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10.魔石(アレクシス)
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「これに魔力を入れればいいのですね?」
「は?」
クラリスは魔術具にふれると、
中に入っている魔石に魔力を入れ始めた。
魔力を持っている者は三歳頃から自然に放出できるとは聞いている。
だけど、この魔石に魔力を入れられるほどの魔力量の者というと……。
派遣されてきたクルナディアの魔術師の中でも限られているのに。
「はい。いっぱいになりました。
これでバレませんね」
そう言ってにっこり笑ったけれど、
これがどれほどのことを意味するのか気づいた俺は笑えなかった。
深刻な顔をしていることに気がついたのか、
クラリスもまずいと思ったようだ。
「あ、あの」
「クラリス、誰にも言わないから教えてくれ。
魔石に魔力を入れることに慣れているんだな?」
「…………内緒にしてくれますか?」
「もちろんだ。約束する」
クラリスの話は予想通りだった。
王都に結界を張るようになってから、
高位貴族は魔石を納めることが義務付けられた。
王都を守ることは自分たちの生活も守ることになる。
そのことは問題ないと思う。
だが、バルベナ公爵家から納められている魔石は、
クラリスが一人で魔力を込めているという。しかも、五歳の頃から。
貴族家ごとに割り振られた量の魔石に、
誰が魔力を込めるのかはその貴族家による。
当主夫妻以外に魔石を作らせることも可能だ。
だが、令息令嬢がする場合は十二歳以上でなければならない。
王家からの通達でそう決められている。
それなのに、五歳から一人でさせられているとは……。
「これは絶対に内緒だってお母様が……。
知られたら公爵家から追い出されてしまうって」
「そうか」
どうやら内緒にしておくようにと言われていたのを、
すっかり忘れていたらしい。
俺が困っていたから助けようとしてくれたのだろうけど。
しっかりしているように見えても、まだ七歳なんだもんな。
公爵家から追い出されると言うのは夫人の嘘だろう。
内緒にさせていた理由はわかる。
子どものクラリスに魔石作りをさせているのが知られれば、
王家から処罰を受けることになるからだ。
これを俺が父上に話してしまえば、大きな問題になる。
夫人も罰を受けるだろうが、離縁されるほどではないと思う。
これからも公爵家で生活していくことを考えたら、
このことは内緒にしておいたほうがいい。
涙目になっているクラリスの頭を撫でて、
安心させるように約束をする。
「大丈夫だ。俺は何も言わない。
クラリスは俺を助けようとしてくれたんだろう?
そのクラリスが困るようなことはしないよ」
「あ、ありがとうございます」
安心したのか、ほっとしたように笑った。
よかった。クラリスには泣いてほしくない。
笑ったらこんなにも可愛いし、俺も安心する。
気が緩んだからか、思わず愚痴を言ってしまった。
「俺もクラリスみたいに魔力を外に出せたらいいのにな」
「アレクシス様は出せないのですか?」
「ああ。自然に放出することができない体質らしくて、
どうやって出すのかわからないんだ」
魔術師もどうしていいのかわからないようだった。
放出できない体質なのだろうとは言われたが、
それを治すことができるのかどうかもわからなかった。
魔力を放出できるようにならなかったら、
俺は年々増えていく魔力で、いつか身体がダメになってしまう。
魔術師たちが新しい腕輪を作り出してくれるのを待っているだけ。
あきらめ始めていた俺に、クラリスは一生懸命教えようとする。
「えっとね、魔石ってとても冷たいんです。
だから、温めようとすると指先から魔力が出てきます」
「温めようとすると出てくる?」
「そう。あ、私の手を温めてみてください」
差し出されたクラリスの手をにぎると、さっきより冷たくなっていた。
魔力をたくさん使ったからか、指先が冷たそうだ。
俺のために魔力を込めてくれたんだよなと思うと、
申し訳ないような、うれしいような不思議な感じがした。
少しでもクラリスの冷たい手が温まればいいと思って、
きゅっと握って温めようとする。
するりと指先から何かが抜けた気がした。
「あ!それ!」
「え?」
「今のアレクシス様の魔力です!続けて!」
「今のが?」
続けてと言われてもどうしたらいいのかわからない。
クラリスの手を温めようとすればいいのかと思い、
もう一度きゅっと握る。
今度は確実に何かが指先から抜けていくのを感じた。
これが魔力を込めるということか……。
魔力を放出することができた。
これで俺は死ななくていい!
もう、父上や母上、ラファエルたちを悲しませないで済むんだ!
