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12.認めさせたい(アレクシス)

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「バルベナ公爵家の連れ子のほうを妃候補にしたいって、
 アレクシス様は頭がおかしくなったのですか?」

「どうしてそう思う?」

「だって、基礎クラスじゃないですか。
 話にならないですよ。
 アレクシス様は王太子になるんですよ?」

「俺は別に王太子になりたいわけじゃないんだが」

「それでも!王子妃にだとしても、あの令嬢では無理です!」

マルスがそう言うのもわかる。
学生会なら学生の名簿を入学前に見ることができる。

クラリス・バルベナは基礎クラスに名前があった。
公爵令嬢としてはありえない成績だということだ。

そして、学生会長だけ見ることができる書類に、
課題と魔石の結果も書かれていた。

クラリスの提出した魔石の魔力量は標準となっていた。
魔石は魔力量によって特級、上級、中級、標準、下級、下級以下にわけられる。
標準というのは、子爵家か伯爵家あたりの魔力量だと言われている。

あの時の腕輪の魔術具に入っていた魔石は、
上級以上でなければ補充できないと後から知った。
それをクラリスは七歳の時に補充することができたのだから、
標準という結果は信じられない。

そして、ジュディットの成績は特別クラスで魔石は特級。
元王女と公爵との娘だからあり得ない成績ではないけれど、
ジュディットが優秀だとは思えなかった。

どうにかして再度調べるように学園長を説得できないかと悩んでいたら、
入学してきたジュディットが学生会室に押しかけて来た。

制服姿なのに、きつい香水の匂いとしっかりされた化粧。
髪には大きなリボンに装飾品。
令嬢たちのあこがれの存在と言われているが、本当にこれが?

見た目は悪くないのかもしれないが、
その他のことが減点すぎて受けつけられない。

会ってしまった時はいつも素っ気ない態度であしらっているのに、
ジュディットは何も気にしないのか俺に関わろうとする。
いい加減、うんざりしてきた。

「アレクシス、会いに来てあげたわ」

「ジュディット、何の用事だ」

「え?ラファエルとはお昼に会えるけど、アレクシスは忙しいって言って、
 なかなか私と会えないでしょう?
 だから、私の方から会いに来てあげたのよ」

ため息しか出ない。誰がジュディットと会いたがるものか。
口を開けは誰かの悪口か自慢しか話さない。
その中にはクラリスの悪口も含まれていて、とても聞いていられない。
ここが学生会室なのを理由にして早く追い返してしまおう。

「学生会室は関係者以外立ち入り禁止だ。出て行ってくれ」

「そんなの別にいいじゃない」

「ここには学園の内部資料も置いてある。
 一般の学生が見ていいものではないんだ。
 問題を起こせば特別クラスから落ちることになるぞ」

「っ!」

さすがにそれは嫌なのかジュディットは悔しそうに黙った。
特別クラスは授業もないし、いろいろと優遇されている。
クラスを落とされたくないのは当然だろう。

そう言えばここにはマルスもいるしちょうどいいと思い、
出て行こうとしたジュディットに公用語で話しかけた。

公用語はこの大陸の五国が他国と話す時に使う言語。
高位貴族なら話せて当然だ。

『なぁ、ジュディット。毎日ラファエルと昼食を取っているのか?』

「え?今、なんて言ったの?」

『最近も母上とお茶会をしたようだが、俺たちのことで何か言われたか?』

「もう、何を言っているのかわからないわよ!」

そう怒鳴るとドアを思いきり閉めて出て行った。
ため息をついて振り返ると、マルスが呆然としていた。

「……今の、ジュディット様ですよね?」

「ああ、そうだ。公用語もわからないのに、
 特別クラスにいるなんてあり得ると思うか?」

「いえ、あり得ないです。どういうことですか?」

俺はクラリスとジュディットの魔石が交換されている可能性を説明する。
だが、クラリスの悪評を知っているマルスは信じ切れないようだった。

マルスとクラリスを会わせて話をすれば解決すると思ったが、
クラリスと話すのが難しい。
基礎クラスの教室まで迎えに行けば噂になるし、
また夫人がクラリスを叱責するのは目に見えていた。

そんな時、クラリスが令嬢たちに呼び出されていることを知り、
偶然を装って助けに入った。
怪我をしたのを理由にして学生会室へと連れて行く。


クラリスには公用語ではなく、もっと難しいクルナディア語で話しかけた。
優秀なマルスでもかなり苦労してようやく話せるようになった言葉だ。
クラリスは突然クルナディア語で話しかけられたのに、
問題なくクルナディア語で答えた。

とても流暢なクルナディア語だった。
これなら王妃になっても問題がないほどに話せていた。

さすがに実際に話しているところを見たマルスは、
悪評は嘘だったことに気がついてクラリスに謝っていた。
マルスは頭が固いところはあるが、その分誠実な男だ。

クラリスが学生会室を出て行った後、
俺とマルスはこれからのことを相談し始める。

「これでもう文句はないだろう?」

「ありません。魔石を交換していたことが事実なら、大きな問題です。
 早くバルベナ公爵家からクラリス嬢を引き離さなくてはいけません」

「ああ、そのとおりだ。オダン公爵と夫人に話をつけてくれるか?」

「話はしてあります」

「早いな?」

マルスはクラリスのことを疑っていたはずなのに、
もうすでに話をしてくれていたとは。

「この前、ジュディット様が公用語を話せなかった時点で、
 可能性はあるとは思っていました。
 話を聞いた両親は、最終的な判断を俺に任せると言っていました」

「そうか。いつ訪問すればいい?」

「なるべく早い日程で調整しましょう」

「頼んだ」

その三日後、オダン公爵家を訪問して公爵と夫人に許可を得る。
それから必要な書類をそろえ、
すべての用意ができた時点で父上と母上に謁見を申し込んだ。

息子としてではなく、第一王子アレクシスとして。

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