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9.あの日の出会い(アレクシス)
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お茶会の場に向かおうとして、身体の異変に気がつく。
これは……まずいかもしれない。
突然立ち止まった俺に双子の弟ラファエルが心配そうに振り返った。
「どうした?もしかして、またか?」
「ああ……母上には言っておいてくれ」
「わかった」
王妃の庭に入った俺は、お茶会の場ではなく奥にある小屋へと向かう。
魔力を抑えきれなくなった時にやり過ごすための小屋だ。
ラファエルと双子で生まれたが、俺だけ桁違いな魔力を持っていた。
その分、期待されていたようだが、俺は魔力を外に出すことができなかった。
貴族なら差はあっても誰でも魔力を持っている。
普通なら、三歳くらいには自然に魔力を放出することができる。
それができない場合、多すぎる魔力は身体を傷つけてしまう。
五歳になった時に倒れ、魔力が貯まりすぎていることがわかった。
足りない場合は魔力を注いで補うことはできても、
この国の医術では魔力を抜くことはできなかった。
六歳になった頃、貯まる一方の魔力に身体が振り回され、
体調を崩すことが多くなった俺に、
国王である父上は隣国クルナディアに助けを求めた。
我が国よりも魔術の研究が進んでいるクルナディアならば、
俺の身体も治すことができるだろうと。
同盟国の幼い王子が命を失うかもしれないということで、
クルナディアの国王はすぐに手配してくれた。
クルナディアから派遣されてきた魔術師は俺の状態を調べて、
魔力を放出させるための腕輪を作ってくれた。
その腕輪をつけて魔力を調整することで体調を崩すことはなくなった。
それに喜んだ父上がクルナディアから魔術具を輸入することを決め、
たくさんの魔術具が王宮で使われるようになった。
今の王都を守っている結界もその一つだ。
ただ、クルナディアの魔術師でもこれほど魔力が多いとは予想外だったのか、
八歳を過ぎた頃から放出が追いつかず、また体調を崩すようになってしまった。
魔術師たちが新しい腕輪を作ろうとしてくれているが、
放出する力を強めるのは難しいらしく難航している。
もし、魔力が貯まりすぎて身体が耐えきれなくなれば、
魔力暴走を起こしてしまうかもしれない。
万が一のことを考え、
危なくなった時に俺が一人でこもれるように小屋が用意された。
誰も来ることがない王妃の庭の奥。
ここなら魔力暴走が起きても誰も巻き込まずにすむ。
ラファエルも護衛も使用人も、
小屋に来るときは俺についてこようとしない。
たった一人で小屋へと向かう。
今日のお茶会はバルナベ公爵家の夫人と令嬢二人だと聞いていた。
どちらも俺たちより二つ年下で七歳になったばかり。
ようやく王宮に招待できると母上が笑っていた。
話を聞いたら、公爵夫人は後妻で連れ子を養女にしたらしい。
もう一人の令嬢は降嫁した叔母が産んだ従妹。
母上がその従妹のことを大事にするように言っていた。
ラファエルは何も考えていないようで会えるのを喜んでいたけど、
俺はあまり会いたいと思わなかった。
俺とラファエルを会わせるのは、
将来の妃候補に考えているからだと思った。
その従妹と結婚する方が王太子になるのだろう。
気が重かったから、会わなくて済んでよかったかもしれない。
そんなことを考えながら小屋に着いたら、
小屋の中を覗いている小さな女の子がいた。
高価そうなドレス姿だから、どこかの貴族令嬢か。
王妃の庭にどうしているんだと思って声をかけてみたら、
お茶会に招待されたバルナベ公爵家の令嬢だった。
思わず身構えそうになったけれど、連れ子の方だと聞いてほっとする。
この子は妃候補として紹介されるために来たわけじゃないし、
どうやら夫人に邪魔だと言われて追い出されたようだ。
連れ子だからって、この子のせいじゃないのにな。
濃い茶色の髪は貴族令嬢としては評価が悪いかもしれない。
それでもはっきりとした緑目は綺麗だし、よく見れば顔立ちも整っている。
美しい令嬢に見えないのはおどおどした態度と、
怒られるんじゃないかって不安そうな顔をしているからだ。
なんとなくバルベナ公爵家の内情が見えた気がして、
まだ会ったこともない夫人と従妹の意地の悪さが想像できた。
あまりにも不安そうにしているから、思わず頭を撫でてしまった。
四歳下の弟と同じくらいの身長だったからかもしれない。
お茶会に戻れないなら一緒に遊べはいいかと思って、手をつないで奥へと向かう。
クラリスを楽しませようと王妃の庭をあちこち連れまわして、
俺が体調を崩していたのをすっかり忘れていた。
気がついた時には魔力が貯まり切った身体が重くてうずくまる。
「どうしたのですか!?」
「……魔力が貯まっただけだ。少しすれば、落ち着く。
魔力暴走するかもしれないから、離れていて……」
魔術具の腕輪が急作動して、魔力を放出しているのがわかる。
ゆっくりだけど、少しずつ身体は楽になっていく。
時間にしてみればニ十分ほどのことだったが、
苦しんでいる俺には数時間にも感じられた。
顔を上げたら、クラリスはすぐそこに立っていた。
離れてと言ったのに、離れなかったのか。
「……もう、大丈夫だと思う」
「誰かに言って水をもらってきましょうか?」
「いや、いい。あまり大げさにしたくないんだ。
あ……でも、こんなに魔石を消耗してしまったらバレてしまうか」
いつもよりも放出している時間が長かった。
その分、腕輪の魔石も消耗しているはずだ。
