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8.美女とのお茶

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「では、わたくしから。」

4人分のお茶がそろい、口を付けた頃にミラさんが話し始めた。
3人ともこの国でよく見る栗色の髪と濃茶の目をしている。
ミラさんが一番年上だろう。
ヘレンさんとサージュさんは私より少し年上かなという感じだった。

「先ほども言ったとおり、
 陛下とは乳兄弟ですが、母は昨日会った女官長です。」

「え?女官長の娘さんなんですか?」

「そうです。
 ここにいる3人は親が王城で働いていて女官になったものばかりです。
 貴族出身の女官は陛下や陛下の妃についていますので。
 私たちのような者は比較的自由に動けますのよ。」

「…陛下の妃ですか。」

「あ、ごめんなさい。嫌なことを思い出させましたね。」

「いえ、それはもう大丈夫です。
 事情が分かったら、陛下はむしろ私のせいであんなことになったわけですし…。」

「いいえ。それでも、承諾も得ずに担ぎ上げて連れてくるなんて…。
 許されることではありません。怒っていいのですよ?」

ミラさんが怒ってくれるので、もういいかと思ってしまう。
確かに怖かったけど、それ以上にミラさんに怒られるのは怖そうだ。
陛下はいろんな人から怒られたんじゃないだろうか。

「陛下の妃は3人います。
 正妃のマリッサ様、側妃のリンジェラ様、寵妃のレミーラ様です。
 正妃のお子が第一王子のジョージア様と第三王子のケイン様。
 側妃のお子が第二王子のシュダイト様です。
 寵妃にはお子がいません。
 …ここだけの話ですが、
 レミーラ様を寵妃とお呼びしているのはお子が無いからです。
 お子が無い妃を優先して陛下が通うことになっています。
 月の半分以上はレミーラ様の所へ通っています。
 そのため寵妃、と呼ばれるのですが…。」

一旦話を止め、困ったような顔になったミラさんを見ると、
同じようにヘレンさんサージュさんも困った顔をしている。

「実は3人とも政略結婚なので、陛下は誰も望んでいないのです。
 それを王城の者たちは知っているので、
 昨日ルーラさんを連れてきた陛下を見て、みんな喜んでしまったのです。
 そのためルーラさんを必要以上に怖がらせてしまったのではないかと…。」


そういう理由があったのなら納得する。
どうして平民を連れて来て、すぐに部屋に通されたのか。
待ち望んでいた人が来たと思われたのだろう。
陛下が一人でお忍びしていた理由も、もしかしてそれが目的だったのだろうか。

「事情は分かりました。
 どうして平民を連れて来たのに、誰も止めないのだろうと思っていましたが、
 そういう理由があったのですね。」

「あぁ、それはまた別の理由です。ねぇ?」

ミラさんがヘレンさんに向かって聞いた。

「はい。私はルーラさんが貴族のご令嬢なのだと勘違いしておりました。」

「え?平民服でしたよ?」

「私もです。
 平民服なのは、陛下と一緒でお忍びだったのだと思ってしまって。」

ヘレンさんに続いてサージュさんまでがそんなことを言い始める。

「ルーラさんが来たとき、まだ若くて夜会に来ていないから顔がわからないだけで、
 貴族のご令嬢なのだと思いました。だって、ほら。」

3人そろって頷いて、私の手元を見つめている。ん?ティーカップ?

「お茶がどうかしましたか?」

「ルーラさんの所作が綺麗だから。
 歩き方からすべて貴族のご令嬢に見えました。」

そんなことを言われても、誤解ですとしか言いようがない。

「お茶は母がいた頃はこうして飲んでいましたし…。
 紅茶じゃなく薬草茶ですけど。」

「薬草茶…。」

「はい。あまり美味しくないのですけど、成長を促進すると言ってました。
 そういえば、あのお茶を飲まなくなってから、
 成長が止まってしまった気がします。」

「ルーラさんのお母様はどんな方でしたの?」

「私と同じような黒髪黒目で、魔女でした。
 薬師の父と出会って、
 魔力を使って薬を処方するこの国のやり方が面白くて、
 父の弟子になったと聞いています。」

「この国のやり方?他国の方なの?」

「この国で黒髪黒目は会ったことがありませんから、他国なのだと思います。
 でも、詳しいことは何も聞いていません。」

「そうなの…。あぁ、そういえば紹介が途中で止まっていたわね。
 ヘレンの父親は近衛騎士で、サージュの母親は陛下付きの女官なの。
 私以外は年齢が近いから、仲良くできると思うわ。
 あ、私の年齢は聞かないでね?」

「は、はい。」

それは聞いてはいけないのだろう。
私が聞く前にミラさんから言われておいて良かったと思う。
陛下の乳兄弟だから、陛下に年は近いのだろう。
そんな風には全然見えないけど、それも言うのはダメな気がする。


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