上 下
36 / 58

35.夜会の準備

しおりを挟む
次の日、授業を終えて学生会室へ向かうと、
アナベル様との一件を知ったアレク様とマルス義兄様が落ち込んでいた。

「すまない。ジュディットがいないから大丈夫だと思い込んでいた」

「私もです。クラリスに気をつけろと言いながら、油断していました」

「あの、二人とも?私は大丈夫だったので」

「大丈夫なわけないだろう。
 ラファエルの婚約者候補を狙って婚約を解消するような令嬢がまともなわけない。
 これからは必ず俺かマルスがそばにつくことにしよう」

「え、必ずですか?二人とも忙しいのでは……」

学生会の仕事だけでなく、留学生が来る準備もある。
二人が忙しいのはわかっているのに、
必ずそばについていてもらうのは申し訳ない。

「……アレク様、こうなったらクラリスも学生会に入れてしまいませんか?」

「クラリスを学生会に?」

「ええ……私は一年ですし、学生会に入るわけには」

学生会は三年の特別クラスにいる高位貴族が選ばれる。
いくら何でもそれは無理だとマルス義兄様の思いつきに否定していると、
アレク様があっさり認めてしまう。

「いや、それは良い案だな。
 クラリスは特別クラスで高位貴族、公用語もクルナディア語も話せる。
 留学生を迎える仕事が忙しいのは学園もよくわかっているはずだ。
 一年だが特例として学生会に入れてしまおう」

「ええ!?」

「すぐに学園長に申請してきます!」

「ああ、頼んだ」

マルス義兄様が学園長室へと向かうと、アレク様と私だけが残される。
アレク様はため息をつくと、私のすぐ隣へと座る。

「振り回して悪いな」

「いえ、私はかまわないのですが、一年なのに特例でって、いいのですか?」

「かまわないよ。学生会は本当に忙しいから手伝ってくれると助かる。
 それに、一人でいないでほしいというのも本当だ。
 アナベルが敵になったというのなら、他の令嬢も危ないかもしれない」

「どういうことですか?」

「ジュディットが学園に来なくなったことで、
 この学園の令嬢たちはアナベルに従い始めている。
 一番の高位貴族はクラリスでも、クラリスは社交をしていなかった」

「そういうことですか。
 私よりもアナベル様に従う令嬢は多いでしょうね」

三年で侯爵令嬢のアナベル様に命じられたら、
私に攻撃してくる令嬢がいるかもしれない。
以前、ジュディット様に従う令嬢たちが、私を呼び出したように。

あり得ない話ではないと思う。
いくら身分が高くても私は養女だし、社交もしていない。

留学生を迎える夜会が終われば、
オダン公爵家の主催でお茶会を開くことになっている。
そうなれば令嬢たちも私と敵対することは避けるだろうけど、
今の私の立場は危うい。

「学生会に入って、俺とマルスから離れないでくれ」

「わかりました」

その後、マルス義兄様が学園長から許可を取って、
私は正式に学生会に入ることが決まった。

授業が終わったら学生会室に行き仕事を手伝い、
帰る時は三人で馬車に乗る。
二人は心配していたけど、アナベル様が待ち伏せすることはなかった。


だが、気がついた時にはアナベル様が流したと思われる噂が広まっていた。

ジュディット様はラファエル様の婚約者候補になるのはあきらめた。
選ばれなかった理由は私がジュディット様の悪口をアレク様に伝えたから。
アレク様からジュディット様の悪評を聞いたラファエル様は信じてしまった。

二人の王子は私に騙されてしまっている、そんな噂を聞いてアレク様だけではなく、
ラファエル様までもが怒っていた。

わざわざ学生会室まで来て私に謝ったラファエル様は、
少しやつれたように見える。

「すまない……俺がアナベルにはっきり言っていればこんなことには」

「いや、ラファエルがはっきり言ったとしても嫌がらせはされたと思うぞ」

「それは……そうかもしれないが。どうするんだ?」

「今、噂の出どころを探っている。
 アナベルなのはわかっているが、それを証言する者がいない。
 夜会の後、アナベルが婚約者候補にならないとわかれば証言してくれるはずだ」

「それまで我慢しろというのか?」

「……俺が我慢していないとでも思っているのか?
 言われているのはクラリスなんだぞ」

アレク様ににらみつけられたラファエル様はしょんぼりして、また謝る。

何度か話してみてわかったけれど、
アレク様とラファエル様は双子というより歳の差がある兄弟に見える。

アレク様が大人びているのもあるが、ラファエル様は素直というか、幼いというか。
アレク様のほうが年上に見えてしまう。
ラファエル様がアレク様を王太子にしようと思っていたのも理解できる。

本当にラファエル様が王太子になるんだろうか。
ジュディット様と二人で国を守っていける気がしない。

そんなことを考えていたせいか、アレク様が私を心配そうに見ていた。

「夜会が終われば、すぐに対処できる。
 もう少しだけ我慢してくれるか?」

「はい。問題ありません。今までだって、いろいろ言われてきたんです。
 直接言われないだけましですから」

大丈夫だって思ってもらえるように笑って言ったら、
なぜかアレク様とラファエル様は黙り込んでしまう。

どうしてだろうとマルス義兄様に助けを求めたら、マルス義兄様まで変な顔をしている。

「マルス義兄様、私は何か間違いました?」

「いや、いい。クラリスはそのままでいい。
 あとは義兄様たちに任せていればいいんだ」

「……?わかりました」

その後は三人とも黙々と仕事をしていて、
少しだけ怖かったけれど準備は素晴らしく進んだ。



そして迎えた留学生を迎える夜会の日。
クルナディアから来る馬車は遅れ、到着したのはぎりぎりの時間だった。
王子と公爵令嬢は急いで準備に入るため、私たちと顔合わせする時間はなかった。

私とお義母様は王宮に用意されたオダン公爵家の控室でドレスに着替える。
私のためにお義母様が用意してくれたのは、お義母様と同じ黄色のドレスだった。

お義母様のドレスはスカートを広げずレースも控えめだけど、
その分身体の線が綺麗に出て、美しいお義母様にぴったりに見える。

私のドレスは広がったスカートにたくさんのレースが縫い込まれている。
歩くたびにふわふわと広がり、ゆるく巻いた髪と一緒に動く。
それが楽しくて揺れていたら、お義母様に笑われてしまった。

「ふふふ。よく似合っているわ。
 黄色のドレスは特別で、私しか着られないのよ」

「特別?どうしてですか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」 十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。 まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。 夢は自分で叶えなきゃ。 ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

処理中です...