳しく説明しろ。」

「え?違うんですか?
 だって、護衛に青の騎士つけて、妃の教育係のミラさんがついてるって。
 後宮内を歩いているのを見たって人が何人もいて。
 陛下が城下から担いでさらってきた女の子を、
 側妃にするために王宮薬師の名前与えて伯爵位にするって。
 そんな無理に側妃にするくらいだから、
 寵愛されてんだろうって言われてたんですけど。」

え。後宮内を青の騎士とミラさんつけて歩いてったって…。
この前の寵妃さまのお茶会に呼ばれて行った時のこと?
そんな風に思われていたの!?


「あーなるほど。そういう誤解なのか。
 こいつはルーラ・フォンディ。フォンディ家の当主だ。」

「は?フォンディ家?あの天才ミカエル様の血縁者ですか?」

「実の娘だよ。しかも、ミカエルがきちんと処方を教え込んである。」

「え?もしかして、実力で王宮薬師になるんですか?この子が?」

「お前たちよりも処方は完璧だ。わからないことも無い。
 私の後継として育てる予定だ。」

「はぁあああ?後継はハンスさんじゃなかったんですか?」

「そんなこと言った覚えはないぞ。
 ハンスがフォンディ家の分家だろうと、実力が無ければ薬師長は無理だ。
 それは本人にも言ってあったんだがな。」

「…うわぁ。俺、失礼なこと言いました。スミマセン。
 王宮薬師になって7年のフォゲルです。ルーラさん、よろしくお願いします。」

ユキ様と王宮薬師のお兄さんの話についていけずぼんやりしていた私に、
急に挨拶されて驚いてしまった。

「あ、いいえ。大丈夫です。
 ルーラです。まだ見習いの立場です。これからよろしくお願いします。」

なんだか知らないうちに反省したフォゲルさんと、初対面で緊張している私で、
お互いにペコペコ頭を下げあっていると、ノエルさんに止められた。

「二人とも、その辺にしておけよ。きりがないだろう。」

「あーうん。そうだね。」

「青の騎士様はルーラさん付きなんですか?」

「ああ。陛下に言われている。次期王宮薬師長だから守れと。」

「陛下にも認められているんですね。わかりました。
 今日誰も来ていないのはハンスさんの嫌がらせでしょう。
 器が小さい男なんですよね~。あ、俺が言ったって内緒ですよ?
 今から呼べる奴は呼んできます。
 王宮内に部屋がある奴はすぐ呼べるので、少し待っていてくださいね。」

そう言うとパタパタと走って出て行った。
王宮薬師7年と言ったけど、まだ若そうだ。
私のすぐ上はフォゲルさんなのかもしれない。



「フォゲルは口を動かさずに処方できないんだよなぁ。
 それが無ければ優秀なやつなんだが。」

とユキ様が呆れたように言った。王宮薬師にもいろんな人がいるようだ。



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