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33.留学生が来る準備

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オダン公爵家まで来たお母様を追い返した次の日、
ジュディット様から何かあるかもと不安に思っていたけれど、
学園で会うこともなく一日が過ぎた。

それから三日後、授業が終わった後で学生会室へと呼ばれた。
中に入ると、アレク様とマルス義兄様。
二人とも何か作業をしていたようだが、私が来たのを見て立ち上がる。

「まだラファエルが来ていないんだ。座って待っていてくれ」

「はい。……来るのはラファエル様だけですか?」

「ああ。ジュディットのことを心配しているのか。
 大丈夫だよ、ジュディットは呼んでいないから。
 ラファエルの婚約者候補になってすぐに王宮で教師をつけられている。
 上級クラスの授業についていけないようだったから、
 学園を休む口実ができて喜んでいるだろう」

そういえば王妃様がジュディット様に教師をつけると言っていた。
王子妃教育のために学園を休ませるとも聞いたけれど、
こんなに早く教師を手配できるとは思わなかった。

一日でも早くジュディット様に学んでもらいたいのはわかるけど。
こんな大事な時に学園を休ませてしまってもいいのかな。

「ずっと休むのでしょうか?」

「少なくとも、クルナディアの留学生が来ている間は、
 王家としても恥をさらしたくないだろうから休ませるだろうな」

今日、学生会室に呼ばれたのは、クルナディアから留学生が来るのが、
来週からと決まったからだった。

アレク様とラファエル様、そして婚約者候補の私が案内役になることが決まっている。
ラファエル様の婚約者候補になったジュディット様も案内役になるはずだから、
ここに来るのではないかと思ったのだけど、そうではないようだ。

「もしかして、ジュディットも案内役になると思って不安だった?」

「……はい」

「それなら安心していい。ジュディットは案内役にはならないよ」

アレク様の言葉に安心したけれど、それでいいのかとも思ってしまう。

このままラファエル様と結婚すれば王太子妃になる可能性が高いのに、
クルナディアからの留学生を案内できないことが知られたら、
貴族たちが騒ぐのは想像できる。

だけど、クルナディア語を話さずに案内することはできるだろうか。

「留学生はクルナディア語しか話せないのでしょうか?」

「公用語も話せるはずだが、授業でわからないことがあれば、
 クルナディア語で説明したほうがいいこともあるだろう。
 公用語すら話せないジュディットでは何の役にも立たない」

「ラデュイル語は?」

「片言ならわかるかもしれないが、向こうがラデュイル語を学ぶ理由はないからな。
 話せるとは思わないほうがいいだろう」

「そうですか……」

私たちがクルナディア語を話せるように、
留学生もこの国のラデュイル語を話せるのではないかと思ったのだが、
やはりラデュイル語は学んでいないようだ。

魔術が発達したクルナディアから見たら、
ラデュイルは取るに足らない国なのかもしれない。

「来るのは第二王子と公爵令嬢だそうだ」

「その二人は婚約しているのですか?」

「いや、公爵令嬢は王太子妃の妹だそうだ。
 その関係で留学生に選ばれたのだろうけど、婚約者になることはないな。
 クルナディアでも同じ家から王子妃を二人出すことはできない。
 ましてや実の姉妹だから、どこかの家に養子に出すことも難しいだろう」

「そうですか。王太子妃の妹様……」

男女で来るのなら婚約しているのかと思えば違うようだ。
たしかクルナディアの王太子は四年ほど前に結婚していた。
まだお子は産まれていなかったはず。

王太子の弟と王太子妃の妹。
一緒に留学してくるくらいだから、仲はいいのだろうけど。
どんな人が来るんだろう。

「第二王子は俺たちの学年、公爵令嬢はクラリスの学年だそうだ。
 どちらも特別クラスで授業を受けることになる」

「わかりました」

ガチャリと音がしたと思ったら、
ノックもなしに学生会室のドアが開いた。
入ってきたのは疲れた顔をしたラファエル様だった。

「遅れてすまない」

「いや、大丈夫だが、どうかしたのか?」

「ああ、例の令嬢たちがしつこくて」

「例の令嬢たちって……。まだジュディットのことを話していないのか?」

「それを言えば逆上しそうな気がする。
 今のジュディットの評判は良くないからな。
 どうしてジュディットを選んだんだと聞かれると……答えにくい」

「なるほど。それは答えにくいだろうな」

アレク様が素直に納得して、マルス義兄様もうなずいている。

ジュディット様が上級クラスの授業で何も答えられなかったことが知られて、
いつの間にか私と魔石を交換していたことが噂になっていた。

どこかから秘密が漏れたというよりも、
私がバルベナ公爵家を出てから急に特別クラスになったことで、
交換したことに気がついたものがいたらしい。

おそらくアレク様が私に成績を隠さなくていいと言ったことも、
気がつかれた理由の一つだと思う。

今まで評価が高かったこともあるのか、
ジュディット様の評価は急降下してしまった。
こんな状況でジュディット様を婚約者候補にしたと言われたら、
納得しない令嬢がいてもおかしくない。

「とりあえず、今まで話していたことを説明するよ」

「ああ」

アレク様がさっきまで私に説明していたことをラファエル様にも説明する。
そして、ラファエル様に特別クラスにうつるようにと言った。

「俺が特別クラスに?」

「ああ、そうだ。留学生が来ている間は警備の者を集中させたい。
 ラファエルが上級クラスにいたままでは対応が難しくなる。
 全員が特別クラスにいれば、警戒する範囲をせばめられるからな」

「そういうことなら。俺の学力でついていけるかな……」

「そこは俺とマルスでなんとかするよ」

「わかった」

不安そうなラファエル様だが、王子教育を受けているので、
公用語もクルナディア語も話せる。
上級クラスにいるならそれほど問題にはならないと思う。

「歓迎する夜会が行われるのは五日後。
 留学生たちはその二日後から学園に通い始める」

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