12 / 79
12.帰って来た
しおりを挟む
「ルーラ!大丈夫か!」
ノエルさんが帰って来たのは12日後だった。
扉を開けて入ってくるノエルさんを見て、思わず抱き着いてしまう。
ノエルさんもそれを受け止めて、抱きしめてくれた。
「すまなかった。一人にしてしまって。
こんなところに一人でずっといて、寂しかっただろう。」
そう言って背中をなでてくれるけど、久しぶりに魔力を吸われ、
涙は止まらないし、もうされるがままだった。
ノエルさんが涙に気が付いて、抱き上げ直してソファに連れていかれる。
ひざの上に抱っこされると、ハンカチを出して涙を拭いてくれた。
「待たせてごめんな。もっと早くに帰ってくる予定だったんだ。」
そういえば、仕事の内容は聞いていなかった。
近衛騎士で遠征にでも行っていたのだろうか。
「魔獣が大量に出たっていうから、辺境の森まで行ってきたんだ。
だけど、思ったより数は多いし、すばしっこくて。
なかなか始末できずに時間がかかってしまった。」
そうなんだ。魔獣を倒していたんだ。
それじゃ、仕方ないね。
私の魔力を吸うよりも、ずっとずっと大事なお仕事だ。
「…魔獣を倒すなら、そっちが大事…。」
なんとかそれだけは言えた。
「俺が魔獣と戦えたのは、ルーラのおかげだ。
俺は魔力の器が壊れている。
新しく魔力を作り出すことができなくなっているんだ。
もともとは魔剣騎士だったんだ…4年前まで。」
4年前…魔剣騎士…もしかして。
「…魔獣の大発生?」
「…知っていたのか?そうだ。あの時、無理しすぎて、器が壊れた。
それでも、魔獣を倒し切った。それでいいと思ってた。
だけど、魔剣を使えなくなって、近衛騎士に配属されることになった。
受けた傷は残って、人からじろじろと見られるようになった。
周りの人間は少しずつ離れて行った。
…むなしくなっていたよ。
そうまでして、守ったものは何だったのだろうって。
だけど、ルーラのおかげで魔力が戻ったら、
やっぱり魔獣を倒して人を守りたくなった。
辺境からの助けを求める声に、そのまま行ってしまった。
ごめん、残されたルーラのことを、もっと考えるべきだった。」
そうだったんだ。だから器が壊れていたんだ。
傷を隠すのも、笑顔が少なかったのも、いろんなことがつながった気がした。
ふわっと身体が浮き上がる。身体の感覚が戻って来た。
ノエルに伝えなきゃいけない。
「あのね。私の母様、魔獣の大発生で亡くなったの。」
「眠り病じゃなかったのか!?」
「眠り病の患者がどんどん増えて行って、薬草が無くなってしまって。
あの森なら薬草が自生してるはずだって、取りに行ったの。
だけど、魔獣の大発生に巻き込まれてしまって…遺体も見つからなかった。
だから、ノエルさんが魔獣を倒しに行ったのなら、私は我慢できる。
大丈夫だから、気にしなくていいの。」
そう言って見上げると、何かを考えてるような顔をして、
ノエルさんが無言で自分の首からネックレスを引き出した。
ネックレスをつけているなんて知らなかった。
そう思ってる私に、ネックレスの先についているものを見せた。
「もしかして…これに見覚えは無いか?」
銀色に光る、紫水晶が付いた指輪。
「っ!」
母様が身に着けていた指輪だ。
銀色の髪で紫の目だった父様と同じ色の指輪。
父様から贈られたものだって言ってた。
「…どうして?この指輪をノエルさんが持っているの?」
「やっぱり、そうか。
あの時、一人の女性の遺体を見つけたんだが、運ぶ余裕は無かった。
だけど、あのままにしていたら魔獣に食い荒らされてしまう。
その場に埋葬してきたんだ。
その時に何か身元がわかるものがあればと思って、指輪を預かった。
近くの村に住む女性だと思ったのに、探しても身元がわからなかった。
まさか王都に住む人だったとは考えもしなかった。
いつか身内に渡すことができればと思って持ち続けていたんだが、
その人がルーラの母親、なんだな?」
指輪を抱きしめてうなずく。
もう嗚咽をこらえきれなかった。
ノエルさんがきつく抱きしめてくれるのにすがるように泣きついた。
母様の遺体は魔獣に食べられていなかった。
ノエルさんがきちんと埋葬してくれた。
いろんなことが一気に頭をめぐって、優しかった母様の笑顔を思い出して、
泣いて泣いて、そのまま意識を失った。
ノエルさんが帰って来たのは12日後だった。
