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32.予想通りの結果(アレクシス)
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クラリスとマルスに見送られてオダン公爵家を出て、
王宮へと戻りながら今後のことを考える。
バルベナ公爵夫人は追い返したが、あれであきらめるだろうか。
ラファエルからの婚約候補の指名は今日届いているだろうし、
ジュディットはクラリスを必要とするだろう。
同じ王子妃の候補者として一切関わらないわけにもいかず、
俺が守れば安全だとも言い切れない。
どうしたものかと思いながら王宮に着くと、
俺の宮の前で歴史教師のアペール先生が待っていた。
「おかえりなさいませ、アレクシス様」
「アペール先生、どうしたんだ?こんな時間に」
「……アレクシス様が選んだ婚約者候補が、
ジュディット様ではなかったというのは本当でしょうか?」
「ああ、その話か。中で話そう」
もうすでに俺とラファエルの授業は終わっているのに、
王宮に呼ばれた理由には心当たりがあった。
母上がジュディットのために呼んだのだろう。
俺とラファエル、そしてクラリスが学んだ家庭教師は全部で八名。
アペール先生はその中でも一番高齢で、長年王家の家庭教師を勤めている。
いわば、教師の中の代表のような立場だ。
だからこそ、代表で俺に質問しに来たのだと思う。
応接室に通すと、お茶が出てくるのも待てなかったのか、
アペール先生は口を開いた。
「今日、ジュディット様に王妃教育をするようにと、
王妃様より命じられて王宮にあがりました。
ジュディット様がアレクシス様の妃になるからだと思っていたのに、
婚約者候補にしたのはラファエル様だと聞いて……」
「その通りだ。俺はジュディットを選ばなかった」
「なぜですか!私はアレクシス様が王太子になるものとばかり!」
俺のほうが優秀だと思っているアペール先生は、
ずっと俺が王太子になるべきだと思っている。
だから、ジュディットを選ばなかったことを怒っているんだろうけど、
アペール先生は自分が思い違いをしていることを知らない。
まずはアペール先生に真実を教えるところから話さなくては。
「俺がジュディットを選ばなかったことを怒っているのは、
ジュディットを選んだ王子が王太子になると思っているからだよな?」
「え、ええ。その通りです。
血筋も身分も申し分なく、すべてにおいて優秀なジュディット様が」
「ジュディットは優秀じゃないよ」
「は?」
アペール先生はまだ自分が教えていたのがクラリスだとは知らない。
母上が説明すればいいものを、何も言わずに命じたのか。
「アペール先生方がバルベナ公爵家で教えていた相手は、
ジュディットではなく、養女のほうだ」
「ど、どういうことですかな?」
「ジュディットは勉強嫌いなんだ。ラファエルのところに遊びに行きたいからと、
養女に金髪のカツラをつけさせ、ジュディットとして授業を受けさせたらしい」
「そんな馬鹿なことが」
「すぐにわかるよ。ジュディットに王妃教育をさせるんだろう?
だが、ジュディットは今まで一度も授業を受けたことがないんだ。
王妃教育ではなく、七歳の令嬢に教えることから始めなくてはいけないだろう」
「……冗談ではないのですか?」
「ああ、まずは会えばわかるだろう。
八年も教えていたのだから、顔が違うのはすぐにわかるはずだ。
本当のジュディットに授業を受けさせて、
その上でジュディットが王太子妃にふさわしいかどうか考えてほしい」
「わかりました……。他の教師たちにもそう伝えましょう」
こんな遅くに訪ねてきたことを詫びて、アペール先生は帰っていった。
まだ完全に信じたわけではなさそうだが、それもそうか。
王女の血をひく公爵令嬢がそんなことをするとは思わない。
しようとしても、周りが止めるはずだから。
アペール先生が再度訪ねてきたのは三日後だった。
思ったよりも来るのが早いことに驚いたが、
応接室に入るなりアペール先生は俺に向かって頭を下げた。
「どうした?」
「……この前、私が言った発言を取り消させてください。
ジュディット様が王太子妃になるのは無理です」
「そうだろう。俺もそう思うよ」
「いくら王女の娘で公爵令嬢であっても、
あと数年で王子妃にふさわしい教養を身につけさせるのは……。
まさかあんなにもできないとは思いませんでした」
「そうだよな。最低限のこともわからない。
しかも、やる気はないだろう」
「ええ……まったく授業を聞いてもらえませんでした。
私だけではなく、他の授業でもそのようで。
七歳の令嬢に教える方が楽なくらいです」
やはりジュディットは真面目に勉強する気がないようだ。
残された時間は多くはないけれど、
真面目にやれば王子妃として王族に残るくらいはできただろうに。
このままだと他国の王族と関わらせることは難しい。
いくら母上でもすべての教師に否定されたら考え直すだろう。
「はぁぁ。バルベナ公爵家で教えていた時は、素晴らしい令嬢だと思っていたのに。
私たちが教えていたのはいったい誰だったのですか?」
「この前も言った通り、バルベナ公爵家の養女だったクラリスだ。
今はオダン公爵家の養女になり、俺の婚約者候補になっている」
「アレクシス様の婚約者候補ですか!……そうでしたか。
アレクシス様はきちんとふさわしい令嬢を選んでいたのですね」
「ああ、もちろんだ」
七歳の時から八年も教えていた相手だ。
クラリスがどれだけ優秀で王子妃にふさわしいかはよくわかっているだろう。
俺の相手がクラリスだとわかり、アペール先生は満足げにうなずいている。
「さすが、アレクシス様です。
それでは、私はクラリス様を王太子妃として推薦いたします。
おそらく他の教師も賛同すると思います」
「ちょっと待ってくれ。俺はべつに王太子になりたいわけではない。
ラファエルがなるのなら、それもいいと思っている。
だが、ジュディットが王太子妃になるのだけは避けたい」
「ええ、何があったとしても、
ジュディット様を王太子妃にするのは避けなくてはいけません」
「問題は母上だな。いくら義妹の娘だからといっても、肩入れしすぎな気がする。
国の母として、これからの国のことも考えなくてはいけないというのに。
アペール先生にも協力をお願いするかもしれない」
「私にできることでしたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「ああ、頼んだ」
王宮へと戻りながら今後のことを考える。
バルベナ公爵夫人は追い返したが、あれであきらめるだろうか。
ラファエルからの婚約候補の指名は今日届いているだろうし、
ジュディットはクラリスを必要とするだろう。
同じ王子妃の候補者として一切関わらないわけにもいかず、
俺が守れば安全だとも言い切れない。
どうしたものかと思いながら王宮に着くと、
俺の宮の前で歴史教師のアペール先生が待っていた。
「おかえりなさいませ、アレクシス様」
「アペール先生、どうしたんだ?こんな時間に」
「……アレクシス様が選んだ婚約者候補が、
ジュディット様ではなかったというのは本当でしょうか?」
「ああ、その話か。中で話そう」
もうすでに俺とラファエルの授業は終わっているのに、
王宮に呼ばれた理由には心当たりがあった。
母上がジュディットのために呼んだのだろう。
俺とラファエル、そしてクラリスが学んだ家庭教師は全部で八名。
アペール先生はその中でも一番高齢で、長年王家の家庭教師を勤めている。
いわば、教師の中の代表のような立場だ。
だからこそ、代表で俺に質問しに来たのだと思う。
応接室に通すと、お茶が出てくるのも待てなかったのか、
アペール先生は口を開いた。
「今日、ジュディット様に王妃教育をするようにと、
王妃様より命じられて王宮にあがりました。
ジュディット様がアレクシス様の妃になるからだと思っていたのに、
婚約者候補にしたのはラファエル様だと聞いて……」
「その通りだ。俺はジュディットを選ばなかった」
「なぜですか!私はアレクシス様が王太子になるものとばかり!」
俺のほうが優秀だと思っているアペール先生は、
ずっと俺が王太子になるべきだと思っている。
だから、ジュディットを選ばなかったことを怒っているんだろうけど、
アペール先生は自分が思い違いをしていることを知らない。
まずはアペール先生に真実を教えるところから話さなくては。
「俺がジュディットを選ばなかったことを怒っているのは、
ジュディットを選んだ王子が王太子になると思っているからだよな?」
「え、ええ。その通りです。
血筋も身分も申し分なく、すべてにおいて優秀なジュディット様が」
「ジュディットは優秀じゃないよ」
「は?」
アペール先生はまだ自分が教えていたのがクラリスだとは知らない。
母上が説明すればいいものを、何も言わずに命じたのか。
「アペール先生方がバルベナ公爵家で教えていた相手は、
ジュディットではなく、養女のほうだ」
「ど、どういうことですかな?」
「ジュディットは勉強嫌いなんだ。ラファエルのところに遊びに行きたいからと、
養女に金髪のカツラをつけさせ、ジュディットとして授業を受けさせたらしい」
「そんな馬鹿なことが」
「すぐにわかるよ。ジュディットに王妃教育をさせるんだろう?
だが、ジュディットは今まで一度も授業を受けたことがないんだ。
王妃教育ではなく、七歳の令嬢に教えることから始めなくてはいけないだろう」
「……冗談ではないのですか?」
「ああ、まずは会えばわかるだろう。
八年も教えていたのだから、顔が違うのはすぐにわかるはずだ。
本当のジュディットに授業を受けさせて、
その上でジュディットが王太子妃にふさわしいかどうか考えてほしい」
「わかりました……。他の教師たちにもそう伝えましょう」
こんな遅くに訪ねてきたことを詫びて、アペール先生は帰っていった。
まだ完全に信じたわけではなさそうだが、それもそうか。
王女の血をひく公爵令嬢がそんなことをするとは思わない。
しようとしても、周りが止めるはずだから。
アペール先生が再度訪ねてきたのは三日後だった。
思ったよりも来るのが早いことに驚いたが、
応接室に入るなりアペール先生は俺に向かって頭を下げた。
「どうした?」
「……この前、私が言った発言を取り消させてください。
ジュディット様が王太子妃になるのは無理です」
「そうだろう。俺もそう思うよ」
「いくら王女の娘で公爵令嬢であっても、
あと数年で王子妃にふさわしい教養を身につけさせるのは……。
まさかあんなにもできないとは思いませんでした」
「そうだよな。最低限のこともわからない。
しかも、やる気はないだろう」
「ええ……まったく授業を聞いてもらえませんでした。
私だけではなく、他の授業でもそのようで。
七歳の令嬢に教える方が楽なくらいです」
やはりジュディットは真面目に勉強する気がないようだ。
残された時間は多くはないけれど、
真面目にやれば王子妃として王族に残るくらいはできただろうに。
このままだと他国の王族と関わらせることは難しい。
いくら母上でもすべての教師に否定されたら考え直すだろう。
「はぁぁ。バルベナ公爵家で教えていた時は、素晴らしい令嬢だと思っていたのに。
私たちが教えていたのはいったい誰だったのですか?」
「この前も言った通り、バルベナ公爵家の養女だったクラリスだ。
今はオダン公爵家の養女になり、俺の婚約者候補になっている」
「アレクシス様の婚約者候補ですか!……そうでしたか。
アレクシス様はきちんとふさわしい令嬢を選んでいたのですね」
「ああ、もちろんだ」
七歳の時から八年も教えていた相手だ。
クラリスがどれだけ優秀で王子妃にふさわしいかはよくわかっているだろう。
俺の相手がクラリスだとわかり、アペール先生は満足げにうなずいている。
「さすが、アレクシス様です。
それでは、私はクラリス様を王太子妃として推薦いたします。
おそらく他の教師も賛同すると思います」
「ちょっと待ってくれ。俺はべつに王太子になりたいわけではない。
ラファエルがなるのなら、それもいいと思っている。
だが、ジュディットが王太子妃になるのだけは避けたい」
「ええ、何があったとしても、
ジュディット様を王太子妃にするのは避けなくてはいけません」
「問題は母上だな。いくら義妹の娘だからといっても、肩入れしすぎな気がする。
国の母として、これからの国のことも考えなくてはいけないというのに。
アペール先生にも協力をお願いするかもしれない」
「私にできることでしたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「ああ、頼んだ」
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