うれしくてずっと魔力を流していたら、
途中でクラリスに止められる。
「アレクシス様、私に魔力を渡し過ぎです。
今度はアレクシス様の手が冷えてしまいますよ?」
「あ、そうか」
やりすぎたかと思ったら、クラリスが手を温めてくれる。
じんわりと身体の中に熱が入り込んできて、
これがクラリスの魔力なのがわかった。
身体だけじゃなく、心まで温まっていくみたいだ。
まるで生まれ変わったような気持ちになる。
うれしくてうれしくて、クラリスを抱きしめた。
「感謝するよ、クラリス!」
「えへへ。お役に立ててうれしいです!」
「何か褒美で欲しいものはないか?」
「は?」
クラリスは魔術具にふれると、
中に入っている魔石に魔力を入れ始めた。
魔力を持っている者は三歳頃から自然に放出できるとは聞いている。
だけど、この魔石に魔力を入れられるほどの魔力量の者というと……。
派遣されてきたクルナディアの魔術師の中でも限られているのに。
「はい。いっぱいになりました。
これでバレませんね」
そう言ってにっこり笑ったけれど、
これがどれほどのことを意味するのか気づいた俺は笑えなかった。
深刻な顔をしていることに気がついたのか、
クラリスもまずいと思ったようだ。
「あ、あの」
「クラリス、誰にも言わないから教えてくれ。
魔石に魔力を入れることに慣れているんだな?」
「…………内緒にしてくれますか?」
「もちろんだ。約束する」
クラリスの話は予想通りだった。
王都に結界を張るようになってから、
高位貴族は魔石を納めることが義務付けられた。
王都を守ることは自分たちの生活も守ることになる。
そのことは問題ないと思う。
だが、バルベナ公爵家から納められている魔石は、
クラリスが一人で魔力を込めているという。しかも、五歳の頃から。
貴族家ごとに割り振られた量の魔石に、
誰が魔力を込めるのかはその貴族家による。
当主夫妻以外に魔石を作らせることも可能だ。
だが、令息令嬢がする場合は十二歳以上でなければならない。
王家からの通達でそう決められている。
それなのに、五歳から一人でさせられているとは……。
「これは絶対に内緒だってお母様が……。
知られたら公爵家から追い出されてしまうって」
「そうか」
どうやら内緒にしておくようにと言われていたのを、
すっかり忘れていたらしい。
俺が困っていたから助けようとしてくれたのだろうけど。
しっかりしているように見えても、まだ七歳なんだもんな。
公爵家から追い出されると言うのは夫人の嘘だろう。
内緒にさせていた理由はわかる。
子どものクラリスに魔石作りをさせているのが知られれば、
王家から処罰を受けることになるからだ。
これを俺が父上に話してしまえば、大きな問題になる。
夫人も罰を受けるだろうが、離縁されるほどではないと思う。
これからも公爵家で生活していくことを考えたら、
このことは内緒にしておいたほうがいい。
涙目になっているクラリスの頭を撫でて、
安心させるように約束をする。
「大丈夫だ。俺は何も言わない。
クラリスは俺を助けようとしてくれたんだろう?
そのクラリスが困るようなことはしないよ」
「あ、ありがとうございます」
安心したのか、ほっとしたように笑った。
よかった。クラリスには泣いてほしくない。
笑ったらこんなにも可愛いし、俺も安心する。
気が緩んだからか、思わず愚痴を言ってしまった。
「俺もクラリスみたいに魔力を外に出せたらいいのにな」
「アレクシス様は出せないのですか?」
「ああ。自然に放出することができない体質らしくて、
どうやって出すのかわからないんだ」
魔術師もどうしていいのかわからないようだった。
放出できない体質なのだろうとは言われたが、
それを治すことができるのかどうかもわからなかった。
魔力を放出できるようにならなかったら、
俺は年々増えていく魔力で、いつか身体がダメになってしまう。
魔術師たちが新しい腕輪を作り出してくれるのを待っているだけ。
あきらめ始めていた俺に、クラリスは一生懸命教えようとする。
「えっとね、魔石ってとても冷たいんです。
だから、温めようとすると指先から魔力が出てきます」
「温めようとすると出てくる?」
「そう。あ、私の手を温めてみてください」
差し出されたクラリスの手をにぎると、さっきより冷たくなっていた。
魔力をたくさん使ったからか、指先が冷たそうだ。
俺のために魔力を込めてくれたんだよなと思うと、
申し訳ないような、うれしいような不思議な感じがした。
少しでもクラリスの冷たい手が温まればいいと思って、
きゅっと握って温めようとする。
するりと指先から何かが抜けた気がした。
「あ!それ!」
「え?」
「今のアレクシス様の魔力です!続けて!」
「今のが?」
続けてと言われてもどうしたらいいのかわからない。
クラリスの手を温めようとすればいいのかと思い、
もう一度きゅっと握る。
今度は確実に何かが指先から抜けていくのを感じた。
これが魔力を込めるということか……。
魔力を放出することができた。
これで俺は死ななくていい!
もう、父上や母上、ラファエルたちを悲しませないで済むんだ!
うれしくてずっと魔力を流していたら、
途中でクラリスに止められる。
「アレクシス様、私に魔力を渡し過ぎです。
今度はアレクシス様の手が冷えてしまいますよ?」
「あ、そうか」
やりすぎたかと思ったら、クラリスが手を温めてくれる。
じんわりと身体の中に熱が入り込んできて、
これがクラリスの魔力なのがわかった。
身体だけじゃなく、心まで温まっていくみたいだ。
まるで生まれ変わったような気持ちになる。
うれしくてうれしくて、クラリスを抱きしめた。
「感謝するよ、クラリス!」
「えへへ。お役に立ててうれしいです!」
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