扉を開けて入ってくるノエルさんを見て、思わず抱き着いてしまう。
ノエルさんもそれを受け止めて、抱きしめてくれた。
「すまなかった。一人にしてしまって。
こんなところに一人でずっといて、寂しかっただろう。」
そう言って背中をなでてくれるけど、久しぶりに魔力を吸われ、
涙は止まらないし、もうされるがままだった。
ノエルさんが涙に気が付いて、抱き上げ直してソファに連れていかれる。
ひざの上に抱っこされると、ハンカチを出して涙を拭いてくれた。
「待たせてごめんな。もっと早くに帰ってくる予定だったんだ。」
そういえば、仕事の内容は聞いていなかった。
近衛騎士で遠征にでも行っていたのだろうか。
「魔獣が大量に出たっていうから、辺境の森まで行ってきたんだ。
だけど、思ったより数は多いし、すばしっこくて。
なかなか始末できずに時間がかかってしまった。」
そうなんだ。魔獣を倒していたんだ。
それじゃ、仕方ないね。
私の魔力を吸うよりも、ずっとずっと大事なお仕事だ。
「…魔獣を倒すなら、そっちが大事…。」
なんとかそれだけは言えた。
「俺が魔獣と戦えたのは、ルーラのおかげだ。
俺は魔力の器が壊れている。
新しく魔力を作り出すことができなくなっているんだ。
もともとは魔剣騎士だったんだ…4年前まで。」
4年前…魔剣騎士…もしかして。
「…魔獣の大発生?」
「…知っていたのか?そうだ。あの時、無理しすぎて、器が壊れた。
それでも、魔獣を倒し切った。それでいいと思ってた。
だけど、魔剣を使えなくなって、近衛騎士に配属されることになった。
受けた傷は残って、人からじろじろと見られるようになった。
周りの人間は少しずつ離れて行った。
…むなしくなっていたよ。
そうまでして、守ったものは何だったのだろうって。
だけど、ルーラのおかげで魔力が戻ったら、
やっぱり魔獣を倒して人を守りたくなった。
辺境からの助けを求める声に、そのまま行ってしまった。
ごめん、残されたルーラのことを、もっと考えるべきだった。」
そうだったんだ。だから器が壊れていたんだ。
傷を隠すのも、笑顔が少なかったのも、いろんなことがつながった気がした。
ふわっと身体が浮き上がる。身体の感覚が戻って来た。
ノエルに伝えなきゃいけない。
「あのね。私の母様、魔獣の大発生で亡くなったの。」
「眠り病じゃなかったのか!?」
「眠り病の患者がどんどん増えて行って、薬草が無くなってしまって。
あの森なら薬草が自生してるはずだって、取りに行ったの。
だけど、魔獣の大発生に巻き込まれてしまって…遺体も見つからなかった。
だから、ノエルさんが魔獣を倒しに行ったのなら、私は我慢できる。
大丈夫だから、気にしなくていいの。」
そう言って見上げると、何かを考えてるような顔をして、
ノエルさんが無言で自分の首からネックレスを引き出した。
ネックレスをつけているなんて知らなかった。
そう思ってる私に、ネックレスの先についているものを見せた。
「もしかして…これに見覚えは無いか?」
銀色に光る、紫水晶が付いた指輪。
「っ!」
母様が身に着けていた指輪だ。
銀色の髪で紫の目だった父様と同じ色の指輪。
父様から贈られたものだって言ってた。
「…どうして?この指輪をノエルさんが持っているの?」
「やっぱり、そうか。
あの時、一人の女性の遺体を見つけたんだが、運ぶ余裕は無かった。
だけど、あのままにしていたら魔獣に食い荒らされてしまう。
その場に埋葬してきたんだ。
その時に何か身元がわかるものがあればと思って、指輪を預かった。
近くの村に住む女性だと思ったのに、探しても身元がわからなかった。
まさか王都に住む人だったとは考えもしなかった。
いつか身内に渡すことができればと思って持ち続けていたんだが、
その人がルーラの母親、なんだな?」
指輪を抱きしめてうなずく。
もう嗚咽をこらえきれなかった。
ノエルさんがきつく抱きしめてくれるのにすがるように泣きついた。
母様の遺体は魔獣に食べられていなかった。
ノエルさんがきちんと埋葬してくれた。
いろんなことが一気に頭をめぐって、優しかった母様の笑顔を思い出して、
泣いて泣いて、そのまま意識を失った。
63
お気に入りに追加
1,498
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる