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15.新しい家族 (時系列は8の後になります)

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アレク様と抱きしめあっていたら、ドアがノックされる音が大きく聞こえた。
そうだった、マルス様を待たせていたのだった。
慌ててアレク様から離れて服が乱れていないか確認する。

離れてしまった私にアレク様は少し不満そうだったけれど、
少し大きな声でマルス様を呼んだ。

「悪かったな、マルス。もう入って良いぞ」

「はい。お話はすみましたか?」

「妃になるのは了承してもらった。他の話はこれからだ」

「そうですか」

他の話って何だろうと首を傾げたら、
マルス様が向かい側のソファに座る。

「今はオダン公爵家のマルスとして話させてもらうよ」

「はい」

「クラリス様はオダン公爵家の養女になった」

「…………はい?」

「すぐには納得できないとは思うが、
 これから説明するから聞いてほしい」

「……はい」

私がオダン公爵家の養女になったと言われ、
何を言われているんだろうかと思ったけれど、
マルス様も隣にいるアレク様も真面目な顔をしている。

もしかして、冗談ではなかったりするの?

「君のお義姉様、ジュディット様が、
 王子の婚約者候補に選ばれる予定なのは知っているよね?」

「はい」

アレク様も噂になっていたけれど、選ばなかった。
ラファエル様は予定通り選ぶのだろうか。

「そうなると、同じ公爵家から二人の婚約者候補が出てしまう。
 さすがに筆頭公爵家とはいえ、他の貴族家から不満がでるだろう」

「あ、そうですね」

「だから、クラリス様はオダン公爵家が養女とすることが決まった。
 つまり、私の妹になるわけだ」

「マルス様がお義兄様に?」

「……いい。お義兄様か。クラリス、もう一度言って欲しい」

「え?……お義兄様?」

「ああ、うちは上に兄が二人いる。私のことはマルス義兄様と呼んでほしい」

「わかりました。マルス義兄様。
 これからよろしくお願いいたします」

「ああ、もちろんだ!」

そんなにお義兄様と呼んでほしかったのか、
マルス義兄様が見たことがないほどの笑顔になる。

「クラリス、というわけでマルスが君の兄になった。
 これから帰る家はオダン公爵家になる」

「……そういうことになるのですね。
 もうバルベナ公爵家には帰らなくていいのですか?」

私がいなくなったら、お義姉様は怒るだろう。
お義姉様の代わりに課題や刺繍をするものがいなくなるから。

それにお母様も怒るに違いない。
あの家では私の他に魔石を作れるものがいない。

王家には月に二度魔石を納めているはず。
すぐに困って私を呼び出すに違いない……。
どうしよう。どこまでアレク様に言っていいのだろうか。

「クラリス、帰らなくていい。
 バルベナ公爵家が困ったとしても、それは自業自得だ。
 そうじゃないか?」

「自業自得。それはそうなのですが、
 私を連れ戻そうとするのではないですか?」

「大丈夫だ。もうクラリスはバルベナ公爵家の籍を抜けている。
 オダン公爵家の長女となっているんだ。
 連れ戻そうとしても無理だよ。
 王家がその書類を認めてしまったのだからね」

もう書類が整っていると聞いて、驚いた。
王家も認めているなんて……本当に?

「お母様がそれを認めたのですか?」

「いや、この件に公爵夫人は関係ない。
 正式にバルベナ公爵家の養女になったからには、
 公爵の署名一つで籍を抜くことができる」

「お母様は知らないということですね?」

「ああ、バルベナ公爵が一人で決めたことだ。
 恥かしくてどこにも嫁げないような養女ならいらないと」

恥かしくてどこにも嫁げない養女。
わかっていたことだけど、お義父様は私をそんな風に思っていたんだ。

きっと私を逃がさないようにするために、
お母様がお義父様にそう言ったのだろうけど、
そのおかげで籍を抜いてくれることになったとは。

そうね。お母様の自業自得かもしれない。

「今日は早退してマルスと一緒にオダン公爵家に帰ってもらう。
 二週間は学園を休んで、オダン公爵での生活に慣れてくれるか?」

「二週間も休むのですか?」

「ああ。その間に学生には魔石の登録と再試験をしてもらう」

「え?」

「クルナディアから留学生が来るからね。
 少しの不備もないように、教師の目の前ですべて行ってもらう」

学園で魔石の登録と試験……そんなことをすれば。

「ジュディットは困るだろうね」

「お義姉様は素直に受けるでしょうか?」

「受けさせるよ。それをしなかったら退学だと言うから。
 この学園を卒業しなければ王子妃にはなれない。
 さぁ、どっちを選ぶだろうな」

楽しそうに笑うアレク様とマルス義兄様。
お義姉様が素直に試験を受けた場合、基礎クラスになる可能性が高い。
だって、王家から派遣されてきた家庭教師の授業を、
お義姉様は一度も受けていないのだから。

あとでやる、自分でするから大丈夫。
私は忙しいんだからクラリスが受けておいて。
そんな風に押しつけられ、金髪のカツラをつけて授業を受けた。

いつ入れ替わりが終わるのかと思っていたけれど、
結局最後まで私が授業を受けることになってしまった。

おかげで公用語もクルナディア語も、
歴史や地理、算術などの教養も、
公爵令嬢としての礼儀作法も刺繍も身についた。

だけど、お義姉様はそれらが一切できないままだ。
自分でやるなんて言っていたけれど、勉強している姿なんて見たことがない。
だからこそ私を一生離さないつもりだったのだろうけど。

「絶対に、お義姉様は私を連れ戻そうとすると思います」

「わかっているよ。だからこそ、オダン公爵家にしたんだ」

「え?」

「騎士団長の家だよ?若い団員たちが屋敷内で訓練をしているような家だ。
 もし無理やりクラリスを連れて帰ろうとしても、
 騎士たちに追い返されるだろうね。
 バルベナ公爵家の身分を使おうとしても、同じ公爵家では通用しない」

アレク様は自信ありげにそういうと、マルス義兄様を見る。
マルス義兄様も大きくうなずいて胸をたたいた。

「大事な妹クラリスを連れ戻そうとするなんて、
 この兄が許すわけがないだろう。
 家族みんなで守るからな、クラリス」

「……ありがとうございます」

この兄が許すわけがない、家族みんなで守る。
私を大事な妹だと、家族だと思ってくれるなんて。
うれしくて涙がこぼれた。

「え、あ、どうしたんだ?」

「クラリス?そんなに不安なのか!
 絶対に守るからな!兄にまかせろ!」

「だ、大丈夫です。家族だって、妹だって言われてうれしくて。
 ずっと温かい家族にあこがれていたんです」

私が不安で泣いたのではないとわかって、
アレク様とマルス様はほっとしている。

「そうだな。バルベナ公爵家はクラリスの家族ではなかったな。
 オダン公爵家では好きなだけ可愛がられるといい」

「ああ、兄になんでも言っていいんだぞ」

「ふふふ。今はもう十分です」


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