魔術師にお願いして魔力を補充してもらわなくてはいけない。
「これに魔力を入れればいいのですね?」
「は?」
これは……まずいかもしれない。
突然立ち止まった俺に双子の弟ラファエルが心配そうに振り返った。
「どうした?もしかして、またか?」
「ああ……母上には言っておいてくれ」
「わかった」
王妃の庭に入った俺は、お茶会の場ではなく奥にある小屋へと向かう。
魔力を抑えきれなくなった時にやり過ごすための小屋だ。
ラファエルと双子で生まれたが、俺だけ桁違いな魔力を持っていた。
その分、期待されていたようだが、俺は魔力を外に出すことができなかった。
貴族なら差はあっても誰でも魔力を持っている。
普通なら、三歳くらいには自然に魔力を放出することができる。
それができない場合、多すぎる魔力は身体を傷つけてしまう。
五歳になった時に倒れ、魔力が貯まりすぎていることがわかった。
足りない場合は魔力を注いで補うことはできても、
この国の医術では魔力を抜くことはできなかった。
六歳になった頃、貯まる一方の魔力に身体が振り回され、
体調を崩すことが多くなった俺に、
国王である父上は隣国クルナディアに助けを求めた。
我が国よりも魔術の研究が進んでいるクルナディアならば、
俺の身体も治すことができるだろうと。
同盟国の幼い王子が命を失うかもしれないということで、
クルナディアの国王はすぐに手配してくれた。
クルナディアから派遣されてきた魔術師は俺の状態を調べて、
魔力を放出させるための腕輪を作ってくれた。
その腕輪をつけて魔力を調整することで体調を崩すことはなくなった。
それに喜んだ父上がクルナディアから魔術具を輸入することを決め、
たくさんの魔術具が王宮で使われるようになった。
今の王都を守っている結界もその一つだ。
ただ、クルナディアの魔術師でもこれほど魔力が多いとは予想外だったのか、
八歳を過ぎた頃から放出が追いつかず、また体調を崩すようになってしまった。
魔術師たちが新しい腕輪を作ろうとしてくれているが、
放出する力を強めるのは難しいらしく難航している。
もし、魔力が貯まりすぎて身体が耐えきれなくなれば、
魔力暴走を起こしてしまうかもしれない。
万が一のことを考え、
危なくなった時に俺が一人でこもれるように小屋が用意された。
誰も来ることがない王妃の庭の奥。
ここなら魔力暴走が起きても誰も巻き込まずにすむ。
ラファエルも護衛も使用人も、
小屋に来るときは俺についてこようとしない。
たった一人で小屋へと向かう。
今日のお茶会はバルナベ公爵家の夫人と令嬢二人だと聞いていた。
どちらも俺たちより二つ年下で七歳になったばかり。
ようやく王宮に招待できると母上が笑っていた。
話を聞いたら、公爵夫人は後妻で連れ子を養女にしたらしい。
もう一人の令嬢は降嫁した叔母が産んだ従妹。
母上がその従妹のことを大事にするように言っていた。
ラファエルは何も考えていないようで会えるのを喜んでいたけど、
俺はあまり会いたいと思わなかった。
俺とラファエルを会わせるのは、
将来の妃候補に考えているからだと思った。
その従妹と結婚する方が王太子になるのだろう。
気が重かったから、会わなくて済んでよかったかもしれない。
そんなことを考えながら小屋に着いたら、
小屋の中を覗いている小さな女の子がいた。
高価そうなドレス姿だから、どこかの貴族令嬢か。
王妃の庭にどうしているんだと思って声をかけてみたら、
お茶会に招待されたバルナベ公爵家の令嬢だった。
思わず身構えそうになったけれど、連れ子の方だと聞いてほっとする。
この子は妃候補として紹介されるために来たわけじゃないし、
どうやら夫人に邪魔だと言われて追い出されたようだ。
連れ子だからって、この子のせいじゃないのにな。
濃い茶色の髪は貴族令嬢としては評価が悪いかもしれない。
それでもはっきりとした緑目は綺麗だし、よく見れば顔立ちも整っている。
美しい令嬢に見えないのはおどおどした態度と、
怒られるんじゃないかって不安そうな顔をしているからだ。
なんとなくバルベナ公爵家の内情が見えた気がして、
まだ会ったこともない夫人と従妹の意地の悪さが想像できた。
あまりにも不安そうにしているから、思わず頭を撫でてしまった。
四歳下の弟と同じくらいの身長だったからかもしれない。
お茶会に戻れないなら一緒に遊べはいいかと思って、手をつないで奥へと向かう。
クラリスを楽しませようと王妃の庭をあちこち連れまわして、
俺が体調を崩していたのをすっかり忘れていた。
気がついた時には魔力が貯まり切った身体が重くてうずくまる。
「どうしたのですか!?」
「……魔力が貯まっただけだ。少しすれば、落ち着く。
魔力暴走するかもしれないから、離れていて……」
魔術具の腕輪が急作動して、魔力を放出しているのがわかる。
ゆっくりだけど、少しずつ身体は楽になっていく。
時間にしてみればニ十分ほどのことだったが、
苦しんでいる俺には数時間にも感じられた。
顔を上げたら、クラリスはすぐそこに立っていた。
離れてと言ったのに、離れなかったのか。
「……もう、大丈夫だと思う」
「誰かに言って水をもらってきましょうか?」
「いや、いい。あまり大げさにしたくないんだ。
あ……でも、こんなに魔石を消耗してしまったらバレてしまうか」
いつもよりも放出している時間が長かった。
その分、腕輪の魔石も消耗しているはずだ。
魔術師にお願いして魔力を補充してもらわなくてはいけない。
「これに魔力を入れればいいのですね?」
「は?」
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