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34.協力できない

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「歓迎する夜会が行われるのは五日後。
 留学生たちはその二日後から学園に通い始める」

「夜会の前に留学生との顔合わせは?」

「できるなら留学生と顔合わせする時間を取りたいが、
 向こうが到着する時間によっては夜会で挨拶することになるだろう」

留学生がこちらに来る日程は決まっているが、
クルナディアから馬車で来るため到着日時がずれることも考えられる。

細かい打ち合わせは前日に行うと言われ、今日の話は終わった。

「クラリス、まだ学生会としての仕事が残っているんだ。
 今日は送れなくてごめん」

「いえ、大丈夫です。お仕事頑張ってください」

「ありがとう。気をつけて帰ってくれ」

「はい」

アレク様と話している後ろから、作業中のマルス義兄様の声が飛んでくる。

「クラリス、リーナから離れないようにね!」

「わかりました」

「ちゃんとまっすぐに帰るんだよ!」

「護衛もついていますから大丈夫です。
 心配しないでマルス義兄様はお仕事を続けてください」

学園から帰るだけなのに二人に心配されて、思わず笑ってしまう。
侍女のリーナだけではなく、馬車には護衛も付き添う。
そんなに心配する必要はないのに。

二人に挨拶した後、リーナと一緒に馬車へ向かう。
少し薄暗くなっているけれど、このくらいなら問題ない。
お義母様も心配しているかもしれないから早く帰らなくては。

オダン公爵家の馬車を見つけ近づこうとしたら、後ろから声をかけられる。

「あなたがオダン公爵家の養女かしら?」

「……はい。何か?」

振り向いたら、見知らぬ薄茶色の髪の令嬢が侍女をつれて立っていた。
薄暗い中、細めの琥珀色の目がきらりと光った。
私よりも背が高いため、見下ろされているような感じがした。

リーナが私よりも前に出て庇おうとしたけれど、それは目で制止する。

私が公爵家の養女だとわかって話しかけてきているのなら、
この令嬢は高位貴族の令嬢に違いない。
侍女を前に出すわけにはいかなかった。

「私はマルドレ侯爵家のアナベルよ。マルスから聞いているでしょう?」

「……詳しくは聞いていません。ヴィルマ義兄様の婚約者だったとか」

「ええ、それは解消したわ。ラファエル様の婚約者候補になるためにね」

楽しそうに笑うアナベル様にどう対応するべきなのか迷う。
オダン公爵家としては、一方的にヴィルマ義兄様との婚約を解消されたわけで、
アナベル様と仲良くできるわけはない。

「私に何か用ですか?早く帰りたいのですが」

「話はすぐに終わるわ。私と手を組みましょう?」

「手を組む?」

「あなた、ジュディット様が嫌いなのでしょう?」

「……」

急にジュディット様の名を出され、何も言えずに黙る。
ただでさえアナベル様に良い感情を持っていないのに、
ジュディット様の名を出されたことで警戒感が増す。

「簡単な話よ。ラファエル様の婚約者候補に私を推してほしいの」

「え?」

「ジュディット様が婚約者候補に選ばれては困るのでしょう?
 同じ王子妃になったら嫌いな人と関わらなくてはいけないもの。
 私と推してくれたら、仲良くしてあげてもいいのよ?」

なるほど……ラファエル様の婚約者候補になりたいから、
アレク様の婚約者候補の私に近づいてきたらしい。

でも、もうすでにジュディット様が婚約者候補に選ばれている。
このことを話せればいいのだけど、
ラファエル様が話していないのに私が言っていいことではない。

少しだけ考えた結果、オダン公爵家の長女として話すことにする。

「その話はお断りします」

「はぁ?」

「オダン公爵家にあんな真似をしておいて、
 私と仲良くできると思ったのですか?」

「オダン公爵家なんて気にしなくていいじゃない。
 婚約者候補になるために籍を置いているだけなんでしょう?」

「いいえ、違います。私はオダン公爵家の長女です。
 ヴィルマ義兄様に失礼なことをしたあなたと仲良くすることはできません。
 ラファエル様に選ばれたいのなら、自分でなんとかしてください」

はっきりと断ると、アナベル様の顔から笑顔が消える。
すっと目を細めたアナベル様が蛇のように見えて怖くなる。
後ろに下がりたいけれど、オダン公爵家の皆の顔を思いだして耐える。

大丈夫。私はオダン公爵家の長女なのだから。
侯爵令嬢に言い負かされてはいけない。
視線をそらさなかったからか、アナベル様は小さくため息をついた。

「そう……それじゃあ、覚悟しておいて。
 私が婚約者候補になった後は、徹底的につぶしてあげるから」

「……それはオダン公爵家と敵対するということでいいのですね?」

「ただの養女で、しかも伯爵家の血筋が偉そうに。
 あなたなんかのためにオダン公爵家が動くわけないじゃない。
 どうしてアレクシス様はあなたなんて選んだのかしら」

もう話をする気がないのか、それだけ言うとアナベル様は去っていった。

遠ざかるアナベル様が見えなくなって、ようやく息を吐くと、
足が震えてふらついてリーナに抱き着いた。

「クラリス様!?」

「だ、大丈夫。少しだけ怖かったの。
 人に言い返すなんて初めてだったから……」

「クラリス様は間違いなくオダン公爵家の長女です!
 とても立派でした……感動いたしました!」

「そうかな。必死だったけど、オダン公爵家の名を守れたのならうれしい」

「もちろんです!」

少ししたら足が動くようになったので、リーナと馬車へと向かう。
私たちが遅かったために護衛たちが探しに行く寸前だった。
オダン公爵家についたら、お義母様が心配して玄関まで来ていた。

「ずいぶんと遅かったのね」

「お義母様……実は」

さきほどアナベル様に会ったことを話すと、
お義母様の表情が変わっていく。
アナベル様に怒っているのか、綺麗な眉をひそめていたけれど、
話が終わったら私に優しく微笑んだ。

「そう……アナベルがそんなことを。後の対応は任せなさい。
 よく頑張ったわね、クラリス。あなたは自慢できる娘だわ」

「……はい」

お義母様にも褒められて、対応を間違えてなかったんだとほっとする。
周りがどう思おうと、アナベル様がどう思っていようと、
私はオダン公爵家の長女だし、そうでありたい。

これからもアナベル様と関わることになると思うと頭が痛いけれど、
まずはクルナディアから来る留学生のことを考えなくては。


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